がんばれ!お兄ちゃん

ひまり

第1話

俺はあいつが嫌いだ。


今日も弟に冷たく当たった。

俺は、いつもそうだ。

問題を解決するために合理的すぎる方法を選んでしまう。


大切な人の気持ちなど顧みずに。


       ◻︎▪︎◻︎


「あ、兄上……」


弟が話しかけてくる。


「なんだ?用があるなら手短にいえ」


俺は、いつも通りの対応をする。

父が満足そうに、母が心配そうに見ている。

だが、会話はそこで終わった。


唐突だが、俺の家は祓い屋というものをして代々生計を立てえいる。それは物怪もののけを祓う職業で、認知度は低く、人口も少ないが、普通に才能があればかなり儲かる。


そして、俺の家はそんな祓い屋の中でも名門、当然裕福で、当然━━


莫大な才能を要する。


俺はこの家の中でも優秀。全く問題はない。


だが、問題は弟だ。


弟は、この家の中では類を見ない落ちこぼれで、当然、周りの目は白い。


まこと……少しいい?」

「どうしましたか。母上」

「シャツのボタンが取れているわ」

「……替えてきます」

「多分……みのるも、さっき、これをいいたかったんじゃないかしら?」


俺は目を見張った。


それと同時に、父が睨み上げながら口を開く。


「忠!誠陵の者としての自覚を持て!あの落ちこぼれのようになるぞ!」


俺は、こいつが嫌いだ。


自分が価値の低いと評価した人物、物事を心底嫌って、罵詈雑言を吐き、人を傷つけることしか脳のない醜悪な爺が。


俺は、弟が好きだ。


自分よりも人を優先することと、人に優しい言葉をかけることを呼吸のように簡単にできる美しい男が。


始まりは恋情だった。

初恋の人である叔母が他界した時期に、五歳の弟が、叔母と瓜二つな顔立ちになっていることに気づき、心臓が高鳴った。


だが、今はこれだけじゃない。

顔も、性格も、恋愛的にも、人間的にも

誠陵実という男を愛している。


だが、そのことをあいつが知ったらどうなるだろう?

俺のことが気に入らなくなり、実に家業を継がせたりなど、無理難題を押し付けるだろう。

それは、俺が、耐えられない。


俺はこいつが嫌いだ。

でも、好きな弟をこいつのために虐げ続けなければならない。



改まって考えると、滅茶苦茶な人生だと思う。

九歳で、叔母に本気の恋をし、その叔母が死去したから今度は同じ顔つきの弟に本気で惚れ込み、結果、嫌われるようなことしかしてないのだから。


でも、それでいい。滅茶苦茶で━━ぐちゃぐちゃでいい。

エゴのために、動くのは大概人間らしいんじゃないか、と俺は思ってしまう。


さっきの飲み会で飲み過ぎたか?


↓この小説の弟が主人公の小説です。

 よかったらどうぞ。

https://kakuyomu.jp/works/16817330651292231141

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