9話 魔法決闘 (2時間目)

授業の準備を終えて大広場へと向かった。持ち物は3歳の誕生日に貰ってから愛用している、杖だ。

初めは長くて使いづらかったこの杖も、今じゃちょっと小さいくらいになった。


2時間目は魔法の実践訓練だ。実践訓練はあまりしたことがないので今日がほとんど初めてである。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「みなさん集まりましたね。それではこの中で魔法が使える者は前に出なさい。」

すると俺とフォイアスあとバレルを含めた6人の生徒が前に出た。

6人か……思ったよりもいるな。1人だけ顔を知っているな……。あれはいつぞやのエルフの女の子ではないか!

ツインテールがよく似合う可愛らしい女の子だな。


「6人ですか〜。少し待ってください。」

リシア校長は魔法で投票箱のようなものを作り、紙に1〜6の番号を書いていった。おそらく、くじ引きで対戦相手を決めるのだろう。


「では、呼ばれたものからくじを引いてください。」

「先生、魔法だけではなく魔術や剣術も使用してよろしいのでしょうか?」

「魔術は許可しますが〜。うーん、剣術は使用を禁止します。もし、負傷者がいたとしても私が回復魔法を使うので存分に戦ってくれて構いません。」


このおばさん回復魔法まで使えるのか……。

ぜひ後で教えてもらいたいもんだね。


しかし〜魔術OKとなると俺がだいぶ不利になる。この中で何人魔術を使えるかわからないが、強力な魔術持ちならおそらく負けるだろう……。

こればかりは育ちの遅さが原因としか言いようがないな。


「では、バレル・ケモナーくじを引いてください。」

バレルは「はい!」と返事をして箱に手を突っ込む。

「えーと、じゃあこれで。」

「バレル・ケモナーは3番ですね。次、ミカ・サードルフ・モレナ。」


「はい……。私は4番です。」

「ではバレル・ケモナーとの対戦ですね。」


バレルがミカ・サードルフ・モレナに「よろしくね」と握手を求めるが、無言でそっぽ向いてしまった。どんまいバレル。

彼女は人見知りなのだろうか……。

ますます萌えるでないか。


ミカ・サードルフ・モレナに関して気になることが2点。

まず1点、彼女の名前モレナはこのアルト村がある領地の名だ。もしかしたら彼女は領主の娘だったりするかもしれないということ。


そして2点目、だとしたらなんでこんな田舎に来たのだろうということ。貴族学校とかあるだろうに……。まあ可愛いから許そう。


「では次リオン・シャンドリア。」

「はい。俺の番号は2番です!」

「フォイアス・ガントレット。」

「僕は6番です。」


フォイアスは6番らしいな。

あのリオン君とやらはいかにも、俺は陽キャだぜ。みたいな風貌をしている。さぞかし女の子にもモテるのだろう。


「次、エリン・シャンドリア」

「はい!えっとぉー私は1番です!」

「では、リオン・シャンドリアと対戦ですね。」

エリンとリオンは多分兄妹なのだろう。どちらもクラスのカースト上位って感じがして近寄り難い。


「最後、ペルセウス・フリーゲン君。」

どうやら俺の番のようだ。

てか、余ってるのフォイアスだけじゃないか?


「貴方は自動的にフォイアス・ガントレットと対戦ですね。」


俺は見逃さなかった。リシア校長が一瞬笑みを浮かべたのを……。このおばはん仕組みやがった!


「では1番のペアから順に試合をします。他の生徒は私の後ろに並びなさい。

リオン・シャンドリアとエリン・シャンドリア、準備はいいですか?」

2人はコクリと頷く。


「それでは第1試合開始!」


初めに仕掛けたのはエリンの方だ。『火球』《ファイアボール》をリオンに向けて2発撃つが、リオンも馬鹿ではない。

すぐさま『水球』《ウォーターボール》にて相殺。

さらに『水槍』《ウォーターランス》で追撃。

『水槍』はエリンの肩にかすれるが大きなダメージではない。


戦いは次のフェーズに移る。


リオンが魔術を使用したのだ。

『風で導く者』《ホワイトウィンドウ》とリオンが口に出すと、成人男性2、3人程の竜巻が現れた。


エリンは逃げようとするが、風の速さに負け、試合はリオンの勝利となった。


「そこまで。

リオン・シャンドリアは魔法の理解がきちんとできています。しかし最後、魔術に頼ってしまったのはマイナスです。

エリン・シャンドリアは魔術に抵抗する手段がなかった事が敗北に繋がったのでしょう。どちらもまだ未熟です。」


リシア校長はエリンに『回復魔法』をかけ、どちらにも「お疲れ様」と声をかけた。



エリンもリオンも俺からすれば凄い部類に入る。


2人とも魔法を何発も撃っていたし、リオンなんてその後に大規模な魔術まで使用していたのだ。油断すれば俺だって負けるかもしれない……。


「次は、バレル・ケモナーとミカ・サードルフ・モレナの対戦です。準備はできてますね……。」


バレルとミカはお互い杖を構える。準備万端のようだ。

「第2試合開始!」


ぼふんっみたいな重い物が吹っ飛ぶような音が聞こえた。俺の見える限りではミカが仁王立ちしていることしかわからない。

バレルは一体どこへ消えたのだ……。


ん?視界の隅で何かモゾモゾ動いているぞ、

いた。

木の影でよく見えないが、ボロボロになったバレルとそれを介抱するリシア校長が見える。


「『回復魔法』《ヒーリング》。」

「あ、ありがとうございます。校長先生。」

「無事ならいいのです。相手が悪すぎました。」


第2試合は一瞬で終わったのだ。どうやったかわからないが、バレルは始まりと同時に10メートルくらい、ぶっ飛んだ。


「なあペルセウス。今の試合見たか?」フォイアスは俺の隣に座り、真っ青な表情になっていた。

「いや〜砂埃とかでよく見えなかったかな。フォイは見えたの?」


「バレルは、かあ、あの女の子に殴られたんだ。」

「え?まじで?」

「まじだよ。」


どうやれば6歳の女の子が殴って人を飛ばせるというのだ。魔術だろうか、それとも身体強化魔法でも使ったのか?


もし怒らせでもしたらさっきみたいに一瞬でぶっ飛ばされるだろう。八〇六十四掌とか出してくるかもしれない。


これから彼女をいやらしい目付きで見るのは辞めようと心に誓った。


「第3試合を始めます。フォイアス・アルト・ガントレット。ペルセウス・フリーゲン。よろしいですか?」

『はい!』

俺たちは互いに杖を構える。

「それでは第3試合開始!」


リシア校長の顔がとてもウキウキしている。これで大恥食らったら恨んでやる。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


戦いが始まった。

フォイアスの魔術『時を翔ける者』《ヘリオス》は超がつくほど強力だが、その分魔力の消費量も半端じゃないはずなので、ここぞという時しか使ってこないだろう。だとすると……始めはお前が得意な


「『落雷』《スパーク》!」

だよなぁ!『落雷』は強力だが空に浮かんでる魔法陣の真下にしか落ちない。そこを見ておけば回避は可能だ。


俺は『落雷』を回避しフォイアスへと近づき、魔力を込める。

もちろん使用するのは俺がいちばん得意な魔法。

3歳の頃から毎日欠かさずに鍛錬してきた『魔力

弾』だ。


「『魔力弾』!」


『魔力弾』はフォイアスの方向へと弾け飛んで行った。

しかし魔力を身にまとったフォイアスは嘲笑うかのように、俺の『魔力弾』を蹴飛ばした。


だがそんなことは知っている。もちろんこの一発で勝てるなんて到底思っちゃいない。蹴り飛ばしたことにより体勢が崩れる。そこを狙うのだ。


来た体勢が崩れた。


出し惜しみはしない。狙うなら軸足。


「『魔力弾』!」


『魔力弾』を4つ。魔力量が少ないからこれ以上は無理だ。


『魔力弾』は空を切る。多分今までで最高速度を記録するとおもう。人を殺すのに申し分ないほどの威力。いくらフォイアスが超人的魔力を体に纏ったとしても、傷くらい絶対つくはずだ。


「さすがだよ。ペル!こっちも本気をだす。」

くる。フォイアスの魔術、その名は


「『時を翔ける者』《ヘリオス》!」


フォイアスは叫んだ。

『魔力弾』を1つずつかわしている。

しだいにフォイアスの姿が追えなくなる。どんどん加速してるのだ。


予想通りだ。このために残しておいた、『魔力弾』最後の1発分の魔力。


これに全部賭ける。


フォイアスの姿が目に追えない。縦に横に二重になってブレて見える。


そして俺の真後ろに現れた。

気づいた時には吹っ飛ばされていた。


「ゴガハッ!」

呼吸ができない。


背中を打ったのか肺の空気が外に出ていく。


しかしこれでフォイアスの位置はわかった。

それに、もう『時を翔ける者』を使ってくることはない。


「『雨降らし』《レインメーカー》!」


フォイアスは手を空高く上げ雲から雨を降らせていた。この魔法は知らない。少なくとも一緒に鍛錬している時は使っていなかった。


俺は立ち上がり、

杖をぎゅっと握った。

ゆっくりとフォイアスに標準を合わせる。

魔力を込めていく……。

少し心もとないが『魔力弾』の完成だ。


『雨降らし』の雨で俺の周りはぐちゃぐちゃになっていた。


フォイアスも杖を空へと掲げる。あれだけ魔法も魔術も使っているのにどんだけ魔力量多いんだよ…。


俺の魔力は限界だ。外したら負け。当たれば勝てるかもしれない。一か八かだ。


「『魔力弾』!……。当たれぇぇぇぇ!」

「……『堕雷』《メガスパーク》。」


魔力弾はフォイアスに当たらなかった。弾いたのではない。俺の目の前で消滅したのだ、俺の「真上」の魔法陣によって。


フォイアスは『雨降らし』で俺の周りを水で浸した。そして『堕雷』での攻撃。


何が起こったか、小学生でも知ってるだろう。そうだフォイアスは感電を起こしたのだ。


完敗だ。



ここで意識を失った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

頭が痛い。ここ最近頭痛が多い気がする。偏頭痛だろうか……。


ここはどこだ?さっきまで大広場にいたはず……。

そうかフォイアスに負けたのか。

衝撃のせいか記憶が曖昧だ。


「ペルセウス!よかった目覚めて……。」

「フォイアス……。」

「ごめん。ちょっとやりすぎちゃったみたい。」

「フォイは強いよ。勝てる気がしない。」

「でも、いい試合だったと思うよ。『魔力弾』が当たれば負けてたよ。」

「当たれば、でしょ?」


フォイアスは「そうだね」と言ってフフッと笑った。

俺も笑った。なぜだかよく分からないが、

コイツと、フォイアスと友達で良かったと思う。


多分だが対等に笑い合えることが嬉しかったのだ。


部屋の扉が開く。

そこから出てきたのはリシア校長とバレルだった。

リシア校長は少し笑顔で、バレルは顔色悪くしていた。


「あら、目覚めたのね。」

「凄かったよ!2人とも!僕なんて……。」

「ペルセウス・フリーゲンあなたに話があります。」


「何か、悪いことしましたか?」

「いえ違います。あなたの戦い方についてです。」


ほう。それは興味深い。伝説級の魔法使い様が戦い方を教えてくれるなんて滅多にない話だろう。


「何か悪いところありましたか?」

「強いて言うなら……。全部です。」

「全部ですかぁ……。」ちょっとショックだった。


「あなたは人よりも魔力が少ない。なのにさっきの戦いであなたは魔法を連発しましたね。」

「そうですね。しかし1番魔力消費の低い『魔力弾』を使いました。それ以外どうしろと?」


「もっといい方法があります。あなたには『錬金』《アルケミー》を使う事をおすすめします。」

「『錬金』……。理由を聞いてもよろしいですか?」


「はぁ。『錬金』は物質の魔力を操る魔法です。

なので自分の魔力をほとんど使わずに戦う事が可能です。

あなたにはピッタリでしょう?

錬金使いだって立派な魔法使いなのですよ。」


「確かに……。ありがとうございます!僕では考えつきませんでした。」


「これからの躍進に期待しています。」


こうして俺は『錬金』の修行をすることに決めた。


そうだ、俺は錬金術師になるのだ。





〜後書きなるものー

今回1つ目のタイトル回収をしました。

あとタイトル回収が3回くらいあると思います。

サブタイトル回収も含めたら4回?これからもっと増えるかもですが……。

今のとこ4回タイトル回収あるの決まってるので、伏線回収もせないけんので膨大な量になると思います。

学校編あんま面白くないかもしれないけど、これからの物語の伏線作りなので、読者様には耐えて欲しいです。



今回の話、今後書く分も含めた中で7番目くらいに好き。

錬金術師は魔法使いの中に含まれます。

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