いつか、その言葉が響く……その日まで

ネオ・ブリザード

いつか、その言葉が響く……その日まで

 むか~しむかし、そうですねぇ……具体的には平成12年の冬、といったところでしょうか。あるアパートの一室に、貧乏ながらも、それはもう仲の良い母娘が住んでおりました……。



 ある、雪の降る夜のこと。


「ぐちゃ〜♪ ぐちゃ〜♪」 


 その日は、娘の3歳の誕生日。ですが、娘は、母がせっかく用意した娘の大好物の三角形のチョコレートケーキを、形が無くなるまで崩し、きゃっきゃっと遊び食いをしてました。


 当然、母は娘を叱ります。


「こら! 食べ物で遊んじゃだめでしょ!」

「だって〜、こっちの方が美味しいんだもん。ぐちゃぐちゃ〜♪」



 だけど、今の娘には母の言葉はどこ吹く風。全く心に響きません。



「だから、やめなさい!」

「ぐちゃぐちゃ〜♪」



 ぐちゃぐちゃなのは、ケーキだけではありません。娘の口の周りや、ケーキを盛りつけた皿周りのテーブル、娘の着ている服まで、チョコでぐちゃぐちゃになっていました。



「も〜! 洗濯が大変じゃない! ケーキを食べ終わったら、服を脱いでね!」

「え〜! や~!」



 それでも、なんとかチョコレートケーキを食べ終わった母娘は、最後に声をあわせ、こう言いました。



「ごちそう様でした♪」

「ごちそうさまでした♪」



 あれから、何年経ったでしょうか……? 口の周りをチョコクリームでベトベトにしていた娘は、親元を離れ、と、ある男性と恋に落ち、その男性と結婚するまでに成長しました。



 更に2年後、娘は新しい命を授かり、母になることになったのです。



 そして、新しい命がこの世に誕生してから3年経った、令和5年の冬の日……。



「ぐちゃぐちゃ〜♪ ぐちゃぐちゃ〜♪」

「こら! お父さんが一生懸命働いて買った苺ケーキ、粗末にしちゃ駄目でしょう!?」

「まあまあ。一花は、まだ子供だから」

「あなたは甘いんですよ!!」



 母となった娘は、昔、お母さんが言っていたのはこの事だったんだなぁ、と思いながらも、愛娘を叱るのでした。

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