第27話 愚か者の思い出

 5月。春競馬が最高潮を迎える季節。

 今週末には、3歳女王が決めるレース「オークス」が、来週末には3歳チャンピオンの座を争う「ダービー」がそれぞれ開催される。年に一度、競馬ファンがお祭り騒ぎとなる1週間がはじまる。


 2018年、第85回日本ダービーに出走した18頭のなかに『ステイフーリッシュ』という名の馬がいた。2歳から7歳まで第一線で走り続け、海外重賞2勝を含む重賞3勝という十分すぎるを収め、2022年、フランス凱旋門賞を最後に現役を引退した。


 サラブレッドの世界は厳しい。重賞3勝は立派な成績だが、この程度の成績を収めたくらいでは、種牡馬となって子孫を残すことはできない。引退後のステイフーリッシュは、故郷の牧場で乗馬となっている。



『ステイフーリッシュ』という名前は、アメリカのデジタル家電(!)企業「アップル」の創業者であるスティーブ・ジョブズのスピーチの一節から取られています。


 “Stay hungry , stay foolish” (ハングリーであれ 愚か者であれ)


 2005年、スタンフォード大学の卒業式に招待されたジョブズが行ったスピーチを締めくくった言葉として有名です(わたしは知りませんでしたが 笑)。


 いまNHKプラスで見ることのできる「映像の世紀バタフライエフェクト 世界を変えた“愚か者”フラーとジョブズ」のなかで、このスピーチについて触れられています。おもしろいです~、映像の世紀。ついつい見てしまう。


 藤光は、スティーブ・ジョブズが「マッキントッシュ(Macintosh)」を発表した直後くらいからパソコンに興味を持ちはじめました。しかし、「マッキントッシュ」高額過ぎて買うことができなかったので、ぐっと安価なMSX規格のパソコン(というか、初期のMSXは「ホームコンピューター」という呼び名がしっくりくる「未来の家電」といった位置づけだった)を買ってもらうことになりました。


 ――すごいコンピューターなんだろうな。


 中学生のわたしは、指をくわえてパソコン誌の広告を見ていたものです。


 あれからン十年。結局、Macには縁がなく、パソコンはウィンドウズPCを使い続けていますが、スマートフォンはアップル製のiPhoneを使っています。スマホケースに隠れていて普段は目にすることはありませんが、iPhoneに描かれているリンゴのシンボルを見ると……。


 ――おれもアップルの機械を使えるようになったんだなあ。


と感慨深いものがあります。


“Stay hungry , stay foolish”


 ステイフーリッシュ。

 わたしはあのころと同じ、愚かで貧しいままですねえ……。

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