第15話
テレビに映る二人。
ここ数日話し相手となって見慣れたメルトレイさんとついさっき目が覚めたばかりのレギンメルドくん。
まだまだ完治した訳じゃないどころか、起き上がるのですら辛いはずのレギンメルドくんをわざわざ背負って行動しているメルトレイさんは、確かにコソコソしている。
足音を極力出さない様に動いているみたいだし、前後に伸びる廊下をなるべく早く動いて、後ろにも気を付けているみたい。
何してんの?
ごっこ遊びか?
「……もう敵対はしない、と思ってたんだけどなー」
いや、これが敵対行動なのかと言われるとちょっと俺的には微妙ではあるんだけど…警戒してるって事はそういう事、なんだろうか?
とは言ってもどうにも逃げ出そうとしている様にも見えない。
メルトレイさんは既に外への道は知っている。にも関わらずただ闇雲に移動している様に見える。いや、闇雲、と言うよりも虱潰し、と言った方が正しいか。わざわざ部屋を一つ一つ確かめているし。
ま、権限が無いから殆どの部屋に入れてはいないけれど…この行動に何の意味があるんだ?
「何か調べものか?」
「そうですね。わたくしの見解としては構造の把握や部屋の使用目的などを調べている様に見受けられます」
確かに入れた数少ない数部屋では、ザっとではあるけれど置いてあるものや、その使用方法なんかを手探りで調べていたように見える。
「お?戻るのか?」
「どうやらそのようですね。どうしますか?艦長」
ん~…。
「レコンとロコンは暫く交代で監視を頼む。辛いかもしれないけれど、夜も交代で。もし何か動きがあったら教えて。夜中でも起こしてくれていいから」
「畏まりました」「了解っ!」
さてさて、弟が目覚めていきなりの謎行動。こちらも警戒せざる負えないこの行動の謎は後で説明とかしてもらえるのかね?
ま、いいや。
大人しく医務室に戻ってるし。
「マスター。どうやらお呼びの様です」
「なんて?」
「食事がしたい、と」
「あ~許可与えなかったっけ?」
確か良いよって言っておいたよね?使い方も教えたし。
「念の為、との事です」
「ふ~ん、良いよって応えておいて」
「畏まりました」
さてさて、今日は美味しいものが食べたいね。ちょっと手の込んだものでも作るかな。今から作り出せばそれなりに良い時間になるだろう。
「ロコンが先に見張る感じ?」
「今はそうですね。就寝前の時間は姉さんに監視してもらう予定です」
「あいよ。んじゃレコンとエル、手伝ってくれ。今日はグラタンでも作ろうかと思ってるからさ」
ただ普通のグラタンじゃ~面白くない。
色んなキノコ突っ込んで、それに鮭!んで、スパグラにでもすれば、立派な主食にもなる。足りなければ無駄に在庫のあるパンでも食べればいいだろう。それにスープとサラダでもあればメニューとしてはご立派なものになるだろう。
俺はパンも欲しいから、ちょっと多めに用意しておけば各々勝手に食べるだろ。
誰も食べなければ俺が全部食べればいい。どうせ満腹にはならないんだし。
先ずはほうれん草をアク抜きの為に下茹で。その間に鶏もも、玉ねぎ、じゃがいも、キノコをそれぞれ適当なサイズに切って、先に玉ねぎを弱火で炒める。
ほうれん草はさっと茹でたら冷水で冷ましつつ待機。茹でたお湯は再利用。卵を······3個、かな?茹でておく。
玉ねぎが透明になって、少し茶色になってきたところで鶏もも投入。表面に焼き色が付くまで軽く炒めて、クリームソースを作って鍋に移し替え、あらかじめレンチンしたじゃがいもを投入。
焦げない様に軽く混ぜながら火を通してる間に鮭を焼く。
鮭が焼けたら身を解して…皮はどうしようか?俺は別に平気だけど、確かレコンロコン姉弟が苦手だったか。初めて食べたときのなんとも言えないあの顔······笑える。
今回は彩も考えて取っておくかな?データとして収納しておけば腐ることもないし。いつか俺の酒のつまみの一品にはなる。
よし、これで解した鮭と適当に切ったほうれん草、キノコをぶち込んで、少しの間火にかけて、火を止め、しばらく放置。後でもう一度温めれば、完成。
暫く放置。
パスタを茹で、その上に温めなおしたシチューとたっぷりのチーズを掛けてオーブンで焼けば、鮭と鳥とキノコのスパグラの完成じゃ!
追加でレタスとゆで卵のサラダと、オニオンスープで完了!
おいちい!
「大変美味しい食事の最中なのですが、艦長。報告です」
「んあ?…なに?」
え~折角良い気分なのに…。
エルメリアからの報告って嫌な報告が多いんだよな。
「新たな人間がやって来ました」
「…はぁ~」
なんでそんなにほいほい来れるん?ここって結構人間の足だけで来るには大変な場所だと思うんだけど?しかも、ここって【アヅガ】とか言う精霊様が住んでるって伝説?言い伝え?がある場所なんでしょ?そんなにほいほい人が来ていいところなの?
「今回は人数が多く、29名居るようです」
「…いや本当に多いいね」
なんだその人数。
「一人を除いて全員が同じ鎧を身に着けています」
「どっかの軍隊?」
「その可能性が高いと思われます」
はぁ~~~~やだやだ。
軍人って俺の中でちょっとイメージ悪いんだよね…。中世時代の兵隊さんって規律とかその辺も悪そうだし、がらも悪けりゃ頭も悪そうでさ…いや、ごめんよ?偏見なんだろうな。
「今そいつらは何してる?」
「この地の出入り口である切れ目の周辺で野営しようと準備を進めている様です」
ま、時間も時間だし、そうだよね。ってか遅いって言えちゃうくらいの時間だし。もう普通に灯りがないと手元での作業が難しい程の夜。あちらさんはもう寝る準備を大急ぎで整えているだけ。敵対している相手ならこれ幸いと夜襲でもすればいいけど、現段階では特に何するも決まってないので、取り合えず今すぐ動く必要はない。
メルトレイさんの時みたいに力尽きてる訳でもないみたいだし。緊急性も無い。
「飯の後で考えるよ」
「サー」
どうしますかね。
先ずは接触するかどうか。
これは考えるまでもない。接触しないといけない。どう考えても接触は不可避だ。
その人たちがここに来たのは何かしらの理由があるはず。まさか俺たちがいるこの地の出入り口である切れ目のところで一晩寝たら帰宅。なんて事はあり得ないだろう。軍人が鎧着てこんな無人島の激高山に登山とかないだろう。もしそれが演習とか訓練とか言われるものだったらのならそんな軍は辞める事お勧めするぞ!
って事で、当然ここ周辺を捜索し始める。
ここは火口とは思えない程にバカ広いけれど、いつかは俺たちがいるこの中央までやって来る。あの人たちの食料が無くなって撤退、ってのは期待できない。俺たちもそうしている様に、山菜や動物で飢えを凌ぐだろう。十分な食事かどうかはさておき、即撤退とはならないはず。
なので、俺たちが接触するのは高い確率で遅いか早いかだけの違いでしかない。接触する事自体はほぼ確実。なら、こっちから接触しても良いだろう。
目的が何か分からない事が不安材料。
仮に目的が俺たちに害を成す事ならば、この拠点の防備を整える時間が必要。ってなる、普通は。
生憎この家も【ラララ宇宙号】も普通じゃないので、今更急いで防備を整える必要はない。元からもう備えてあるから、これ以上の備えは必要ない。ってかこれ以上は出来ない。
つまり、俺たちにとって時間は必要ないのだから、今接触しようと後で接触しようと特に変わりはない。変わるのは接触する場所と情報量の二つくらい。
後で接触する事にして時間を作れば監視する事も出きるし、一番小さめの調査ロボットを駆使すれば会話の盗み聞きで情報収集が可能。
結果。
俺としてはある程度時間を設けて目的を軽く探ってから、こちらを見つけられるよりも先に、こっちから接触したい。なるべく問題は早く片づけたいし。
ってな訳で、今考えおいた方が良いのは、その人たちの目的だけ。目的を探ってから方針を決めてもいいんだけど、それだと時間がもったいない気がする。ある程度の方針を決定しておくのは悪手ではないと思う。
そして、俺たちにとって困る目的だった時の事を想定しておけば尚良いだろう。
「うっし。みんな食べた?」
っく!
折角の美味しいご飯だったのに!考えながらだった所為か今一満足度が低い!
明日はリベンジで別の美味しい物を食べたいですな。
全員よろしい様。
んじゃ、作戦会議。
「接触しようとは思うけど、接触するのは明日。遅くても明後日には接触したい。今から昆虫型の調査ロボットで見つからない様にあいつらの目的に探りを入れる。明日の様子を見つつ接触するタイミングを決めよう。接触は目的が明らかになってから、が理想だな。問題なのは俺たちに害のある目的だった場合の事だ。害があれば排除、で問題はないけれど、排除する必要がないけど、俺たちに害が多少ある目的だった場合どうするか。いくつか目的の予想と対応を考えておきたい」
「先ず簡単なのは略奪行為だった場合、でしょうか?」
一番簡単な目的だね。
「その場合は即排除で良い。一人二人くらいは生け捕りにして情報を吐いてもらいたいけど、まー死んだら死んだで問題ない。確実にこちらに害がない様にすればいい」
「サー」
「ん~理由までは想像できないけど、出ていけ!とかかなぁ?」
あ~確かにレコンの言う通りだな…。
例えば『精霊が住んでいる場所だから出ていけ』とかか?
「その場合は…どうしようか?」
「この場合対応は難しいのではないでしょうか?」
そうなんだよな~。
エルメリアの疑問の通り、個人的にはかなり難しいと思う。何せ【ラララ宇宙号】は現在浮く事が出来ない。未だに原因が分からない事だから、すぐさま解決して移動させる事が出来ない。最悪【ラララ宇宙号】を隠して放棄する事を視野に行動する必要がある?それはやりたくないな…。
「マスター。この場合は交渉が必要かと思われます」
「ま~それしかないかな」
ただ出て行けと言われた程度で排除するのも明らかにやり過ぎだし。だから『交渉』って手段を取らざる得ないんだけど、今ここではその交渉の中身まではちょっと俺には想像出来ない。相手方の話を聞いてみないとなー。
「わたくしの懸念は一つです。
あの者たちがメルトレイ嬢とレギンメルド殿の
あちゃ~。そっか。それがあるか…。
「ん~それこそ話を聞いてからじゃないと判断出来ん」
レギンメルドくんはまだ話した事がかなり少ないから分からないけれど、メルトレイさんは普通に良い人だと思う。ま、恩人であるはずの俺が、人間じゃないとわかった途端敵対する様な頭の固い部分はあるけれど、別に横暴だったりする訳じゃないし、ここで何か悪さをした事も無い。
でも、昔の彼女たちを知らないから完全に悪人とも言えない。
今回やって来た人たちが悪人かもしれないし、逆に善人でメルトレイさんたちが悪人なのかもしれない。
どちらか一方の話だけを聞いて判断する事も出来ない。
両方から話を聞くべき、だよな。
「取り合えず、メルトレイさんに今の事態を説明して、必要なら映像を見て貰ってから関係が有るのか無いのか。それから敵対しているのかどうなのかを聞くか」
「今から動かれますか?」
「今日は~…いいや。あの二人も今は喜んでいる所だろうし、変に水を差すのも悪い」
ま、多分喜びに浸っている訳じゃなさそうだけど。変な徘徊をしてたくらいだし。
「後で風呂に案内してあげて。
その時に明日の朝話がある、って事だけ伝えておいてくれ」
「畏まりました」
こんなところかな?
「んじゃ、これで今日は終わり。俺はもう寝るよ」
「わたくしは早速お二人を迎えに行ってまいります」
「ウチもロコンに付いて行くよ」
ま、その方が良いだろうね。
何を思っての行動か分からない事をしていたんだから、下手に一人で接触しない方がいいかもしれんし。
「では私は艦長と一緒に…」
「は?」「なんでよ!?」
何言ってんの?ちゃんと部屋あるでしょ?ってかマジでこのやり取りいつまでやるの?ほぼ毎日してる気がするんですが?いい加減一緒に寝ようとするな!諦めなさいよ…。
「俺は一人で寝る。エルメリアは好きにしてくれていいけど、一緒に寝るのはダメ」
「…サー」
なんで毎回毎回不承不承なの?いい加減襲うぞ?
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