第83話 読むと「ちゃんとしなくちゃ」と思う

 前回に引き続き、NHKの番組からエッセイを書いてみます。


『アナザーストーリーズ 手塚治虫 ブラックジャックからの伝言』。先週金曜日に放送された番組なので、NHKプラスで金曜日まで見ることができます。


 手塚治虫の代表作のひとつ『ブラックジャック(BJ)』に焦点を当てたドキュメンタリー。


「漫画の神様」として有名な手塚治虫ですが、BJの連載がはじまった1973年当時の手塚は、雑誌編集者から「終わった漫画家」と位置づけられていて、週刊少年チャンピオンではじまったBJの連載も当初はまったく期待されていませんでした。


 60年代終わりから70年代にかけて、時代遅れの漫画家として雑誌編集者から半ば見捨てられた存在となっていた手塚は、BJの連載が始まった73年に自身が経営するアニメ制作会社(虫プロ)が倒産するなど、どん底状態にあったというのは有名な話。


 漫画のタイトルである「ブラックジャック」というのは主人公の名前です。BJは医師免許を持たない外科医で、神がかった外科手術の腕をもつ反面、執刀にあたっては法外な治療費を請求するため、悪徳医師として忌み嫌われている人物として描かれます。


 番組は、当初期待されておらず、じっさい人気もいまひとつだったBJに熱心な読者がいると雑誌編集者が気づいた経緯や、当時は読者でのちにいまの医療現場を支えるようになった医師たちがBJをどう感じ、影響を受けたのかということについて掘り下げていく構成になっていました。


「医は仁術」という言葉があります。医術というのは、単に技術ではなく人を愛する行為(仁)そのものである――という意味だと思います。


 BJが、患者に高額の治療費を請求する行為は、仁術とは正反対のように思えますが、作中BJが「手術代は◯千万円だ!」と口にするたびに「人命はお金にかえ難い」ということが強く感じられます。


 BJは、命の価値とはなにか、医師は(読者も、ですが)それとどう向き合えばいいのか、という手塚治虫からの問いかけであると同時に回答でもあるという少年誌連載でありながら、テーマは青年層向きの漫画だったと思います。


『ブラック・ジャック』は、数ある手塚作品のなかでも、もっとも手塚の倫理観がわかりやすく表現されている漫画で、戦後知識人の倫理観のひとつの典型がブラック・ジャックを通して描かれているように感じますね。



 わたし、BJ大好きなんで、ちょっと泣きながら見てしまいました。手塚治虫を見習って、読む人を励ますような小説を書かないといけないな〜と思いました。かなりの無理ゲーですが(笑


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