第34話 成長している実感

 なんのきっかけか忘れましたが、昨日、突然むかしのコンピュータRPGについて調べはじめたわたし。懐かしいなと思いつつ。


 1986年、任天堂のゲーム機、ファミリーコンピューターで『ドラゴンクエスト』が発売され、翌年に『Ⅱ』、翌々年に『Ⅲ』と発売されるに及んで、この国にコンピュータRPGブームがやってきました。


 当時わたしは高校生だったのですが、はじめてコンピュータRPG(以下単に「RPG」と書きます)を遊んだときの衝撃は、いまでもよく覚えています。RPGは、わたしが子どもの頃から遊んできたどんな遊びとも違う特徴があって、わたしはそれに夢中になったのです。


 それは、ゲーム内でプレイヤーキャラクターが成長するという特徴です、ちょっと考えてみましょう。大ヒットボードゲームの「人生ゲーム」でプレイヤーの駒は成長しませんね。コンピュータゲームでも「スーパーマリオブラザーズ」のプレイヤーキャラクター・マリオも成長しません。RPG以前のゲーム内のキャラクターは成長しないのが当たり前でした。


 RPGでは、ゲームを遊んだ時間に応じて「経験値」をプレイヤーに与えてくれ、プレイヤーはこれを貯めることによってプレイヤーキャラクターを「成長(レベルアップ)」させることができます。プレイヤーキャラクターを成長させると、より強力な敵キャラクターを倒すことができるようなり、ゲームクリアに近づくのです。


「スーパーマリオブラザーズ」のマリオもパワーアップしますが、さそれは一時的なボーナス。RPGのレベルアップは一時的なパワーアップではなく、記録(セーブ)することによって、次にゲームを再開したときにレベルを持ち越せるのです。それがこれまでのゲームとは決定的に違っていました。


 RPGのレベルアップシステムは、コンピューターゲームをすごく遊びやすいものに変えた画期的な発明だと思います。RPG以前のコンピューターゲームは、一部の動体視力がよくて指先の器用な人でないと十分に楽しめないアクションゲームが主流でした。


 わたしはアクションゲームが苦手で、面クリ型のゲームだと最初の1面、2面くらいしかクリアできず、せっかく4千円も5千円も出して買ったゲームも数百円分くらいしか楽しめずもやもやしたものを抱えてました。アクションゲームは「選ばれし者」しか楽しめないゲームなんです。


 そうしたコンピューターゲームを一新したのがRPGです。RPGはプレイヤーキャラクターのデータを記録(セーブ)して、次回のプレイ時に持ち越すことによって、時間さえかければだれでも経験値を溜めてレベルアップし、強敵を倒すことができるというシステムのゲームです。


 持ち前の才能ではなく、地道な努力(プレイ時間)が結果に結びつくということです。おおげさにいうと、はじめてRPGを遊んだ時、わたしは強く感動しました。「こんなおれでもクリアできるゲームがあった!」という感動です。当時は、ゲームの攻略記事をネットで読める……という時代ではなかったので、ひとつのゲームをクリアするのはいまよりずっと難しかったのです。それからはずっとRPGをやりこみました。。。


 自分の成長が数字として実感できる。

 それがゲームクリアに直結している。


 あれから37年経ちますが、こういうRPG的(レベルアップしてプレイヤーキャラクターが強くなる)要素をもったゲームって一向に廃れないじゃないですか。それだけ、強い満足をプレイヤーに与えるゲームシステムなんでしょう。



 PVは経験値、☆はレベル。


 カクヨムはPVを溜めて、☆を集めていくRPGのようじゃありませんか?

 わたしがカクヨムをはじめたときは、そういう風にカン違いしていたように思います。PVという経験値をためてレベル(☆)を上げていけば、いずれゲームクリア(受賞、書籍化)できる――という風に。なまじ自分の作品がPVや☆の数で数値化されているがゆえにRPGのように感じたんでしょう。


 でも、現実はRPGとは違いました。


 RPGなら時間をかければかけるだけ経験値は溜まっていくのですが、カクヨムはいくら時間をかけたところで、作品に読者を引き付ける力がないとPVは頭打ちになるんです。RPGならプレイヤーはもれなく伝説の勇者になれるのですが、カクヨムで賞レースの受賞者となるのは、Web作家のうちほんの一握りです。


 自分の成長は実感できない。

 目標を達成することもできない。


 現実はゲームと違って難しいです。

 現実を放り出してゲームの世界に逃げだしたくなるWeb作家の気持ち、よーくわかります。だからでしょうね、カクヨムに異世界転移・転生ものがなくならないのは。RPGの功罪……といったところでしょうか。

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