第89話 新人賞は筆力より熱意
前回は、『進撃の巨人』の主人公エレン・イェーガーのインタビューを通じて、人間が他者と関わることの困難さについて書きましたが、今回も他者と関わることで傷つく人々を描いた小説について書いてみたいと思います。
『隣人Ⅹ』(パリュスあや子 講談社文庫)
以前、ポッドキャストの番組『真夜中の読書会 おしゃべりな図書室』で取り上げられ、気になっていた本だったのですが、この週末に一気読みしてしまいました。
この小説、2019年の小説現代長編新人賞受賞作らしいです。
ワナビとしては、新人賞受賞作はテーマ、構成、文章力、センスなどがどれくらいのレベルにあるんだろうと気になります。
遠くアンドロメダ銀河の伴銀河に位置する惑星Ⅹ上の内戦を避け、地球に逃れてきた異星人「惑星難民Ⅹ」を受け入れることとなった近未来の日本。いま暮らしている社会に自分を上手くはめ込めないでいる女性3人が、それぞれの不安や悩み、焦燥を何とかしようと足掻くなか、気づかないうちに「惑星難民Ⅹ」に触れる――というお話なのですが、分かんないですよね。
とにかく色々とてんこ盛りなこの小説は分類不能。ジャンルでいうと、SFで、恋愛小説で、ミステリで、サスペンスで、社会派なんですよ。なんじゃそれと思われるかもしれませんが、ほんとにそうなんです。
新人賞の受賞作らしく、惜しみなく作者のアイデアとテクニックが注ぎ込まれていて消化不良を起こしています。女性の心理描写はうまい、いくつも伏線が張られてる、メタファーは効いている、などとにかく盛沢山。
楽しめますよ。SFの舞台装置を使ってますが、内容は断じてSFではないの安心してください。小説家志望の人が読むと、主人公のひとりが「小説や詩を書いていた……」ってくだりで、ニヤリとしてしまうでしょうし。「とっつきやすさ」や「完成度」ではいまひとつですが、これまで読んだことのない小説に仕上がってるのは確かだと思います。いいものを読みました。オススメです。
12月1日に、この本が原作の映画『隣人Ⅹ』が公開されるそうです。個人的にはぜったい原作の方がおもしろい――と映画を見る前から言っときます。この込み入った内容の小説を映画にするのは無理ですよ。ぜひ、小説で読んでもらいたい。
今回とりあげたのは、パリュスあや子『隣人Ⅹ』でした~。ではまた。
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