第82話 ドキュメンタリー見て感心してしまった

 7月30日、北海道釧路町で一頭のヒグマが駆除された。DNA鑑定の結果、このヒグマが2019年以来、家畜の牛66頭を襲って数千万円の被害を与えてきた個体――通称OSO18(オソじゅうはち)――と判明した。


 OSO18(最初に牛が襲われた標茶町オソツベツという地名と、当初、足の幅が18cmあるとみられたことから名づけられた。)は、非常に警戒心の強いヒグマで、監視カメラが姿をとらえたのはごく数回。“忍者”ヒグマとして道東の酪農家から恐れられ、全国的にもなっていました。



ということくらいはニュースで知っていて興味があったので、15日のNHKスペシャル『OSO18 ”怪物ヒグマ”最期の謎』を見たのですが――これがすごいドキュメンタリーでした。


 もともとNHKが酪農家に大きな被害を与えているOSO18と北海道庁が立ち上げた対策チームの「戦い」を取材してたようなんです。そこへ8月の20日ごろかな、「OSO18が駆除されたらしい」「もう先月の話で死体は解体業者に売られている」という衝撃的な情報が入ってきたと。


 役所を挙げて対策チームを立ち上げながらクマの捕獲はおろか、駆除されたクマの死体を確保することもできなかったのは、北海道庁の大失態です。捕らえて「ウシを襲うヒグマ」の謎を分析するはずだったんですから。


 なんで駆除したハンターは北海道庁に報告しなかったの? ハンターが役場の職員だったため、なおさら悔やまれる失態でした。(このドキュメンタリーには、駆除したハンターは出演してません。駆除したクマがOSO18であることを見過ごしたことと、そもそもクマ駆除するとはケシカランという批判が、このハンターに殺到したから――だとわたしは思ってます)


 ここまではわたしもニュースで知っていて、今後、こうしたクマの対策を考えないといけませんというニュースの締めに「なるほどなあ」と思っていたのですが、このドキュメントでは、OSO18問題のその後が描かれており、そこに見どころがありました。


 その後、NHKの取材チームは、OSO18が持ち込まれた解体業者に取材していました。動物を解体して肉にし、仲買などを通して飲食店に販売する仕事ですね。


「もう残ってないです」


 意外なことにヒグマは解体されて肉になると、国内はもちろん海外の飲食店へ食材として売られていくらしいです。


 驚いたのは、NHKが番組内でクマを解体する様子を放映したこと。クマをクレーンで吊り上げて皮を剥いでいく様子だったのですが、踏み込んだ描写でした。クマとはいえ、残酷な映像なのでモザイクをかけてお茶を濁す方法もあったと思いますが、もろに映ってました。


 解体業者にはOSO18の死体は残っていませんでした。残った骨は敷地内のゴミ捨て場に他の動物の毛皮や骨、内臓なんかと共に山積みになっていて分からないというのです。


 ――あーあ。


と視聴者が思ったであろうその後、NHKの担当ディレクターがとった行動にまた驚きました。ゴミ捨て場の解体廃棄物の山に取り付くとOSO18の骨を探すために、そこを掘り返しはじめたのです。


 ――マジか。


 普通そんなことしません。動物解体業者のゴミ捨て場になにが捨てられているか、ちょっと考えれば想像できると思います。山のような廃棄物のなかから一頭のヒグマの骨を探し出すことがどれほど大変か。汚い――というレベルを超えてますからね。


 作業すること4時間。NHKのディレクターは見事にOSO18の骨を掘り当て、その骨の分析結果からこのクマが5年ほど前から主に肉を食べるようになったということを突き止めたのです。


 この番組に関してNHKは、熱意のある取材と番組づくりをしてるなーと感じました。動物の死を扱うドキュメンタリーなので、賛否両論あると思いますが。。。


 結論として――北海道では増えすぎたエゾシカを年間10万頭も駆除しているのですが、そのすべてを解体処分することはできず、現場に埋めたり放置したりするんですね。これを本来、積極的にシカやウシを食べたりはしないヒグマが食べて動物の肉の味を覚える。そうしたヒグマの一頭がOSO18で、ウシを襲うヒグマは人間の営みによって生み出された本来的でないヒグマだと。そして、第二、第三のOSO18はいつ現れてもおかしくない――という番組だったのですが。


 番組のラストにもう一度、驚かされました。


 OSO18が駆除されていたことが分かった――というニュースが流れたあと、都内のあるジビエ料理店がSNSで「うちのジビエがOSO18だと分かった」とツイートしたところ、5万件のいいねが集まり、店の予約はすぐにいっぱいになったというのです。


 番組では美味しそうなジビエ鍋の映像と、嬉々として「OSO18鍋」について語る店のお客の映像が流れましたが、その少し前に駆除されたOSO18やその骨の映像を見ていたわたしは、思わずゾッとしましたよ。


 ――なにが怖いって、人間が一番こえーよ。


 見るのは要注意ですが、とてもいいドキュメンタリーだと思いました。

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