第23話 短歌の作り方

 前回のエッセイは、紀貫之から土佐日記へと流れてしまいましたが、本来は短歌のことが書きたかった。なので、今回は冒頭から短歌のことを書きます。


 この3月から短歌を作りはじめて2カ月くらい経ちます。

 この2カ月間、短歌を作ってみたわたしの感想ですが、と分かりました。毎朝、ニワトリが卵を産むように短歌を作ることはできませんが、仕事が忙しくなければそれなりに短歌を作っていけそうな気がします。(ただし、その短歌が読む人の鑑賞に堪えるレベルに達しているかどうかは別問題ですが)


 前回、紀貫之から百人一首へとつないで、むかしの短歌と現代の口語短歌のちがいついて書こうかなと思ってました。短歌を作りはじめて感じるのは、五七五七七の31文字はとても自由なんですけど、さすがに31文字では心情・情景を表すには少な過ぎる! ってこと。文字数を重ねることができる小説と違って、その歌が表している情景が、どうしても薄っぺらくなってしまうんです。


 そのため、短歌には文字数の少なさを補うためのテクニックってのがあると思うんです。例えば、「桜散る(5文字)」という言葉を使うと、季節が春であるということ、桜が咲いていること、散ってゆく桜を見る人の抱くもの寂しげな心象――を同時に描写することがてきます。使える文字数が少ないので、どういう言葉を使うか、その言葉に対して読者はどういうイメージを抱いているか、意識することはとても大切なことだと思います。


 くわえて、百人一首など和歌集をみると、むかしの歌人たちが31文字にもっとたくさんの意味を持たせようと、更に高度なテクニックを駆使していると分かります。よくあるのでは「掛詞」がそうです。


 大江山いく野の道の遠ければ まだふみも見ず天橋立(小式部内侍)


 この歌には、『生野』という地名と『行く野』という一般名詞とが掛かってます。また『文』と『踏み』とも掛かってます。天橋立については手紙をもらっていないし、実際に行ったこともないという――って感じですかね。同音異義語を使い、ひとつの言葉にふたつ以上の意味を持たせることで、短歌31文字で表現できる情景の幅を広げているわけ。


 それ以外にも、「本歌取り」とか「古典からの引用」とか技を駆使して、古の歌人たちは短歌31文字のなかに、31文字で表せる以上の情景・心情を詠み込む工夫をしてます。


 これらのテクニック、現代の口語短歌でやると非常にわざとらしいんですよね~。自然な口語短歌にするのは難しいと思います(やろうとしたことありません 笑)。口語には合わないんでしょう。結論、文芸としての短歌は、平安時代に完成してますよね。


 いまの時代に短歌をつくる意味があるとすると、その場その時の心情を31文字という少ない文字数で、いかに端的に、いかに心に響く形で、表現できるかということに尽きると思いますね。難しいことはむかしの人がすでにやり尽くしているから、現代の言葉で、現代人の心情を表現することだけが、いまの短歌にできることなんじゃないでしょうか。


 わたしの短歌の作り方は、まず「いいね」と思える言葉、フレーズを見つけることです。短いのがいいですね。できるなら五音とか七音のキーワードに気づけると定型にまとめやすくなります。八音を超えるものはボツにします。


 最近、じっさいにわたしが短歌用にメモしたキーワードを挙げると、


「きみとぼく」

「気球」

「きみの歌」

「ぼくの手」


なんてのがあります。まだ、「いいな」っと感じただけなので短歌にはなってませんが、これらを「あーでもない、こーでもない」とこねくり回して短歌にします。


 これらの言葉に「いいな」と感じたのには、自分なりの理由があるはずなのでそれを探していきます。なかなか見つかりませんが、「これかな?」と感じるものがあれば、それを表現する言葉をまた探します。良い言葉に行き当たるかどうかは、運と語彙力次第です(笑)定型にこだわらなければ、やがて一首できあがります。


 さいごは、じっさいに声にしてみて心地よい響きかどうか。

 目で読む小説と違って、短歌は耳で聴く文芸だと思うので、聴いて気持ち良い響きのある言葉を選ぶようにしています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る