第33話 短編SFドラマ

 いま、NHKプラスで「藤子・F・不二雄 SF短編ドラマ」という15分の短編ドラマを観ることができるのですが、藤子・F・不二雄のファンであるわたしにはとても楽しいドラマでした。


『ドラえもん』の作者としてだれもが知っている藤子・F・不二雄ですが、子ども向けではないSF短編マンガをいくつも描いていたことでも知られています。『ミノタウロスの皿』や『ひとりぼっちの宇宙戦争』、『カンビュセスの籤』など名作はいくつもあるのですが、今回、短編ドラマとして配信されている『定年退食』も傑作です。



 高齢者の人口比が増大した近未来の社会。政府は配給制度を中心に食料や医療制度の厳格な管理をする一方、定員法を制定して一定年齢以上の高齢者に対する国家の保障を打ち切っていた。


 主人公は、まもなく定年法の2次定年(国家による保障の打ち切り年齢)を迎える高齢者。友人から「定年延長の申請書に爪で印をつけると、抽選に当選できる」という噂を吹き込まれる。表向きは一笑に付す主人公だが、友人と共に区役所に申請に向かった彼もまた、ひそかに期待して申請書に爪で印をつける。


 帰宅後、2次定年延長の当選発表があるまで、主人公はテレビを見たり、庭の小鳥のロボットを修理したり落ち着かない時間を過ごす。夕方、2次定年延長の当選者が発表されたが、主人公の番号は掲載されなかった。主人公はいてもたってもおられず、区役所に向かい何かの間違いではないかと窓口に詰め寄るが、隣の窓口では友人が同じように激高していた。「話が違うじゃないか。役所は定年延長の枠を持っているはずだろう!」と。


 友人をなだめる主人公、そこへテレビを通じて首相の緊急演説が始まる。首相は、定年の引き下げと定年延長の縮小を宣言する。主人公たちは定年延長はおろか、直ちに国家からの保障を打ち切られる立場となってしまったのである。(Wikipediaからコピペした後、加除修正しました)



 このドラマ、かなり原作へのリスペクトが強く感じられます。原作は1973年発表。当時の若者文化を皮肉って、作中の高齢者は皆、長髪に描かれている(作品発表当時は若者の間で長髪が流行しており、反体制のシンボルでもあった――のが、その50年後を描いたマンガでは長髪は高齢者、保守層の髪型になっている)のですが、そのままドラマのなかでも長髪が再現されていたり(プロットの筋とは関係ないのでドラマでは髪型は変える選択肢もあった)、とにかく令和のドラマなのに非常に昭和っぽいところに、原作に対するリスペクトを感じます。


 キャスティングも、主人公の老人に加藤茶さん、主人公の友人に井上順さんと、70年代の芸能界で輝いていたお二人もってくることで、このドラマの説得力が増しています。


 わたしが子どもの頃のおふたりは、人気者で若かったんですけどね……いまでは忘れ去られようとしていますし、年を取ったなあと歳月の残酷さを感じます。まさにそれがテーマのマンガなので、ハマり役だと思います。


 この国の食料安全保障をなんとかしようと昆虫食を……いや、コオロギなどとんでもないとか、わたしたちが飢えるかもしれない時代が今やってきているんですよね。「定年退食」は、藤子・F・不二雄が50年前にいまの世界の危機を描いた予言の書です。


 近い未来に食糧危機がおとずれるとしたら、まず生産年齢の人か飢えないよう、つぎに子どもたち、いちばん後回しが高齢者でしょうからね。その頃には、わたしも老人なんだろうな。コワイコワイ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る