第14話
「めr…姉、さま。…無事だったんだね」
「良かった…本当に良かった!このまま目を覚まさないのかと…!」
…?
聞こえた音的には『メルトレイ』と呼びそうになっていたんだろう。若しくは『め』から始まる愛称か何か。ただ普通に呼びかけようとしていただけで、あの場に不適切だった訳じゃあない。愛称か普通に名前かの後に『姉』と付けて呼べばいいはず。何故わざわざ間を空けて『姉さま』と呼んだ?
って、そんなどうでもいいと思える気になる点を今口に出す雰囲気じゃないね。ここは大人しくしておきましょう。感動の再会?だろうしね。
「僕たちは貴方達に救われた…と言う事でしょうか?」
「まーそうだな。
詳しくはそこの姉に聞くのが良いと思う。俺たちは邪魔だろうからな。家族水入らず、無理をしない範囲で再会と助かった事を喜んだらいいよ」
ま、無理をしたくてもまだベッドで上体を起こすのがやっとって感じだうから無理だろうけど。って言うかまだ症状が『中』で残っているのに上体が起こせるのも驚き。結構今も無理しているはず。
「お心遣い、感謝します」
「良いよ、別に。
何かあったら…そうだな。少し大きく声を掛けてくれれば誰かが来るようにしておく。気兼ねなく呼んで」
「ありがとうございます」
「それじゃ」
一応こちらの名前、今は俺とエルメリアの名だけを教えて退散。
何故に姉の名前を言い淀んだのかは気にはなるけど、別に急いで聞く程気になった訳じゃない。メルトレイさんからも貴族だなんだの話は聞いているから、何かしら名前を呼ぶのにも躊躇う訳があるのかもしれん。
弟くんが目覚めるまで色々と聞けたけれど、流石にその理由までは予想できない。
「しかし、何気に時間がかかったな…」
敵対しそうになったメルトレイさんが謝罪し、色々と話をして情報を改めて得始めたあの日から三日。漸く目覚めてくれた。
今日から普通…はちょっと無理だろうけど、おかゆくらいは食べれるか?もっとスープだけとかにした方がいいのかもしれない…か?流石にもう【医療用レーション】は卒業してもいいだろうから…。
「エル。頃合いを見てメルトレイさんに【シェフBOX】の使い方とレギンメルドくんにお勧めの食事として、おかゆ関係とスープ類を教えておいてくれ」
「お言葉ですが、ロコンではだめなのですか?」
「ん?」
あれ?珍しく拒否?
何気にここに来てから自由意志を得ているはずなのにしなかった初めての拒否だ。その理由は?気になるね。
「別に良いけど…なんで?」
「艦長は住宅へ向かわれ、その後本日は艦内に足を運ぶことは無いと思うのですが?」
「まー…そうだね」
今はもう夕方。
これから何かをする時間じゃない。我が社は最低定時退社で、残業は基本的には無しのだ。残業よりも当日欠勤&早退を推奨する気風なのだ。当然引き籠るよ?
「で、あれば私も今日は家から出たくはありませんので…」
「…なんで?」
「艦長のお世話があります」
「いや無いよ?」
普段からしてないでしょ?確かに毎日毎日凝りもせずなんでもしようとしてるけど、一度も俺は了承していないはずだが?いや、確かに細々とした事はして貰ってはいるけどね?
「今日こそは…」
「いや無いから」
ご飯を手ずから食べさせようとしたり。
風呂に一緒に入ろうとしたり。
一緒の布団で寝ようとしたり。
いい加減諦めて?
いや、エルメリアが色々と経験して、きちんと俺を選んでくれた場合は布団で寝る事は歓迎するけど。それ以外はちょっと…あ、ただ一緒に風呂に入るくらいは良いな…。ちょっと憧れる。
「安心しなさい、エル。
ウチがハルキ様をお世話しておくから!」
「黙りなさいロリ」
「んな!?なんですって!?!?」
おいおいおいおい。
そんな言葉どこで覚えてきたエルメリア…って俺が提供したPCの中にあったアニメが原因か。……俺の所為だったわ。ごめん。
ってか騒ぐな騒ぐな。
「あ~ロコン。頼まれてくれる?」
「畏まりました」
「エル、レコン、いい加減にして。もうロコンに頼んだから、この話は終わり」
「…サー」「…はい」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あ~。
なんだろな。別にあくせく働いている訳じゃないのに、毎日風呂から上がって、リビングのソファーでだらりと火照った体を落ち着かせるこの時間…マジ幸せだわ。働いてた時も幸せ…ってのは言い過ぎだけど落ち着いた時間だったなぁ。
――――――さて
「あらかた情報は仕入れ終えた、と思っても大丈夫かな?」
「そうですね。
……わたくしが必要だと考えていた情報は、既に収集が完了しております」
「私もありません」
「ウチはまだ色々聞きたい事いっぱいあるけど、これ以上聞いちゃったら後の楽しみが無くなる事ばっかりだから問題ないわ!」
うっし。んじゃ、情報収集は完全に終了。
俺的にはもう大丈夫な感じだったから情報収集終了。で良かったんだけど、俺よりも賢いエルメリアとロコンが大丈夫なのかってのが不安だった。何か抜けがあるかもしれんとあーでもないこーでもないと考えてたけど、大丈夫らしいのでもう安心。
「明日からは…俺はちょっと試したい事があるから任せても良いか?」
「構いませんが…」
「私は艦長の傍で待機しています」
「ウチも…って言いたいけど、ウチはあの弟くんが気になるからロコンと一緒にあの姉弟の面倒を見るわ」
OK、OK。
「方針としてはどの様に致しますか?」
「取り合えずはレギンメルドくんの容態が悪化しない様に様子を見つつ、世話をしてあげてくれ。余った時間はメルトレイさんの戦闘能力を実際に確かめて欲しい」
「戦闘行為を行えばよろしいのですか?」
別に敵対する訳じゃないんだから、襲うなよ?
「あくまでも模擬戦な。俺たちがいつも行ってる訓練と一緒だ」
「なるほど。畏まりました」
「ウチが戦えばいいの?」
あ~。レコンはな~。
強いのは確かだけど…ちょっと不安。俺たちの中でも頭一つ飛び抜けて強いのに、手加減が苦手、ってのが…。
「レコンは取り合えず世話だけで。ロコンがまずは相手してくれ。もしメルトレイさんの戦闘能力が高くてロコンで務まらないと判断したらいいけど…レコン。その時もくれぐれもケガさせないよう手加減を忘れるなよ?」
「でもでも!強かったら手加減しなくても良いって事だよね?」
まーそうだけど…。
「ご安心ください。わたくしがしっかりと監督しておきます」
「ああ、頼むよ。レコンはロコンのいう事をしっかり聞く事。良いね?」
「…は~い。………ウチがお姉ちゃんなのに…」
それはそうだけども、ね?
普段の自分を顧みてからその囁きは呟いて欲しい。
「しかし、戦闘能力は確認するまでもない、と思ったのですが…」
まー、ね。
確かに確認する必要性はちょっと低い。
何しろメルトレイさんは、この山の下に広がる森に生息するその殆どに太刀打ちできないそうだから…ね。俺たちは戦ってすらいないから、あまり大口は叩けないけれど、データ上では問題なく対処できる。
ただ、不確定要素なんかがあるから手を出さなかった。
そして、その不確定要素は彼女たちにも存在する。なら、直接確かめるのが一番だ。しかもメルトレイさんであれば多少のケガをする可能性はあれど、命の危険となる可能性は限り無く低い。何せ、実戦ではない模擬戦なのだから、当たり前だけど。
「俺たちが判断しているのはあくまでもデータ上での話。データでは不確定要素な部分があるのが戦闘行為だ。それはもうわかっているだろう?」
ここに来てから散々模擬戦をして来た中で、性能面では勝てないと思われる組み合わせであっても、勝ってしまう事がある。それは偶然とか、場所とか、思考の癖だとかいろいろと理由はあるが、実際に起こる出来事。
正に『不確定要素』だ。
例えデータ上ではやはり俺たちには敵わなかったとしても、その不確定要素のデータを集める事が出来る。
「確かにその通りです。畏まりました」
彼女たちに対して俺が予想している不確定要素は、ズバリ活術を使った何か、だけど…。
「いきなり全力で、とかは間違ってもするなよ?
先ずは軽く、準備運動くらいの軽い気持ちでお互いにやってくれ」
「畏まりました」
いきなり全力でやって不確定要素が盛大にやらかしてどちらかが死んでしまいました。なんて、笑えないから。
「艦長」
「ん?」
「レコンロコンの予定は分かりました。
艦長は何をするのですか?」
「ま、活術を使ってみようかな?ってね」
「…それは、無理だとメルトレイ嬢がおっしゃっていたと思うのですが…?」
そうだね。
はっきり、無理、と言われてしまいましたね。だ、け、ど!
「俺は今、知っての通り人間じゃない。
普段は人間に『擬態』しているけど、本当は不定形の生物。そして、色々と練習して部分的な変化も出来る様になった。その変化を使って活術を使えるようにならないか?と、思ってね」
「なるほど…」
「わかりました。
では、私はその補佐をします」
え?補佐って…なんかある?
「う~ウチもそれ面白そうだからやりたい!」
「いや、レコンには、って言うか俺以外には無理だろう」
人間はそんなコロコロ変化出来る体には出来てないよ?
「そうじゃなくて!ウチもハルキ様お手伝いしたいの!」
「…いや別に手伝えることってないと思うんだけど?」
「いえ、私であればその場で必要なデータを即時検索し、提示する事が可能です」
ん~…?
ちょっと必要となる場面が想像できないけれど、その可能性は否定できない。俺がしようとしている事はレギンメルドくんとメルトレイさんの中にあった【マナストーン】を模倣して、自分の体の中に作り出す事。
現時点で必要になるだろうと準備している二人のマナストーンの画像は俺のデバイスに保存してある。それ以外に必要なモノは…ないと思うんだけどな~。
まいいけど。
「暇だよ?たぶん」
「構いません。私は常に艦長の補佐をするのが使命ですので…」
使命って…。そんな命令出した覚え無いし、お願いもした事ないと思うんだけど?
「ウチもそうしたい!」
「レコンは戦闘用に用意された個体です。
補佐の機能はあっても有効活用は得意とは言えません。ですので、私が艦長の補佐をします。それに、副艦長ですから」
「副艦長なら艦長が居ないところで必要な事すればいいでしょ!」
おっとぉ。ごもっともですね?レコン。
「却下です」
「なんでよ!?」
俺も言いたい。
なんでよ?
「私が嫌だからです」
「何よそれ!?」
俺も言いたい。
なにそれ?
「ウチだってハルキ様の傍じゃなきゃ嫌よ!」
「副艦長としてその要望を棄却します」
「もう!」
これは……感情が芽生えている弊害?なのかな?
にしても、これほど俺に固執するのは元々あった設定の所為で、強制的にそう思わされているのか?それとも、その感情は自由意志なのか?…それが問題です。
いくら好意を持たれていると言ってもそれが強制的なものなら、今後その感情の矯正をしていく必要がある。んだけど…それが強制されているのか、自由意志からの感情なのかの判断が出来ない。
つまり…。
「これからもこのまま暫く様子を見ていくしかなさそう、だな」
「……?マスター」
「ん?何?今俺が言った事は気にしないで良いよ?」
「いえ、その事ではありません」
ん?
「レギンメルド殿とメルトレイ嬢の様子が少し…奇妙なのです」
はい?
「奇妙、とは?どんな風に?」
「まるで潜入工作をしている様な動き…とでも言いますか…」
潜入工作??
「ん~?コソコソしてるって事?」
「はい。その表現が一番的確に彼らの行動を表しているかと思われます」
何故にコソコソしてるの?
メシ食いに行くのは別に不思議じゃないけど…変な時間だから、とかか?いや、それもさっき目を覚ましたレギンメルドくんの為と思えば別に変な時間に食事にしても変じゃない。
後ろめたさからの行動?
「訳分からん」
「捕獲しますか?」
捕獲…って別に敵対してる訳じゃ…いや、まさかただ目を覚ました程度で治ったと勘違いして、敵対した?想定してたけど、まさか、本当に治ったから敵対した?
「…少し様子を見よう。
エル。このテレビにも監視映像が出せたよね?」
「はい、可能です。映しますか?」
「頼む」
「サー」
さてさて、一体どう言うつもり何でしょうかね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます