14話 お買い物
今日は学校がないので買い物に行くことにした。
何か特別欲しいものがある訳ではないが、ペヤードが「久しぶりにデートでもしようか。」なんて言ってくるので仕方なくである。
午後過ぎのまだ明るい日差しが俺たちを照らす。
街道には多くの人が賑わっており、子連れが多い。
アルト村には商店街的なものがあり、何か欲しいものがあれば大体そこへ行く。
まぁ現代で言うところのイオ○モールかな。
あそこまで大きいものではないが、長い一本道の傍らに店が並んでいる感じだ。イ○ンよりもアウ○レットとかのが近いかな……。
「ペルセウス何か欲しい物はないか?」
「魔法の教科書とかは欲しいけど……、そういうのはお父さんかリシア校長に聞けばいいしな〜。」
「父さんは優秀だからな〜。」
ペヤードが顎に手を当てながら自慢げに話す。
「最年少国軍騎兵なんて肩書き、父さんしか持ってないんだぞ。」
ペヤードは嫌いじゃないけど、こうやって圧倒的な才能の差を見せつけられるのは好きじゃない。
話を逸らそう。
「騎士と騎兵の違いってなんなの?」
俺たちはベンチに腰を掛け、歩き疲れた足を休ませることにした。
「騎士は国の内部を守り、他国を侵攻する者たち。騎兵は他国の侵攻を防ぐ者たち。てな感じかな……。」
「どっちの方が強い?」
「騎士団かな〜。騎士団には年に1回新人武闘大会があるんだが……。」
「あるんだが?」
ペヤードは上を向いて言いたくなさそうな顔をしている。
「圧倒的だったよ。騎士団の半数は良いとこの貴族の坊ちゃん達が在席しているが、もう半数はこの国でも選りすぐりの剣士や魔法使いが集められてる。」
「お父さんも負けちゃう?」
俺が少し悲しそうな声をすると、ペヤードは勢いよく答えた。
「八席に負けることがあったとしても、そこら辺の騎士団員に負けることはないさ!安心しろ。」
「さすがお父さんだね!」
ペヤードは「うんうん」と言い、嬉しそうな顔をして俺の頭を撫でてくる。
「お父さん八席ってなに?」
「八席ってのは、騎士団は八個の支部があって、その八支部の代表達。つまり騎士団の中で高い実力を持った八人ということだ。」
そんな人達がいたのか!
世界はまだまだ広いってことだな。
「お父さんやリシア校長でも勝てないのか……。」
「あれ?知らないのか?」
「何を〜?」
「リシア校長は元八席の一人だぞ。」
「えぇー!」えぇー!
確かにおかしいとおもったんだ。
ペヤードでも化け物のような強さを持っているというのに、それよりも更に上がいるのがおかしいんだよ。
「伝説級の魔法使いが普通に教師やってる方がおかしいんだ。あの人は十数年前に引退して、やる事がないから教師になったらしいぞ。」
「じゃ、じゃあ八席は全員。リシア校長と同じクラスの強さを持っているってことなの?」
ちょっと動揺した。
そりゃ自分の学校の校長が国でトップクラスの魔法使いとか信じられるか?普通……。
「あの人は八席でも別格。ほかの八席は俺よりちょっと強いくらいだな多分。校長みたいに伝説級の強さを持つ人は王国見ても数えるくらいしかいないよ。」
ほぉ〜。校長もペヤードもそんなに強いのか……。
推測だが八席の実力は最低でも英雄級、高くて伝説級くらいだろう。
「リシアさんが校長になってからこの村から国軍や騎士団にいく人が急増してな……。教師としても素質があるらしい。」
才能が羨ましいね……。
しかし、身近にこれだけ強い人がいるのは逆にラッキーじゃないか?
それだけ技を見れるということだし、経験も積めるだろう。中々、環境には恵まれている。
「ペル。そろそろ買い物をしよう。」
ペヤードはそう言うと俺を持ち上げて、立ち上がった。俺は地面に下ろされ、そのまま手を引かれる。
前世でも小学生の頃、遊びに連れて行かれる時にこんなことされた気がする。
「どこに行くの?」
「前から買ってあげたかった物だよ。」
手を引かれたまま、街道を進んで行く。
奥に行くほど、物騒な店が多くなる。
俺たちはある店で止まった。
看板には
「武具屋?」と書かれている。
「そうだ武具屋だ!ペルセウスも学校に入ったし男なら1本くらい持っておくべきだ。」
ペヤードは店のドアを開け、俺を手招きする。
ペヤードの後をついて行くように店に入ると、そこは以下にも武具屋!な光景が広がる。
「凄い……。壁が全部、武器で埋まってる。」
俺が関心しているとゴツイ獣族の店主に声をかけられた。
「坊や、お父さんとお買い物かい?」
見た目に反して優しそうな人で良かった。
この顔どっかで見た気がする。
誰だ?
「久しぶりだな!アマネ!」
ペヤードは弾けた声で店主に話しかける。
「お前は……。ペヤード!ペヤードじゃないか!」
どっちもお知り合いらしい。
学校の同級生とかだろうか……。
「何年ぶりだ?!こいつはお前の子供か!」
「8年くらいになるかな。この子はペルセウス。ペルセウス・フリーゲンだ。」
ペヤードに肩を掴まれ紹介される。
「どうも、ペルセウス・フリーゲン6歳です。」
「ちゃんと自己紹介できて偉いぞぉ〜ペル。」
「ちっ。親バカかよ!」
店主は少し悪態をつきながら俺たちの方を眺めていた。
「6歳……。俺の息子と同い年じゃねぇか?」
はて?誰だろうか、獣族でこの人みたいな犬顔で始学会でマーキングしてそうな奴……。
「あっ!バレルのことですか!?」
「そうだそうだ!うちの息子だよ!」
「通りで顔が似てると思った〜。」
「だろう?俺に似てイケメンに育ったんだよ!」
店主のアマネさんは自信満々にそう言っているがバレルもアマネさんも普通の顔立ちである。
「どっちが親バカだよ……。」
「うるせぇ。子供は可愛いもんだろうが!」
「それはそうだな。」
2人は無言で握手をして、お互いを讃えあう。
「そんなことよりよ、今日は何を買いに来た?」
「忘れていた!ペルセウスの剣を買いに来たんだよ!」
おいおいお父さん……。
さっきまで「男なら一本は持っておくべきだ。」とか言っておいて、忘れるなんて酷いじゃないか。
まぁ俺の下半身にはひのきの棒が常備しているので要らないかもしれないがな。ワッハッハ……。
「お前が使ってるのをあげりゃあいいのによ。」
ペヤードは横に手を振り、否定する。
さっきまで笑顔だったが急に真面目な顔になり語り出した。
「あれは魔剣だ。使い方を間違えれば使用者が死ぬことだってある。そんな物を息子には使わせたくない。」
「悪ぃ悪ぃ。まさか魔剣だなんてな……。優秀な騎士や騎兵には魔具が与えられるってのは本当なのか?」
「あぁ。俺もそうやって貰ったからな。」
確かそんな話聞いたことあるな……。
魔具は強力な力を持つが、制御が困難な物もあり、一般人が使えば暴走したり魔具に身を滅ぼされたりすることもあるのだそう。
昔読み聞かせてもらった絵本にも書いてあったな………。
なんだっけか、『魔剣アレス』と『魔鎧アレス』だったか。この2つを初代ローリア国王は国を統治した際に神から授けられたという伝説がある。
「確かあれだろ?『魔鎧アレス』だっけか?盗まれたんだろう?」
えぇ!そんな大事な物をどこの誰が?!
確かにココ最近ペヤードが居なかったのは神話級の魔具が盗まれたからとか言ってた。
「あぁ。飛んだ大バカ野郎もいるみたいだ。」
ペヤードは苛立ちを隠し切れずに口調が荒くなっている。祖国のお宝物が盗まれたのだ。分からなくもない。
「『魔鎧アレス』で思い出した!いい剣が入ってきてるぞ!」
「まさか魔剣じゃないよな?」
ペヤードが店主を睨みつける。
店主は少し冷や汗をかくが急いで訂正し、様々な武具や魔具が置いてある、棚に俺たちを案内した。
「これだ!」
その大きな手が指さすのは、一本の剣だった。
素人目から見てもわかる。
芸術的な美しさ、
触っただけで切れてしまいそうな刃、
光る刀身、
これはとてもいい剣だ。
「アマネ……。これはもしかして、」
思い当たる節があるのか、腕を組考え事をしているようだ。
「多分お前が考えていることと同じだと思うぜ!
これは『聖剣エクスカリバー』。のレプリカだ。」
『聖剣エクスカリバー』実在したのか!?
前世ではRPGの定番中の定番!最強武器の1つだ。
持てば王になれるという逸話すらある。
「いい剣だな!いくらだ?!」
「大判銀貨20枚だ!」
大判銀貨1枚あたりを日本円換算すると確か5万円くらいだから
20×5で100万円前後ってとこだろう。
剣一本で100万円は高いのだろうか?
一本あたりの相場を知らないので考えても無駄なのだが。
「20枚か……、少し高いな……。ちょっと安く出来ないか?」
ペヤードは申し訳なさそうに尋ねる。
子供の前で値切る父親の姿は普通カッコ悪いのだろうが、何故かカッコよく見えてしまう。
イケメン補正かな。
「お前には何度も助けられたし、村長からもお前が何か買う時は安くしてくれと頼まれているしな……。おおまけだ大判銀貨10枚でいいだろう。」
※なんで村長が優しくしてくれるかはフォイアス・アルト・ガントレットのコミエンソを見よう!(告知)By作者。俺が世界
パァとペヤードの表情が柔らかくなり、アマネさんの手を握り何度も「ありがとう」と言っている。
俺たちは会計を済まし、お礼をして店を出た。
外は少し暗くなり始めてるみたいだ。
買った剣はペヤードが背中に掛けている。
……俺も早く身につけてぇ〜。
ついさっきまでは人が溢れかえっていた店も随分落ち着いている。
帰るついでに夕飯の材料を買っていきその場を後にした。肉と野菜、牛乳、いも、きのこ。今晩はシチューもどきかな。
この世界の食事にもだいぶ慣れたがやはり前世の食事の方が断然上手い。何せこちらの世界の文明レベルはまだ中世くらいだからな……。
歴史とか得意じゃないからよく分からんけど。
生活は魔法や魔術に頼りきっているからな〜、
なかなか文明が成長しないのだろう。
引きこもり時代をゲームとアニメで乗り越えてきた俺には中々ハードである。
……………………………………
商店街を出て、夕暮れの日を浴びながらペヤードに手を引かれ帰宅している。
歩くだけでは暇なので他愛もない話をしていた。
「ペルセウスは剣士とか目指さないのか?」
「魔法だけで強くなる気はないから、剣術も覚えるよ!」
「そうか。もし本気で強くなりたいのなら、騎士団や国軍じゃなくて冒険者になるのをオススメするよ。」
「冒険者?」
「冒険者は国や個人、村や街など誰かが依頼したクエストを完了して生計を立てる職業のことだ。」
「どうして騎士団とかはダメなの?」
「ダメとは言ってない。しかし、子供のうちは経験を積んだ方がいい。金の使い方、魔物や悪い人達と戦う機会のある冒険者の方が初めはいいと思う。」
確かに一理あるな。
後からでも騎士団とかには就くことはできるのだ。
経験を積んで社会を知った方がいいと俺も思う。
「学校を卒業したら冒険者になって、大人になったら騎士団に入りたいな!」
「なに?!国軍には来ないのか?!」
「お父さんとは違う道を歩みたいんだよ!」
「お父さん……悲しい……。」
「元気出してよお父さん!」
そんな他愛もない話をしていると、道の横に広がる林から人が出てきた。異様な雰囲気がする。
今は春と夏の中間的季節だ。
気温もそこそこ高いはずなのに、そいつは明らかに季節外れな格好をしている。
古びたローブを着ており顔や体もよく見えない。
俺の勘だが、ペヤードと同年代かそれ以上ほどだと思う。
俺とペヤードはそいつを凝視するが、フラフラと歩くだけでこちらには干渉してこない。
耐えきれなくなったペヤードが口を開く。
「おい!名を名乗れ!」
そいつは答えない。
ただの貧乏な人かもしれないがとてもそうには見えない。そいつの指には高価そうな指輪が、光っているのがチラッと見えた。
「…………成功したんだな……。」
「何が成功なんだ?!質問に答え……」
消えた。
今目の前にいたのに……。
一体何者だ?
神の使いとかか?
魔術を使いこなせないから回収しに来たとかか?
「…………。」
俺たちは唖然としていた。
ただの変人だったらいいのだが……。
俺たちは急いで家に帰り、翌日には村で不審者に注意されるようによびかけられるようになった。
本当に何事もなかったら良いのだが……。
あいつの纏っていた不気味な雰囲気が今も頭から離れない。
一瞬だけだが、あのローブの隙間から顔がうっすらと見えた。
気の所為かもしれない。動揺していたからかもしれない。
あいつの顔には涙が流れていた気がした。
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