第9話 どうして好きになるのか

 今回はむかし話。

 先日、坂本龍一さんが亡くなったニュースについて書いたなかで、映画『オネアミスの翼 王立宇宙軍』に触れました。このエッセイを書くにあたってWikipediaを確認しましたが、映画のタイトルは『王立宇宙軍 オネアミスの翼』となっていて「えっ?」と思いましたが、今回は公開当時のタイトルのままでいきますね。


『オネ翼』はジャンル分けするとSFファンタジーです。オネアミス王国という架空の異世界を舞台に、人類初の有人人工衛星打ち上げ計画を成功させようとする宇宙軍と不本意ながらも計画に参加し、宇宙を目指す若き宇宙軍士官たちの物語。公開は1987年。


 近況ノートでは「素晴らしい」と「つまらない」が同居するアニメと書きました。当時、大ヒットしたわけではないし、いまでは知る人ぞ知るアニメって感じでしょうか。わたしは大好きですけどね(笑


『オネ翼』のすばらしいところ、その一。世界観の作り込み。


 どこかで目にしたことがあるようでいて、世界の国のどこともちがう異世界を作り上げていることに当時はとても驚きました。いま見てもすばらしいと思う。坂本龍一さんの音楽がこれまた、どこの国のものとも言えない音色で映画の世界観を補強していましたね。いや、すばらしい。


 すばらしいところ、その二。緻密な作画。


 なかでも爆発シーンの描写はすばらしいの一言。なんであんな風に描けるの? って。オネアミス軍が隣国の軍隊と交戦するシーンがあるのですが、ずっと見てられます。爆発が美しいから。あと、ロケットの打ち上げシーンも神がかった美しさです。


『オネ翼』のつまらないところ。わかりやすいヒーロー・ヒロインがいない。


 この映画の最大の弱点。主人公のシロツグはまったくヒーローっぽくない――というか、製作陣はいわゆる「等身大の物語」を志向していたようで、固い意志や強いリーダーシップといった英雄的な能力を意識的にシロツグから排除しているように感じます。その方がリアルだというんでしょう。じっさいリアルですが、アニメに非現実的なヒーローを求める一般的な観客にはウケがよくなかったんだと思います。


『オネ翼』は、凡庸でなんの取り柄もない若者が、ひょんなことをきっかけに宇宙飛行士(英雄)を志し、成長してゆく物語です。それはこの映画を作ったガイナックスの若き制作陣(監督の山賀博之は当時24歳だった)の自画像でもあるわけですが、彼らが若過ぎたゆえに、ラストで宇宙飛行士となったシロツグがその後どうなっていくのか、描ききることができていないのも残念ですね。


 ただ、凡庸でなんの取り柄もなかった当時のわたし(いまのわたしもそうかもしれない)には、ある種の救いのように感じられたのは確かですし、全体的に不完全で未完成な印象を与える作品の雰囲気も、「永遠の青春」を象徴しているように感じられて悪くない――というより、大好きですね(笑


 肝心の坂本龍一さんですが、今作の音楽についてはあまり納得していないようだったとか……。こういうところも『オネアミスの翼 王立宇宙軍』に似つかわしいように感じます。

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