第5話
うごごごごごごご――――――!!動け!俺の腕よ!脚よ!
「かん…ちょぉ…」
はぅん……耳元で囁かないでもらえますか!?エルさん!!
「ハルキ…さまぁ~…」
うぎゃああああぁぁぁ~!!折れる折れる!背骨は真横には曲がらないからぁ~!!・・・あれ?痛くはないな?………なんで??
いや、けど、問題は何一つ解決していない。痛くはないが、動けない…。
左に首に巻き付くエル。
右に腰に巻き付くレコン。
一切動かん!!今俺どうなってんの?
たしゅけて
「おはようございます。マスター。手助けが必要ですか?」
「・・・・・・お、お願い、します」
「承知しました」
こんな変な勘違いされそうな場面は誰にも見られとぉなかった。いや、まぁ、勘違いされる状況とはちょっと言えないかもしれんが…女性に絡みつかれた状態は色々と誤解を招くからね。俺の下半身はこの絡みついた女体の所為なのか?それともただの朝の生理現象なのかわからん。だから頑張って抜け出そうと藻掻いてたのに―――ありがと、ロコン。
「あ~よく寝た…けど、何故かもう疲れた」
「お疲れ様でございます」
へいへい。
ってか、最初から大声だして騒げばよかったわ。そもそもこいつらにはまだ何が何だかわからんだろうし。男女が絡み合ってても「きゃ~」とか「いや~ん」とかな考えには思い至らんだろうから……無駄な努力だった気がしてならない。
損した気分ですわ。
「取り合えず顔洗いに行こ」
「畏まりました」
いやロコンも洗うんだからね?
ちょっと遠いけど、お風呂場にゴー。
「しかし、睡眠とは心地よいものですね。正直起きるのに苦労しました」
「その割には一番に起きてたじゃん」
「それは当然でございます。マスターに貢献し、役に立つことがわたくしの存在理由。その為に睡眠の誘惑程度、何ともございません。所謂これが『気合』と言うやつでしょう」
「なるほど」
執事のプライド。的な?
流石【忠誠】を持つ【生真面目】男。今のところ全員俺が作成した時の性格設定をちゃんと引き継いでるっぽいな。あの二人、特にエルメリアの朝の弱さには少し驚きがあるくらい。あれは意外だ。いつものクールな佇まいで「いい加減起きて下さい」なんて言って起こされる方がしっくりくるんだけどな。
「朝は洗顔と歯をみが―――きたいけど無かったわ。ゆすいでうがいくらいはしておくべきか」
「承知しました」
「サー」
「うおっ!!??」
「…?おはようございます。どうかしましたか?」
「お、おはよう。って、いや、寝てたんじゃ…?」
「艦長が居なくなったので起床しました」
いや、なにその目覚まし機能。そんな機能は搭載した覚えないんですが?
「まいいや」
バシャバシャ。
ん~ん~ガラガラ。もっかい。ん~ん~ガラガラ。
うっし。
うん気持ち悪い。口の中ががが。
「歯ブラシを作ろう」
「サー」「畏まりました」
「いや、俺一人で良いから。二人は…エルはレコンを起こしてきてくれ。ロコンは…」
「申し訳ありません。トイレに行っても良いでしょうか?」
「あ~まだ行ってなかったな。と言うか好きに行ってくれ。我慢は体に悪いからな。報告が必要なのは緊急事態が発生している時くらい?かな?その時は許可を求めて欲しいけど、後は自由にしてくれていいから」
「サー」「承知しました」
レコンには情報共有で話は通るから、これでよし。
さて、取り合えず…歯ブラシ歯ブラシ。
歯ブラシとかみたいな生活必需品的な物は基本レシピは無いし、完全に自分で設計しなければならんのだけど…大きさとか詳細がわからん。何となくの感じで作るしかないな。
失敗しそう…。
ま、失敗したとしても無駄にはならん!
『失敗は成功の母』と言うし、失敗作からまた調整すればその内出来るだろう。後は歯磨き粉なんだが…あれって何で出来ているのだろうか?さっぱりわからんぞ。石鹸はレシピにあるけど…流石に違うよね?
ん~~~~~。あ、確か『塩』で磨くみたいな話を聞いた事があるな。それでいいか?よしよし。んじゃ歯ブラシと塩を用意すれば今欲しい物は完結。ついでに昨日考えてた物も作るか。
っと、到着。
先ずは歯ブラシ歯ブラシ~。
こんな感じ?
柄はプラスチック製で、ブラシは―――?これもプラスチックを毛にすればいいか?ブラシ部分は細く細く、んで柔らかく――――――はい、完成。お口にイン。シャコシャコシャコ。うん……うん?少し大きいか?作り直し!
これでどうじゃろうか?うん、良い感じ。これは俺の、色を変えてエルメリア用とレコン用、ロコン用を作ってOK。
塩は―――あれ?ってか調味料ってなくなくな~い?このゲームには野菜とか肉とかはあるけど調味料は存在って言うか名前すら出てこないんですが?え?あの【シェフBOX】の料理の味は何処からやってきたの??
やっぱないよな~。なんか代用出来るものでもないか~な?あ、あった。『岩塩』だけど。これで良し!
これを選択して、『加工』。粒状に―――出来たぁ~!
次!
ベッド。
多めに在庫がある余ってる感じの金属でベッドの枠組みを作って、作成。デバイスへ入れて、これも人数分作成。
マットと掛け布団、枕も作って同じくデバイスにイン。
うん。終わった。
所要時間…20分くらい?普通に考えて早すぎ。
この【錬機製造機】も謎だよな。部屋程にデカいけど、だからと言って数分でモノを作るのって普通あり得ないしな。だけど、錬金術を参考・発展させた超科学【錬機学】は、分解と再構築でモノを作り出すから一応納得できない事もない。現実では実現不可能だろうけど。
ん?いや、今も現実?のはずだからもしかして頑張れば地球でも実現可能かのか?
「艦長」「ハルキさまぁ~?」
「おん?」
「おはよ、ごじゃま」
「はい、おはよ」
やって来たのは寝ぼけ眼の中学生女子…じゃなくてレコン。それからエルメリア。
レコンはまだ少し目を
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
朝食も無事に完了。
昨日の夜に食べた食事がこの体になって初めての食事だった訳だが、幸運と言うべきか、体調に悪影響は出ていなかった。それに嬉しい事にエルメリアたちも俺と同じ状況だったし、結果も変わらなかったので普通に健常に食事。
そんなこんなで気分の所為か元の体の時に食べていた量を軽く超えて食べた朝食だった。しかし、まだ満腹感が無い。ついつい満腹にならなかったから食べて食べて食べた訳だけど。朝から4人前は食べ過ぎだろ。この体、もしかして大食いか?いや、性能的な面で言えば確かにそうかもしれんが、この細い体のどこにそんなに入るんだ?
それに満腹感はないけれど、それと同時に『足りない』と言う感覚もない。腹八分目の状態だ。
思い返せば今日朝起きてから食事を開始するまでも空腹を感じていない。昨日もそうだ。ブリッジで目覚めてから夜に食事を思い出してするまでの間も空腹など感じていなかった。
常に腹八分目。
人体の謎?である。で済ませて良いのか?
そんなこんなで朝食終了。まだまだ腹には入るけれど、流石にこれ以上は―――不味い、よね?
いよいよお仕事…かどうかは疑問が湧くが本日は色々と動いて行かなくてはね。
エルメリアには洗濯機、風呂場用の小屋の建材、それからキッチン。その他必要だと思われる物、必要だと思う物を作成依頼。レコンとロコンは昨日に続いて調査。まずは昨日未確認だった分を確認してくれて、後で連絡してくれる手筈。
俺は……どうするか?
取り合えず必要だと思ったものはエルメリアにちゃんと伝えてある。錬機術は二人居たとしても無意味だから、エルメリアに任せておけばいい。調査も俺が直接確認する程ではない。かと言って外へ現地調査しに行くのも安全性が定かではないので一人では心細い。自然と船内で出来る事に限られてくるんだけども。
あ~倉庫の確認をちゃんとやっとくべきか。
そう言えば洗濯機を作ってくれても着替えが無いしな。って、下着類もまだまだ足りないだろうし?服は装備品を流用すればどうにか出来るとしても、下着はどうにもならん。そもそも存在してない。唯一アバターに初めから装着されている肌着くらいだ。それも各自一着と昨日慌てて作った一着しかないから足りない。下着も追加で作ってもらうとしようかね。メッセージを飛ばして、即座に返事が返って来た。サイズは伸縮性の布で作ってくれれば問題ないだろうっと。よし。
さ~って倉庫の中身を確認確認。
の前に失念してたわ。
俺自身の体がどうなっているのか調べていませんがな!
まぁ、多分アバターのまま、だとは思うけど、一応調べておく方がいいだろう。
って事で、早速スキャン!検査開始。
ふ~んむ、…なるほど?
ベースは【不定形生命体】?『擬態状態』?病気は無し、異常も無し。
本当にこの結果が正しいかどうか、正常に機械が稼働しているかどうかはわからんけれど、今はこれを信じるしかない。
――――――え?俺人間じゃないの!?
【不定形生命体】ってあのスライムだかアメーバだかそんな感じの宇宙生命体の事だろ?確かにプレイヤーはその種族を選んでゲームを始めれるけど、俺は人間を選んでたし、何よりエルメリアたちと人間としてゲームをプレイしてきた。
【不定形生命体】を選んだのはセカンドキャラだ。だから可能性としては確かにあり得なくはない。でも、エルメリアたちがいる事。【ラララ宇宙号】がある事。それに昨日確かめた身体に備わっていた能力は人間としてプレイしていたアバターのものだった。
部屋に備わっていた飾りとしてしか意味がなかった姿見で見た姿も人間を選んだアバターの【ハルキ】の容姿だった。決して半透明のグニャグニャした顔も手も足もない謎生物では無かったぞ。
――――――一体どうなってる?
『擬態中』とある。
それは確かに可能な事だ。俺も当たり前だけど人間としてしか生きてきていないから不定形のままでは満足に移動することも出来なかった。だから、セカンドキャラである【不定形生命体】の【ベータ】の時は人型に擬態していた。
だけど、あくまでもただ人型をしていただけで、半透明のままだったし、顔も設定してなかった。ただの人型が【ベータ】だ。今ここに居て、俺が動かしているこの体が【ベータ】のものだとしたら。俺はこの地で目覚めた時、そのただの半透明の人型でなきゃおかしい。
そして多分エルメリアたちからも警戒された状態で出会っている事になるはず。
――――――――――――もしかして?
意識を右手に。半透明になる様に…………。っは、出来たわ。
ゲームの頃の様に態々設定する必要が無く、感覚とイメージだけでどうにでも体を変化させる事が出来るって事か。あ~そう定義した場合。俺はこの地で目覚めた時、いつも見て来た【ラララ宇宙号】のブリッジだと数秒で気が付いた。僅かに様子が違う事で少し遅れたけれどちゃんと【ラララ宇宙号】だと理解した。
次に見渡して目に映ったのは気絶したエルメリア、次いでレコンとロコンだ。その時点で俺はゲームの中なのかと疑問を持った。そして、エルメリアたち、【ラララ宇宙号】と情報が揃った事で、自分は【ハルキ】だと認識した。
その時、俺は擬態した?
多分そうなのだろうな。そうでしか説明が出来ない。
だから空腹感と満腹感が無かった。そう言えば汗も掻いてなかった。他にも細々とした事が納得できる要素ではあるけど、一つだけ納得できないのは【ハルキ】の能力を持っていた事。
【ハルキ】は相当に鍛え上げたアバターだけど、【ベータ】は序盤も序盤。ほぼ手を付けていないレベルにしか鍛えていないし成長もしていない。そもそも【ハルキ】の持っていた能力は【不定形生命体】である【ベータ】にはシステム上習得できないものが多くあった。それら一切合切が問題なく使えていた事。
謎である。また謎である。もう良いよ~謎は~。お腹いっぱいだよ~。
あ~くっそ。このことはエルメリアたちに情報共有した方が良いだろう…ってか、情報はもう取られているだろうな。三人共【ラララ宇宙号】で使える権限は全部与えてある。情報はすぐに見れるし、今削除したところで怪しすぎ。そもそも削除したところで復元可能である。データとは早々簡単には消えてくれないものだからな。
あ~あ。もういいや。なる様になれ。俺はもう当初の予定通りに倉庫の確認に向かいますかね。
あ~こうやって見てみると色々と箪笥の肥やし的な感じになっとるな。
もう使う事ないだろうレベルの装備がゴロゴロしてるし、消費アイテムももう活躍出来ない物とかもゴロゴロ。普通の食材、ゲテモノ食材、その他素材、あれまぁ換金用素材とかどうすればいいの?ってか倉庫の中身がごちゃごちゃ。
【ハルキ】と【ベータ】両方の倉庫が一緒になってる感じだ。って事は俺もごちゃごちゃに混ざってるって事か?いや、全部がごちゃ混ぜと言った方が正しいか。
取り合えず倉庫にあるのは全部が全部あって困るものじゃない。その他の俺の体の事とかいろいろ気にはなるが、原因とかなんやかんやとか調べようがないし放置。って事で当初予定してた必要な物を見繕おう。戦闘用の装備も見繕うべき、か?
そう言えば攻撃力とか防御力とかの数値って反映されるのだろうか?その辺も実験してみるしかないのだけど…これも外でやりたいから、安全が確認されるか最低1人でも連れて行くべきだろう。後回しになるな。
でも実験したい品は選別して出しておくべきか。
『【科学鎧・リフレクション】
防御力:550
科学の力で生み出された神話を元にした鎧。
バリアを各所に展開し装備者へのあらゆるエネルギー・物質を反射する魔法の様な鎧。防護はバリアが担うため、体を覆う金属はほぼ飾りである。が、もしもの場合に備えた最終防護の為、強度はそれなりにある。
動きやすさも重視したため軽装となっている。』
『【宇宙スーツ】
防御力:50
一昔前に流通していたバリアを搭載した一般的な宇宙服。全身を固い布が覆い、すっぽりと頭を強化ガラスで覆ったもの。背中には15kgのバリア装置が搭載されている。バリアは全身を覆う様に球状に展開される。
動く事を想定されてはいるが、最悪と言っていいほどに動き辛い。首も動かし辛いため視界も確保し辛い。』
これらでいいだろう。
凡そ10倍近くの性能差があるから、もし数値が影響あったら一目瞭然だろう。同じ『バリア』で身を守るからより分かりやすい。はず。
『【高出力レーザー・ライフル】
攻撃力:1~1500
長距離での狙撃を想定した高出力レーザーを用いたライフル銃。
レーザーは距離に応じて減衰していくため、適正距離内での活用を考える必要がある。
最大有効射程距離は1km。それ以上は威力が減衰する。』
『【レーザーガン】
攻撃力:100
短距離での活用を想定したレーザーを用いた銃。
レーザーは距離に応じて減衰していくため、適正距離内での活用を考える必要がある。
最大有効射程距離は10m。それ以上は威力が減衰する。』
武器はこれで良いだろう。これも攻撃力はちょっとイイ感じのが無かったから仕方なし。でも同じレーザータイプの武器だから良い感じに比べれるのではなかろうか?
・・・・・・・・・やることオワタ。
他にもやる事あるけど、今すぐどうこう出来る事は少ないし。何より俺が動いたところで結果は出ないものしかない。エルメリアかロコンにやってもらった方が断然いい。
だから俺は手を出しません!
無駄な事はしない主義です!
あ~ちょっと実弾タイプの銃でも触るか。
危ないから弾は抜いてから――――――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふん!―――シャ!―――チャキ!」
そこおぉ!
「キラーン――――――あの、その…これはね?」
「何でしょうか艦長?」
真顔で見て来るなよおぉ!?
「ん゛ん゛!―――で?何かな?エル」
「艦長より依頼のあった品、必要とされる品の作成が完了し、デバイスに保存しました。その報告と次の指令を受けようかと思いまして。…それで、艦長は何をしていたのでしょうか?」
掘り返すなよ!?
「な、何でもないよ?」
「気になります」
「ならないで」
「・・・」
ちょっと「むっ」としないで下さい。ちょっとかわいくて話したくなるでしょ。恥ずかしいから絶対話さないけどね!
「取り合えず生産ありがとう。
次は―――ってかもう昨日の調査結果出てるんじゃ?連絡来てないけど」
「少しお待ちください」
情報閲覧中―――いや、連絡中か?
「どうやら特に昨日の調査では目ぼしい情報は無かった様です。その連絡をする前にもう少しで調査が一段落する為、連絡を遅らせている様です」
「ほほぉ~」
そんな判断までしてくれるようになったのね。良いか悪いかは別問題だけど。
「ん~取り合え二人が居るブリッジまで行くか」
「サー」
相談―――と言うか報告か。それもあるしね。
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