第6話 桜、咲いてますか

 今年の三月は暖かく、例年より早く桜が開花する地域が多いみたいですね。みなさんがお住まいの地域ではどうですか、桜、咲いてますか?


 藤光の住む兵庫県も続々と開花の便りが。今日、神戸市内を車で走りましたが、中には満開を迎えた桜の木もありました。春がやってきたんですねー。


 わたしの職場があるところは、神戸よりずっと北の方、山の中に位置する自治体なのですが、都市部より寒いこともあって、神戸よりは開花が遅いです。あと、山がちな土地柄もあって平地に植樹されているソメイヨシノとは別に、山中に自生する山桜(ヤマザクラ)をよく見かけます。


 山桜は、わたしの故郷にもありますが、子どもの頃は「みっともない花をつける木だ」と感じ、好きではありませんでした。新芽に先駆けて花をつけるソメイヨシノと違い、山桜は新芽の発芽と同時に花を開花させます。木一本が真っ白な花に覆われて美しいソメイヨシノに対して、山桜の赤茶けた新芽のなかに薄桃色の花を咲かせる様子はあまり美しいと感じられないからです。


 でも、今年ちょっと考えが変わりました。田舎の街を車で走っていると分かるのですが、まだ冬枯れの続く山の景色の中に、一本、また一本と薄桃色の花を咲かせる山桜は、山に春の訪れを告げる花です。くすんだ薄墨色の風景の中、そこだけが春の色に色づく様子は、ソメイヨシノの美しさとはまた違う――生命の喜びが現れ出たような感動があります。


 むかしの人が和歌の中に詠んだ桜は、ソメイヨシノではなくヤマザクラらしいです。この歳になって、古人が歌に詠み込んだ感動の一端に触れたように感じる。そんな今年の春なのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る