まあるく収めるために(KAC20233)

つとむュー

まあるく収めるために

「雫先輩、なんだかぐちゃぐちゃしてきました……」


 違和感を覚えた僕は、動かし続けていた指先を止める。

 今まで乾いていたのに少し濡れてきたからだ。


「それはね、悠人君」


 耳元でささやく先輩。

 その熱い息遣いに腰の辺りがゾクゾクっとした。


「指の動かし方が激しいから。中から液が出て来ちゃう……」


 先輩がそう言うのだから、そうなのだろう。

 経験の浅い僕は先輩に従うしかない。


「もっと優しく、こんな風に指を動かすの」


 先輩は僕の手に右手を添える。

 そして最適な指の動かし方を指導してくれた。

 重なる手と手に心臓がドキドキと高鳴り始める。


「こ、こんな感じ、ですか……?」

「うん、上手になった。このまま続けて……」




 それは一時間前のこと。

 作業がちっとも上手くいかない僕は、指導してくれる雫先輩に八つ当たりしてしまった。

 教え方が悪いと主張したり、不貞腐れてみたり。

 怒るどころか根気強く対応してくれる先輩だが、優しくしてもらえばもらうほど僕は疑心暗鬼になってしまう。


 ――本当は嘲笑っているのでは? 僕が上手くできないことを。


 挙句の果てに、僕は先輩を無視するように。

 すると彼女は鋭い一言を僕に浴びせたのだ。


「悠人くんはもしかして、コンプレックスがあるんじゃない?」


 ドキリとした。

 図星だったから。


 幼少の頃から女子にバカにされ続けてきた。

 鉄棒、跳び箱、でんぐり返し……。

 何一つ上手くできたためしがない。

 そんな過去も、先輩にはすべてお見通しだったのだ。

 

 この場を飛び出してしまいたい。

 が僕は踏み留まった。

 この機会を逃したらチャンスは二度と来ないかも。

 それに、ぐちゃぐちゃになりそうな先輩との関係も修復したかった。

 だから正直に告白する。


「実は……その通りなんです」

「わかったわ。お姉さんが秘密のレッスンしてあげる」


 こうして僕は、個室で先輩からの指導を受けることになったのだ。




「ほら、上手くできるようになったでしょ?」


 言われる通りに触っていると、ぐちゃぐちゃが解消され粘り気が出てくる。

 それを優しく丁寧に広げていく。


「そうよ、いい……」

「先輩、艶々ですね」


 そしてついに上手くできたのだ。

 すべてをまあるく収める、美しい泥だんごが。





 完

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