ナカノモノ
赤城ハル
第1話
「そろそろいいんじゃないッすか?」
「いや、今回のはデブだったから、もう少し漬けておく。ほら、もう
◯
昔は人を殺せば山に埋めるか海に捨てるかのどっちかだった。
けど今は科学捜査が進んでいるため、歯型、骨、毛髪、皮膚片などが残っただけでも遺体の身元が判明する。
ゆえに今ではぐちゃぐちゃに溶かして、流すというやり方が増えている。
そして今夜、俺は新たに運ばれた遺体を浴槽に入れて、液体の化学薬品を流した。
◯
「カンです」
4巡目で若造がミンカンをした。
馬鹿だなと思った。俺以外の2人もミンカンには苦笑していた。
「あ、
『んだって!』
◯
「もういいんじゃないッすか?」
半荘が終わって若造が言う。
「そうだな」
俺はスポーツバッグからごわごわの全身を包む防護服を着る。
「手伝いましょうか?」
「いや、いい。防護服は一つだけだしな」
「薬品って、そんなに危険なんすか?」
「違う。臭いが着くんだよ」
テメエはそこにいろとジャスチャーを送る。
そして俺は浴室へと向かう。
「ん?」
いつもと浴槽の中が違っていた。いつもはぐちゃぐちゃかトロトロのどちらかだ。
でも、今回のはまるでゴワゴワだった。
まだ溶けきってなかった。
いやいや、それは違う。
流してから時間はかなり経っている。
風呂の栓がちゃんとハマってなかった? いや、それなら液体薬品も流れているはず。
俺は浴室に置いている鉄パイプで浴槽内をかき回そうとした。
その時だ。浴槽から何かが出てきた。
「な! なんだ!?」
それは水気のあるべとべとの天ぷらを羽織ったような人だった。
溶け切ってなかった?
違う。
そもそも相手はそんなに背が高くなかった。
どうみてもそれは身長が180は超えている。
そして奴が纏う天ぷらがぼとぼととこぼれ落ちる。
天ぷらが仮に溶け切れなかった皮膚だとしたら、その下にあるのは肉か骨であろう。でも現れたのは黒に近い緑色の何かだった。
そして天ぷらが全部落ちて、残ったのは謎の生物だった。
俺の知識で知るどの動物、生物にも当てはまらない。
いや違う。これは化け物だ。
なんだこいつはと叫ぼうとした時、体の異変に気付いた。
叫ばない。いや、体が動かせない。
「どうしたんですか?」
若造が異変に気付いたのか浴室にやってきた。
「何だお前!」
若造はすぐにチャカを取り出して発砲する。
銃弾が目の前の化け物に当たるが小石が当たった程度か効果がなかった。
銃声に気付いて仲間もやってきた。そして同じくチャカを取り出して発砲する。
化け物が手を向けると、指が伸び、若造の頭を貫いた。
それは速く。伸びる瞬間が見えなかった。
そして次々と仲間を殺し、とうとう私一人となる。
化け物は私が装着しているマスクを外す。
腐臭と芳醇な排泄物の臭い、そして潮の香りが鼻腔を刺激する。
「カラダ……ヒツヨウ」
化け物が喋り、左手で俺の顎を掴んで、口を開けさせる。そして右手が口へと向けられる。
どうなると思った瞬間、右手がいつの間にか俺の口に入り、喉を侵入し、食道を進み、胃をその他内臓を別のものに染める。
化け物の右腕、そして右肩、右胸、腹、両足、左胸、左肩、頭部、最後に俺を掴んでいた左手が俺の中へと入っていく。
ああ、意識がぐちゃぐちゃにされる。
俺は誰だ?
俺は何ダ?
なぜここニいる。
ココはどこダ?
おマエはダレだ?
アッ、アア、アアァァ。
シドクチェベヂュアリュベニュット。
…………。
……………………。
「オレハ……オマエ」
ナカノモノ 赤城ハル @akagi-haru
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