第21話 好きなものを読めばよい2

 1984年に劇場公開された宮崎駿監督のアニメ「風の谷のナウシカ」は、日テレ系テレビ局の「金曜ロードショー」でこれまでに19回も放映されているらしい。


 いきなりナウシカですみません。。。


 前回エッセイに書いた「既知のリマインド」とはまた別の理由から何度も何度も放映されている「風の谷のナウシカ」。わたしはまさにナウシカ世代でして、公開時は中学生、金曜ロードショーで最初に放映されたときは高校生でした。


 15歳といえばもっとも感受性の強い時期。わたしはこの時期に宮崎駿さんが監督した「風の谷のナウシカ」と「未来少年コナン(名探偵ではない 笑)」の再放送を食らって、宮崎アニメの虜になったのでした。




 さて、話は「既知のリマインド」に戻ります。


 本屋さんで「危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』」(朝日新聞社編)という本を見つけて、衝動買いしたのは、既知のリマインドのなせるわざだったと思います。単純にナウシカ関連の本なら、なんだって楽しく読めるという経験則から買ってしまった感じ。


 これは18人の論者が、いまの時代に「風の谷のナウシカ」に込められたメッセージを読み解くという、「えっ、もう40年も前の作品ですけど?」というちょっとした時代錯誤も入ってる朝日新聞デジタルの企画を書籍化したものです。


 わたしが「買おう」と決めたのは、ナウシカ関連の本だったことと、論者のなかに作家の川上弘美さんが含まれていたからです。川上さんの『大きな鳥にさらわれないよう』は以前エッセイに取り上げたこともあるように、傑作SFでとても気に入っています。


 とっかかりは、「自分好みの本だな〜」と感じて買った本でしたが、18人も論者がいれば中には新しい知見を与えてくれる文章もあるわけで、2人、いままで考えたこともない視点からナウシカを読み解いた方がいました。


 今回は、既知のリマインドから読みはじめた本だけれど、新しい知見を得られた――というようなことを書きたい。(前フリ長い)


 ひとつめは、軍事アナリスト・小泉悠さんの読み解き。どうして軍事アナリストが読み解くのか。漫画版「風の谷のナウシカ」では、終盤に土鬼ドルク諸侯国連合帝国の勢力下において悲惨な戦争の描写が続きます。アニメ版と違って漫画版「風の谷のナウシカ」は戦争漫画なのです。


 小泉さんの読み解きに新しさを感じたのは、人の行為について性善説によらないところです。戦争ではさまざまな非人道的な行為が行われ、それはナウシカの世界も現実世界も同じなのですが、小泉さんは「人間は本来こんなにひどいことをするはずがない」という考え方を否定します。戦争に巻き込まれた人はそうなってしまうものだと主張します。だから、戦争をしてはいけないと。


 さらに驚いたのが、「戦争は醜いものである一方で、美しかったり、かっこよかったりする面もある」と主張するところです。目からウロコな主張でした。わたしには「戦争は悪である」という思い込みがあるうえ、「戦争がかっこいい」と書かれた文章をはじめて見たので新鮮でした。考えてみれば、「宇宙戦艦ヤマト」も「機動戦士ガンダム」も戦争を描いたアニメであり、わたしはヤマトやガンダムをこの上なくカッコいいと夢中になってきたのです。戦争にはカッコいい面がたしかにあるのです。


 ただ、第二次世界大戦に敗れた後、戦争を忌み嫌う思想に覆われたこの国で、そう表現するのがタブーとされてきただけだったのだと小泉さんの読み解きに気づかされたのでした。


 もうひとつは、文筆家・鈴木涼美さんの読み解き。元AV女優で作家、文筆家の鈴木さんは、自分が過ごしてきた「夜の街」に「腐海」のような役割があるといいます。


「腐海」は、「風の谷のナウシカ」に描かれる汚染された大地を浄化する機能を持った巨大な菌類の森です。大地の毒素を吸い上げ、長い年月をかけて無害化する機能を持っていますが、その過程で濃縮された毒素からなる「瘴気」吹き出すため、巨大化した蟲たち以外は立ち入ることのできない「穢れた死の森」となっています。この「腐海」のため、人類が常にその生存を脅かされている遠い未来が「風の谷のナウシカ」の世界です。


 鈴木さんは、人には知られていない穢れを浄化する機能を持つがゆえに、自身が汚れた存在として忌み嫌われる「腐海」と同じような機能が「夜の街」にあるといいます。なるほど! と思いました。夜の街には、薬物、暴力、セックス、その他さまざまな「世間でいう悪いもの」が流れ込んできます。腐海が大地の毒を吸い上げるように。そこは普通の人たちには忌み嫌われる場所であるし、また、ここでしか浄化できない「凝り」や「ゆがみ」の集まってくる場所だと思います。そうした属性をもつ人は、むしろ夜の街でしか生きていけないのです。醜く巨大化した蟲のように。


 鈴木さんのする、夜の歓楽街には役にたつ側面があるという主張は、少し前なら「なにを馬鹿なことをいう!」「悪所は悪所だ」という正論の罵声にかき消されてしまったでしょう。そんなことは思っていても、公に言っちゃいけない、すなわちこれまでのメディアではタブーだったわけです。


 わたしはタブーを犯した小泉さんと鈴木さんの主張を目を見張る思いで読みました。これ、ネット記事とはいえのサイトに掲載された記事ですよ。言うなればマスコミの本道にこうした記事が掲載されるようになるとは……。そのことをナウシカ関連の本で知ることになるとは。


 いやー。既知のリマインドも、新しい知見をもたらしてくれることがあるんですね。勉強になりました。結論として、自分のアンテナが錆びついていないなら、既知のリマインドを恐れずに、どんどん好きなものを読んでいこう――というお話でした〜。


 長すぎる上になんのこっちゃ。失礼しました。

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