17話 終学会
お誕生日会から数ヶ月が経つ。
この間、勉強や魔法、剣術の鍛錬を毎日へとへとになるまでやっていた。
そこまで劇的な変化があった訳ではないが、実力はついてきている。魔力量は相変わらずだが……。
剣術もあと数年もすれば上級になるそうだ。
リシア校長の罰則もクリアできそうで良かった。
この数ヶ月、俺の学番は4位から、8位にまで落ちてしまった。俺が弱くなったわけじゃない。今までくじ運が良かったのだ。
そういえば先月の特別クラスでトレイル先輩と試合をしたのだが……。容赦なくボコボコにされ格の違いを見せつけられました。
リシア校長が、
「トレイルには真剣を使ってもいいですよ。」というので我が愛刀『エクスカリバー』(レプリカ君)と昔から使っている杖、のフル装備で挑んだ。
そこまでしてもボッコボコだったのだ。
そんなトレイル先輩も今日、卒業する。
この世界では卒業式のことを終学会というらしい。
終学会には基本、卒業する生徒とその親、学校の先生くらいしか立ち入れない。なので一般生徒は立ち入ることができないのだが、特別クラス生は例外だそうで見物を許可されている。
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学校に着くと、ちょっとデカいホールに人が集まっていた。
ホールの真ん中に卒業生。手前にリシア校長。奥には生徒の親族。
2階と1階を繋ぐ階段の傍に特別クラス生と先生方の席がある。
フォイアスとミカがコチラに気付いたようで手招きしてくる。
俺以外の特別クラス生は既に集まっているようだ……。寝坊してしまったからな……。
急ぎ足で席に座ると同時に終学会が始まった。
リシア校長は「コホンッ」と一つ咳払いした後話しだした。
「皆さんは今日で卒業となりますね……。ですが、まだ子供だということを忘れてはなりません。
子供というのは未来の選択肢が無限と言えるほどに広がっています。」
1人ずつの目を確認するようにリシア校長の目が流れる。
「私が言いたいのは一つ。自由に生きなさい。
この中には家業を継ぐ者、進学する者、騎士や兵士となる者など、様々な進み方をする者達が居ますよね。」
心当たりある卒業生は頷きだし、熱心に話を聞いているようだ。
校長先生の話ってのはいつも聞いているふりをして寝ていた俺だが。
今回のリシア校長の話はとても聴き入ってしまう。何故だろうか……、始学会とは大違いだ。
「その進んだ道があなたの望んだ未来に繋がらないのであれば引き返してもいいのです。たとえ逃げ出すことになっても……。歳を取れば取るほどそれが難しくなります。何故か分かりますか?
それは、社会に囚われてしまうからです。まだまだ無垢なあなた達だからこそできる選択です。」
じゃあ精神年齢がそろそろ40越えそうな俺はダメなのかもしれない。悲しくなるよ……。
「すいません、忘れていました。最後に一つお願いがあります。」
一呼吸置いて再び口を開く。
「皆さん。どうか後悔のない人生を送ってください。」
言い切ると、リシア校長は教師用の席に座ってしまった。
後悔のない人生か……。
今の生活には満足している。友達もできたし、家族とだって毎日話している。
だけどそれはずっと続くわけじゃない。
人生っていうのは、基本何かに縛られ続ける。
縛られない人生を送るには、
誰も持ちえないような才や類まれなる努力を身につけるもしくは実行しなければならない。
後悔のない人生とは、それらの選ばれた者達が送ることができるのだ。俺には才能がないから努力して頑張ろう。絶対に!
リシア校長と入れ替わる形でほかの先生が前に立つ。おそらく亜人か魔族だろう。
「それでは成績優秀者の発表を致します。」
卒業生全員が立ち上がり、何人かは前に出て賞状の入った筒を受け取っている。
「首席、トルシア・ドリカム。」
先輩は1歩前にでて首飾りをかけられた。
その首飾りを手に取って嬉しそう眺めている。
「卒業おめでとうございます……。」
「ありがとうございました!」
「次席、リスチップ・デール。」
「はい。」
リスチップさんも卒業なのか……。
デカいのに気づかなかった。あの人もトルシア先輩もこういった場面では真面目なのね。
「おめでとうございます。」
「うす……。」
照れ隠しか少し俯いて返事をしている。
可愛いとこもあるじゃないか。
「参席、アズワール・サレンジャ。」
この女の子は知らないな……。
特別クラスでは見かけなかった顔だ。
結構美人でちょっと胸も……。なんでもないです。
「はい。」
とても綺麗な声をしている。
ちょっと耳が長いからハーフエルフとかかな?
「おめでとうございます。」
「………。」
ミカやこの女の子もそうだが、やっぱりエルフ族はみんな顔が整っているのか?今のところは全員、雑誌の表紙を飾れるレベルの容姿をしている。
その後は来賓紹介やどこぞの偉い人からの祝福の言葉?的なやつなどがあったらしいが、俺は聞いていない。何故かって?
それは目を覚まs……瞑想を終えたら既に終学会は終わりっていたからだ。フォイアスに起こしてもらわなかったら危ないところだったかもしれない。
「やぁ。1年のボーイ&ガール達!」
「トルシア先輩…。卒業おめでとうございます。」
先輩は一瞬だけ悲しそうな顔をしたが直ぐに笑顔に戻る。俺たち3人をこれでもかと見つめたあと、話を始めた。
「実は私ね、第三騎士団に入団することになったの!」
俺とミカは驚きすぎて開いた口が塞がらなかったがフォイアスは丁寧に受け答えしている。
「本当ですか!凄いですね先輩。」
「そうでしょう〜。敬ってくれてもいいぜぃ。」
「アハハッ!敬うかどうかは置いといて、本当に凄いことですね。」
フォイアスの笑顔で女の子殴っていそうな笑い方が俺の耳に響く。
「ペヤード・フリーゲンさん以来の逸材とか言ってたよ。たしか。」
俺のお父さんやないか!
やっぱりペヤードは凄いんだな……。
「フォイアス君は進路決まってるの決まってなかったら……」
全部いい切る前にフォイアスが口を挟む。
「僕はペルセウスと一緒に冒険者になりたいと思ってます。」
俺はフォイアスに冒険者になりたいとか言ってないような気がするんだが?
まぁどうせパーティメンバー集めないといけないんだからフォイアスなら大歓迎だ。
「わ、私も一緒に……。」
静観していたミカも会話に参入してきた。
「1年ズの3人で冒険者パーティ組むってことかい?!」
これにはさすがのトルシア先輩も驚きのようだ。
ミカも冒険者に……。仮にも領主のご令嬢なのに、冒険者なんて野蛮なことして大丈夫なのだろうか…
「僕達2人はその気だけど、ペルセウスはどうしたいのさ。」
「俺は……。」
この2人は俺が学校の中で1番親しいと言っても過言ではないそんな2人が俺に着いてくるって言ってるんだもちろん返事は
「2人と冒険者してみたい!」
こうして1年ズの進路が決まったのであった!
※第2章 冒険者編はあと5話くらいしたら始まるかもです。多分スムーズに進みます。
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〜終学会を終えた日の夜〜
「はぁッ!はァ……!」
夢を見た。この様子から察して貰えると思うが当然悪夢だ。
窓から外を眺めてみるとちょうど月光が目に入ったようで明るかった。
夢の内容は前世のことだった。
この世界にきてから前世の夢は偶に見るが悪夢ではなかったはずだ。
記憶を辿るように夢の中の出来事を振り返る。
初めは……そうだ進路のことだ。
中学三年生の夏だったか秋だったか忘れたが……
高校を決める時、俺は中の上くらいの進学校を選ぼうとした。
だが担任と親は落ちる可能性があるからとワンランク下の普通以下の高校を選んだ。
担任は学校のブランドを落としたくないから、
両親は、もしも落ちた時の世間体を心配していた。
その後ブラックホールに吸い込まれるみたいにどんどん暗闇に沈んで行った。
終学会で話したと思うが、人生とは何かに縛られるものだ。
この時の俺みたいにね。
これだけでは悪夢とは言いきれない。
次は高校だ。
入学して数週間後の話だ。
それまでの俺は見事いんきゃポジに君臨していたのだが、ある出来事をキッカケにバブられ、殴られ、蹴られの生活が始まる。
確か体育でしたサッカーの授業だ。
「ほらこっちパスパス!」
「取れよ!」
「どこ蹴ってんだよ!」
弾丸のようなサッカーボールが俺の顔に目掛けて飛んでくる。俺は避けようと必死になって体勢を崩してしまう。体勢を崩した後ろには学年で1、2を争う可愛さの女子が居た。
「キャァーーー!!」
甲高い叫び声と共におれは突き飛ばされる。
「痛ってぇ……。」
尻もちをつき、グラウンドの砂で手が擦りむけた。
「このキモオタに体触られ……て、」
女は泣き出してしまった。
さらに災難なことにこの女は素行が悪いことで有名なヤンキーの彼女だった。
それからは言うまでもない……。
そして次だ。
「き……。ここにご飯置いとくわよ。」
これは引きこもってから10年経つ頃だったか……。
「あぁぁ。」
冴えない返事をして扉の前にあるトレーを机に運んだ。リビングから声が聞こえてくる。
「あの子もうダメよ…。何をするにも無気力で昔のようにはもう……。お父さん、あの子を1度病院に連れていきましょう。」
「あまりしたくはないが……。これでダメなら追い出してでも自立させるしかないな。」
「なんでこんなことにッ。」母は泣き出してしまった。父は慰めるように言葉をかけるが止まらない。
両親には感謝しているが、感謝している者たちだからこそ失望されると心に響くものだ。
そして俺は血が出るまで頭を打ち続けた。
あぁ悪夢だな。
久しぶりに日本を思い出したよ。思い出したところでいい思い出なんてひとつもないけどな。
リシア校長が言っていたよな。
「後悔のない人生を送ってください。」だったか。
前世の俺は後悔してもお釣りが出るほどしていたからな……。
前世のような人生は送らない。
絶対に後悔のない人生を送ってやる。
俺はそう心に決めた。
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