第69話 キャンセルカルチャーについて

 先日、新書についてエッセイを書きましたが、新刊の新書を読んだんですよ。それが意外におもしろくてエッセイに書こうとしたら、ちょっと長くなってしまったのが先日の新書エッセイでした。


 どんな本かというと、


 橘玲たちばなあきら『世界はなぜ地獄になるのか』(小学館新書)


 おどろおどろしいタイトルですが、地獄や戦争について書かれた本ではありません。いわゆる「キャンセルカルチャー」についての解説本です。


 キャンセルカルチャーとはなんぞや? と思われた方。最近でいうと、自民党の松川るい女性局長のフランス・パリ視察が「観光旅行」と猛批判を浴びました。松川議員が視察中にエッフェル塔前で塔を模したポーズをとっているショットなどを投稿したことが、ネット上で拡散、炎上し、松川議員が女性局長辞任に追い込まれた「事件」が典型ですね。


 この本によるとキャンセルカルチャーとは、


『公職など社会的に重要な役職に就く者に対して、その言動が倫理・道徳に反しているという理由で辞職(キャンセル)を求める運動』


とあります。


 なるほど。こういう風に整備されると分かりやすいです。その上で、橘玲さんはこのキャンセルカルチャーの起こる理由をつらつらと本一冊にわたって解説してくれます。


 この本では、キャンセルカルチャーが起こる理由を、「より良い社会を実現するために、より自分らしく生きられる社会をめざす(こういう考え方をこの本では『リベラル』と呼んでいる)」考え方や行動様式が、価値観の多様性(たくさんの正義)を生み、立場の異なる正義同士が、SNSなどのネット空間で激しくぶつかり炎上している状態と説明しています。


 わたしは自分のことを「どちらかというとリベラル」な考え方の人間だと思っていて、リベラルがキャンセルカルチャーの元凶だと言われるといささかムッとしますが、たしかにな考えの持ち主は、どこでもトラブルメーカーですよ。


 こういう人たちは「まあまあ、それくらいでいいんじゃない?」という物事において妥協しようとするラインが、標準的な人と違うんですよ。だからトラブル(炎上)になる。己の正義を突き詰めようとして自縄自縛に陥るんですね。不自由になっちゃう。それは分かりますねー。


 この本、リベラル批判の右傾化本のひとつだと思うんですけど(わたしは右傾化本はキライなので普段は読まないんですけど)、著者の橘玲さんの知識というか、引用する事案、事件の選び方が非常に興味深くて、おもしろく読めました。


 わたしがこれまで読んできた(リベラル寄りの)本じゃ、まず取り上げられないだろう眉唾な意見、偏見を助長するかもしれない危うい考え方、サブカル的なニュース等が取り上げられていて、頭から信じ込むのは危険にしても、ある程度情報リテラシーのある人にとってはおもしろいんじゃないですかね。


 地獄――とはいわないけど、世の中が混沌とした様子になってきてるとは感じますね。この先どうなるんでしょう。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る