第18話 入神目覚・その2後編
前方には俺が暗黒時代を過ごした現代東京……
後方には中世ゴシック建築によく似ている建物。しかしその建造物が学校であることを俺は知っている。更に奥にはアルト村の風景が広がっている。
そのふたつの景色の境界線中央にそびえ立つ、大きくて黒い箱の前で俺たちは会話を交わしていた。
「もしかすると僕が違う世界から来たことを知らないんですか?」
「知らないよ。ち、違う世界?」
「僕が住んでいた地域は日本と呼ばれていました。ご存知ないですか?」
ずっと立っているのも疲れるので地面に腰をつくことにした。
「全然知らないね……。もしかしたら君、すごく稀なケースなのかもしれない。それとも誰かが彼を連れてきた……?ゴニョゴニョ」
「あと……、前の世界には魔法とか魔術とかいう概念がありませんでした。」
「魔法がない……。君の元いた世界には魔力がなかったのかい?」
オーギュスト・ロダンの「考える人」あぐらバージョンみたいな格好で思考を巡らした。
魔力あっただろうか?
いや無いな。日本で30年ちょい暮らしていたがそんなもの使ったこともなければ見たこともなかった。
ビックリ大道芸人達の手品もトリックがあるし……
「僕が見る限りでは確認したことはありません。」
「だからか!」
神様は悩みが吹き飛んだような軽弾んだ声で言った。
何も音のしないこの空間に神様の声がよく響いた。
「君に魔術がなかった理由が少しわかったよ〜。」
「魔術がないってどういう意味ですか?」
「君が今持ってる『人に作られし物』《ホムンクルス》は元々誰の能力だったけ?」
「それは、神様から頂いた魔術ですね。」
「そう!君はね、魔術を元々持っていなかったんだ。」
どういうことだ?
話の内容が分からなくて眉間にシワがよる。
「俺が君の魂に無理やり定着させたからね。」
「魂に無理やりって……。大丈夫なんですか?」
「そもそもだけどね。人は生まれた時から魂に魔術と魔力が刻まれているんだ。それが体に定着する時間は人それぞれ……。体は魔術や魔力を使う為の器ってとこかな。魂に定着できたのは君の器が空っぽだったからってわけよ。」
神様に魔術を貰っていなかったら、俺は魔法しか使えない人間だったのか。いや、今もそんなかんじだから変わらないな……。
「結局貰った魔術もあまり使ってないですけどね。」
「俺の魔術をバカにしたか?」
「い、いいえ……。」
そんなに怒らなくてもいいじゃん……。
『人に作られし物』なんて使い所ないじゃん。
俺が悪かったのだろうか。
「ところで初めの質問だけど」
初めの質問……そうか!
「元の世界に行って帰る方法!知ってますか?」
立ち上がり箱の方へ目線を向けた。
これまで何も手がかりが無かったので動悸が激しくなる。
「知らないけど1つ心当たりはある。」
「それは一体?!」
「君はアルキメデスという単語に聞き覚えはあるかい?」
「え……、」
アルキメデスは前世の偉人だ。
伝記なんてものはほとんど読んだことがない俺でも名前くらいは知っている程の人物。
たしか偉大な数学者だったかな。
今すぐスマホを取り出してGoogle先生にお聞きしたいが異世界にそんなものはない。
「元いた世界に実在した偉人の名前ですけど何か関係があるんですか!」
「あるから話してんだ。とりあえず落ち着けよ。」
興奮しすぎて熱くなっていたようだ。
少し落ち着こう……。
ほら素数を数えて、……。
「まずだけどアルキメデスという単語を知ったのは俺の戦友に関係している。」
「戦友?」
「そう、戦友だ。俺もバアルも聞いたことない単語で当時は困惑したものだが……まさか人物名だったなんて。」
いつの時代の戦友だろうか。
今考えたら俺はこの神様のことを何も知らないのだ。もし聖魔大戦の生き残りとかだったらものすごくご長寿ということになる。
「アルキメデスはバアルの魔術名だ。」
「魔術名?!なんで偉人の名前が……。」
「そう、そこがこの話の重要なポイント。
君の世界にいたという偉人は何らかの形で魂だけこの世界に転移してきたと考えるのが妥当だろう。」
「魂だけそんなことが……?」
「有り得ると思うよ。バアルも君と同じで『混ざっていた』。結論から言うと君は帰ることはできる。戻ってこれる保証はないけどね。」
そっか帰ることはできるのか。
一方通行だけだったら困るが、それでもこの世界に来てからやっと見つけた情報だ。嬉しくないわけが無い。
「長い間生きていて退屈だったからね、今日は楽しかったありがとさん。」
「神様は聖魔大戦の生き残りとかですか?」
また少し沈黙が続く。
何か言いたくないことでもあるのだろう。
俺も親にエ○本が見つかった時はそうやって言い訳を考えていたからわかる。
「言えない……、」
「それはもしかして悪い神だからですか?例えば魔神王ソロモンの配下とか?」
箱の奥からため息をつく音が聞こえる。
まるでクレーマー対応しているサラリーマンみたいに。
「今は言わない。言ったら君が信用しなくなるからね……時が来たら話すよ。でもこれだけは言わせてくれ、僕は君の味方だよ。」
「分かりました……。」
「じゃあ今 日は これ で さよ なら だ 。」
途切れ途切れになっていく声を子守唄みたいにして俺は眠った。
〜〜〜〜〜〜〜〜
ちゅんちゅんと小鳥が鳴きだす。
もう朝のようだな。
神様は悪い奴なのかそれとも良い奴なのか……。
まあ今考えても無駄だな、時が来るまで待とう。
「あっ!」
俺はものすごい勢いで上半身を起こした。
閃いたというより思い出したに近いか……。
何を思い出したって?
この世界の神様の名前は前世の世界に伝わっている事を思い出した。
偉人の魂がこっちの世界に来ていて、神の魂も前世の世界に行っている?
ということはだ。
行き来することは可能かもしれない。
その日は終始ウキウキな気分で過ごした。
〜後書きなるもの
小説のお勉強を始めようと思います。やるからにはガチでやりたくなってきました。
いまマリアード(ペルセウスの母親)を生かすか殺すかで迷ってます。こればかりは作者の裁量次第ですね。どっちを選択しても物語に支障でないので本当にどっちでもいいのです。
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