第4話
「ほぉぉぉぉぉ~~~~!!!」
「姉さん。静かに」
「はっはっは。まあまあ、良いじゃんロコン。美味しそうに食べる姿は周りも笑顔にしてくれるから」
「そういうモノですか・・・」
「そういうモノだ。
ほら、エルもロコンも食べろ食べろ。生憎極上な食べ物とは言えないけど、それなりに美味しいぞ」
ふぃ~よかった。普通に美味しく食べれるわ。もし味も何もしない見た目だけの料理とか見た目だけの激マズの料理とかが出てきたらどうしようかと思ったぜ。
確認するの、すっかり忘れてました!
ってか、現実?となった今、【シェフBOX】の中身は一体全体どんな造りになっているんだ?
結構なレパートリーを誇る全自動料理機、正式名【シェフBOX-10】。縦横3メートル、高さ3メートルの立方体に材料投入の為、【データ化収納庫】とリンクしている備え付けのデバイスと完成品排出口。そして欲しい料理を注文、選択する為にタッチパネルが付けられただけの、言ってしまえばただの箱状の金属。それがどんな構造をしていたらどんな料理でも僅か1分で作る事が可能になるのか?ま、いちいち構造とかなんとか考えたところで分かる訳が無いんだけど。そもそもゲーム内にしか存在しない摩訶不思議機械やとんでも技術だしな。
「箸はまだ使えないだろうから、取り合えずフォークで刺したりスプーンですくったりで食べてくれ」
いきなり箸は使えないだろう。だいたい食事が初めてなのだから食器の使い方なんて知る訳もないしな。
「この様な感じで合っていますか?」
「おぉ~。合ってる」
流石は『万能型』の元アンドロイドと言ったところかな。本当に隙がないよな、エルメリアって。
「……むぅ・・・これは中々難しいものですね」
そうそう。それが普通だよロコン。いきなりそんな器用に箸を使ってうどんなんて食べるのは無理だから。そもそもなんでいきなり麺類?しかも汁物っ「キャッ!!」て…んんんんん??????
「え、エル?」
「失敗しました」
え?なに?今の『きゃ』って何?え?何?くぁあわいい!!
あ~うまく掴めてない状態で麺を持ち上げて、滑って落ちたのか。しかし、見事なタイミングだった模様。多分口に入れる寸前か?少しだけど汁も撥ねて顔とか服にも付いてる。麺は羨ましい事に膝の上だ。膝枕―――、か。今度やってくれたりしないだろうか?
ってか折角のバスローブ寝巻が汚れちゃったね?
ま、もっかい作って着替えて貰いますかね。後でね。
「エルメリア。いくら万能とは言え、今回は分が悪かったようだな。諦めてフォークを使ったらどうだ?」
「…そうですね。ロコンの言う通り今回は諦めましょう。ですが、そう、これは『悔しい』と言う事でしょうね。必ず使いこなして見せます。『万能』の名に恥じぬように」
へ~。ロコンって普通はこんな風に話すんだ。
ゲームではアンドロイド間での会話って存在しなかったし、俺との会話の時は『The執事』って感じでしか喋らなかった。人となっても俺との話し方はそう変わらんかった。エルメリアやレコンとの会話も・・・数える程度しか見てないしあまり記憶にない。
見知っている奴の知らない一面を見る、ってのはなんだかこそばゆく、少し嬉しい。それに、『父』としても感慨深いと言うかなんと言うか―――まあ、嬉しい。
「食べたぁ~!おかわり!」
はっや!?そして追加!?人が色々と感動しているのに脇目も振らずに食っていたのか、レコン。にしても、生まれて初めての食事なのにそんなに食べて大丈夫なの?
「姉さん。今回はそれで終わりにするべきだ。我々は今『人』になったばかり。どんな不都合が今後現れるかわからない。今は様子を見するべきだと思う」
「ブーブー」
「ロコンの言う通りです。私の意見としてはこれでも少々摂取し過ぎと思っているくらいなのですから。我慢してください、レコン」
「はぁ~い…」
しょんぼり女児…とか言ったら可哀そうか?見た目が少し幼いだけで、中身は・・・中身も生まれたばかりか!?逆に見た目の方が大人じゃん!
「む・・・なんかまたイライラしてきた…」
っく!感情に目覚めたばかりのはずなのに・・・女は女って事?
勘が鋭い。
「ごっそさん」
食べた食べた。
味はまあ普通に美味しい。けど、これなら自分で作った方が美味しく出来るだろう事に少しばかりいい気分がする。折角の設備には悪いが…作り方が分からない料理とか、今日みたいに疲れて動きたくない時とか、あとは出来上がるまでが謎に早いから時間をかけられない時、かけたくない時とかに使う感じになるだろう。
『グルメ』と言う程ではないけれど、美味しいが大好きな俺としては毎日毎食このレベルの食事は勘弁してもらいたい。
しかし、そうなると新たにキッチンが必要になってくる。
簡単に今すぐに作れるのはただ煮炊きが出来る竈しか無理。しかも火力調整とかも自分の手でやらなければならない古いモノ。・・・明日にでも新しく普通のキッチンを設計するか?それかエルメリアに任せてもいいかなぁ?…大丈夫かな?食事自体が初めてな現状なのに、その食事を作る設備を設計。
少し不安だけど、ちゃんと説明をして、設計を確認すれば大丈夫か。必要であれば手直しをすればいい訳だし。
「艦長。食事の摂取終了しました」
「わたくしも終了です」
「お、じゃあ今日はもう休もうか。なんか色々と疲れただろう?」
「マスター。我々にも休息が必要なのでしょうか?」
何を言って居るのだねロコン君?当たり前だろう。
「そりゃそうでしょう。エルもレコンもロコンも人間になったんだからな。今までみたいに休まずに、寝ないで動けるとか考えない様に!
疲れを感じたり何故か集中できなかったりした場合は休む事。無理して動いたところで良い結果は出ないから」
「そういうモノでしょうか?」
「そういうモノだ」
ま、多少無理すれば出来なくはないけれども、その『多少』の加減がわからんだろうしな。今は無理をするタイミングだろうと言われるとそうかもしれんが、それよりもこいつらの心配の方が勝る。
周辺の調査も現状の把握なんかも特急でやるべきとは思うけれど、今日くらいは勘弁したいし、勘弁してほしい。それに出来る事と言えば探査ロボットが映す映像をただ張り付いて見るくらいだ。当然見ていた方が何か異常があったり、いち早く知りたい情報なんかも早い段階で知る事は出来るけれど、長い目で見れば体力を温存していた方が良いと俺は思う。だから、ね?
今日はもう休む。
いきなり目が覚めたら異世界?に居て、現状を把握・受け入れる為に多少なりとも精神力を使った。それは俺もエルメリアたちも変わらないはず。ただエルメリアたちは、感情が馴染んでいない事と生身の肉体に慣れない事で自覚しづらい状態なだけ。俺との違いはその自覚があるかどうかの違いしかないんじゃないかと思う。
それから更に別段悲観する現状ではない事で喜んだ俺と悲観していた感じの俺の心配をしていたエルメリアたち。俺が感じた喜びはプラスの感情ではあるけれど、感情の起伏はプラスの感情だろうがエルメリアたちの心配と言う名のマイナスの感情だろうが、すべてが体力を消費する行為。これも自覚が有るか無いかの違い。
そして自身の体の性能テストと周辺の調査を並行して行い体力と精神を消耗した。
他にも細々とした事もあった。
それらは確実に多かれ少なかれ俺たちの体力と精神をすり減らしていた。
だから今日は早いとは思うけれど休む。休むったら休むのだ!
「残念だけど各自一人ひとりにはベッドが無い。
あるのは俺用のものだけだ。嫌かもしれんが、今日は全員で俺のベッドで寝て貰う。ま、多分全員目を閉じたら明日まで目は覚まさないだろう」
幸いベッドは一人用とは言えないくらいに大きい。普通に寝ても二人は超余裕。三人でもある程度隙間を空けて並んで寝れる。でも流石に四人は厳しいだろう。無理やりで良いならギリギリ寝れなくはない?かもしれんが、窮屈に寝るのはゴメンだ。って事で裏技。
ベッドを縦に使って寝るのではなく。横に四人が並んで寝る。ベッドは横より縦の方が長いからな。それぞれ間隔は少しは開けて寝れるはず。一番気掛かりなのは体が全部ベッドに入るかどうか。身長がそれなりに高くなった俺と、それよりも少し高いロコンが居るから少し心配ではあるけれど…。ま、ギリいけるだろう。
お風呂、トイレまでには気が付けたけど、ベッドにまでは気が回らなかったなぁ。作るべきだった。まぁ、今日はもう働きとおない!明日じゃ明日。
とは言え、作った所で置き場をどうするか…。エルメリアたちには個人の部屋なんて用意してない。だけど空き部屋はあるから適当に配置して適当に割り当てればいいか?
「あ、あのあの、ハルキ様ぁ」
「ん?」
「な、なんか、お腹の下の方が・・・」
「え!?痛いのか!?」
もしかして食事しちゃダメだったとか!?もしくはいきなり食べたから体がビックリして拒絶反応的なのが起きてるとかか!?
「違う~。なんか、出そう!」
「………やっべ」
まぁた忘れてたぁ~!!
「と、トイレじゃ~!!ダッシュ!!」
「は、はい~~~~!!」
あーーー!待てぇい!!先に行ったところで分からんだろうが!!何にも説明してねぇ!!
「エル!付いて来てくれ!」
「サー」
少々・・・否!かなり恥ずかしいけれどエルメリアに説明しつつレコンを追い掛けて外へ。丁度トイレの前で早足踏みするレコンへと追いついた。
「じゃ、後は頼んだぞ、エル」
「―――艦長が説明した方がより効果的では?私も今聞いただけですので分からない点があるかもしれません」
「答えはノーだ。いいから行ってくれ。もし分からない事があったらレコンはそのままにしてエルだけ外に出て来てくれ」
「…サー」
不承不承、ってか?
でもね?無感情に、機械的に頷く感じのエルメリアに説明するのだってかなり羞恥があったんだよ?ただでさえ俺の好みの容姿を満載してるから余計にな!
それを容姿中学生にもう一度とかマジ勘弁。羞恥に加えて犯罪臭まで香ってきそうじゃないか!ってか別に詳しい訳でもないしな。ふんわりと知ってるだけだ。保健体育とかで余計な事まで話してた下世話な高校教師、ありがとうよ!
ちょっと離れとこ―――。
「たぁすかったぁ~。人間って変なの!そして大変!」
問題なく終了した様。トイレから出て来て最初の言葉が文句ってのは…まぁ。元アンドロイドからするとそんな風に感じるかもな。俺も腹が痛いときは辛いと思うし。その内体調を壊す事もあるだろうから、そういう痛みとかも経験していく事になるだろう。――――――ガンバ!
「艦長。私も便意らしきものを感知しました。説明と処置をお願いします」
「……自分でやろ?」
「……サー」
不承不承、ってか?
なんっでやねんっ!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
いや~男は楽でいいわ~。
話すのにも少しばかりの抵抗感だけだし。何よりも体の構造が一緒ってのが良いわ。同性万歳!!
「人間とは不思議なものですね」
「まあ、そだね…取り合えずもう少し離れよっか?」
「何故でしょう?」
「ちょっと近すぎるから!」
俺が好きなのはエルみたいな綺麗な女性なの!男は恋愛対象に出来ないから!極力接触も冗談とか会話の流れで自然にちょっとだけとかにして下さい!たまに肩組むくらいが丁度いいの!!
「レコン、いい加減そちらで納得してください」
「い・や・よ!
なんでウチがハルキ様と離れなきゃいけないのよ!エルメリアがそっちに行けばいいでしょ!」
「私は艦長の隣です。さ、寝ますよ」
「だからなんでよ!!」
「はぁー」
君たち、もしかして本当は人間にはなってないんじゃない?体力あり過ぎるでしょ。俺なんてもうくたくたのヘロヘロで今すぐ寝たいんですけど…。
「どっちでもいいから早く寝よ」
「良くありません」「良くないわよ!」
「・・・あ~もう俺が真ん中、その両隣にエルとレコンでいいだろ?はい、おやすみ」
「あっ」「ちょっと!!」
「ではわたくしも。おやすみなさいませ」
「レコン。何故貴方が艦長の隣に寝るのですか」
「そうよそうよ!」
ホント元気、だね。おれ、もう、げん、かい…――――――・・・。
起きた。
たしゅけて。
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