第4話:きりたんぽってどこも発祥名乗ってるけどここだと思うんだよね
「それじゃあ最初のゲームは明日だ。くふ、くふふっ!!……さぁて!都民のみんなは最後の安眠になるよ!おやすみなさい……」
僕は何を見せられたんだろう……?なんかやたらに芝居がかったこの男の劇?なんかそういう動画撮影だったのかな?を見せつけられてしまった……。参ってしまう。
「いやぁみんなお疲れ様。堂々として良かったよ。でも本番はこれからだから、みんな頑張ろうね!さ!撤収だ!」
おそらくリーダーであろう男の子の合図でみんながテキパキと機材を片付けている。
「………で!」
ぐるんっ!と勢いよく彼の首がこちらを向く。顔はさっきまでカメラの前でしていたような、笑顔のテンプレートみたいな感情の読めない笑顔。
「キミは一体誰なんだろうねぇ?今日!ここで!計画を始めることは!幹部以外の誰にも!教えていないよねぇ!?ねぇ!?」
一言ごとに大股一歩ずつ、表情を変えないままこちらに詰めてくる。これは、ちょっとビビるなぁ。たぶんこの人はどうすればどんな印象を与えられるか、意識してやっているんだろう。
目の奥には怒りや警戒とかは感じられず、ただ観察されているようだった。
「ふえぇ……。あの、僕なんもわがんねんだばってな、慧人くんに連れて来てもらっただげなんだけんども……」
すぐ後ろで同じように詰め寄って来ていた
「待てボイドくん、その賽ノ助の言ってることはホントだ。独断で悪ィがオレが連れて来た。なんも知らねェ一般人だ。障害にもならねェから、勘弁してくれ」
「ふぅん……?」
まだ目を離さない。
「ねぇキミぃ?ダメじゃあないか。せっかく貸切にしたのに撮影現場に入ってきちゃあ……さ」
…………。
「あぁ!そいだばわりごどしだな!んにゃ、僕も用事ば済ませだらちゃっちゃっとででぐったいに!」
まだ見られている。
「……なんて?」
「あぁいや……ごめんなさいって。すぐでてくんでって……」
視線なんて気にしていないそぶりで抜け出し慧人くんの前に逃げる。
さっきの蓮ちゃんのヤツで気を付けていたつもりだったが、どうも考えていたよりさらに危険な連中みたいだ。深入りしないことを念頭に置いて、自分の中のマヌケな部分を大きくして、取るに足らないアピールを続けようかな。
そして、おそらくこの慧人くんも人間としては悪いヤツなんだろう。今は敵じゃないだけで。金児さんの言葉がどこまで守ってくれるのか分からないけど、今はそれに頼る他ないな。
「いやぁ………参ったでねぇ慧人くん。なんか大事な撮影?してんだば先に言っといでけろな、怒らいでしまっだねが」
まだ、見てるな。しつこい。
「ハッ。それもそうだな。」
鼻で笑うなや。
「ボイドくん、コイツはただの迷子の旅行者だ。オレの恩人から頼まれたから解決しなきゃならねェ。もちろん責任はオレが持つから許してくれ」
視線は突き刺さったまま。僕の中身をほじくろうとするように。
「……分かったよ。ただし、ここから脱出してからね。キミたちのせいで少し計画が遅れそうだ」
えぇ……?隠す気なくなったの……?
何をしようとしてるかは分かんないけど絶対にろくなことじゃないし、ひょっとしたら犯罪なんて可能性もある。ここを貸し切ったってのも怪しいもんねぇ……。分からんふりしとこ。実際わからんけど。
「うぅん?いいよ……?とりあえず片付け手伝うね……?」
すたこらその場から離れる。ぼいどくん?苦手。後ろで話している2人を意図的に無視して向こうに混じる。
「どうも~。賽ノ助って言います~……。これ運べば良いんですかぁ?」
「うぅん……?まぁそうなんだけどね……。ただその、んだテメェっていうか………」
おっと。残った側唯一の男の子に話しかけてみたけどどうやらガッツリ話しにくそう
だぞ。身体は大きいけど臆病な性格みたいだ。嫌いじゃないけど。
「う~ん説明してる時間もないみたいだし、しないね?」
嫌いじゃないけど、僕だって振り回されっぱなしで気が滅入ってるし、若干ムカついた節があるので煽っておく。意味とかはない。
要求されたカメラスタンドを彼に手渡し次を片付ける。
「このパソコンは?」
「あぁそれな、そこのカフェの備品やで。データは残してないから置いときや」
100悪いヤツじゃん。
「了解でーす」
「……よし、動画から身元が割れんのだけは時間の問題やけど、後は撤収するだけや。うわ、こりゃ急がなあかんな」
時間を確認しながらキラッキラした女の子が全員に言う。おそらく僕が来てから5分も立ってないけど。かなり迅速に見えたけど急いでるんだな。
「よし、エレベーターに乗り込めー!」
陽気にそのギラッギラの女の子が指示を出して、どやどやと全員でエレベータに乗り込む。ぼいどくんと慧人くんの話も済んだようだった。
「…………でさ、あの」
「………」
「……あ?」
「どしたの?」
「なんや」
「………何?」
「5人はどういう集まりなんだっけ?」
「……テロリストだよ」
いいかげんにして欲しい。
「んだすべが……。慧人くん、やや恨むでな」
物凄いなにかに巻き込まれています。歩けばテロリストに当たるとは、都会は怖いなぁ……。九郎もテロリストになってたらウケるけど。
「それに関しては謝るがな。そもそもタイミングが悪かったし、それに、こんな状況でお前を助けてんだぞ?善良なテロリストじゃねェか。ハッ」
「あぁそう……。なにわろとんねんって感じ……。一応確認だけど携帯、充電させてもらっても?」
「それなんだけどね」
ぼいどくんが喋りだす。ていうかぼいどって。どっかで聞いた言葉だけど、名前なのかそれ。
「いいよ?」
「いいんかい」
我慢できずつい突っ込む。なるべく刺激しないようにと思ってたけどもうどうでも良くなってきちゃった。
「ホントはイヤなんだけどね。コメットの意思は尊重して君には何もしないよ。アジトまでは同行してもらう。そうしたら充電器を渡そう。僕もキミが気に入ったしね。ついでにこれね」
真っ黒の名刺が渡される。そこには龍前河原 戊亥人と書いてあった。……源氏名ってヤツ?まさか本名じゃないよな。
「私たちは秘密結社オウムアムア。絶対に捕まることはない自由の象徴さ」
分かるかよ。
「分かったよ。で、どうすればいいの?」
チーンッ♪
エレベータドアが開くとさっきと変わらない無人のままだった。て言ってもここで警察が待ってて仲間扱いされるのも困るけど。………元々居た人はどうしたんだろう?
「これからコメットとサテライトはバイクで、フレアとジェットはその足で、この場から離脱する。キミは私についてきてね」
「……はぁい。じゃ、慧人くん。ありがとね」
「おう。金児サンの頼みだからな。もう二度と迷うなや」
実際話していた分には面倒見が良く頼れる硬派な人だが(僕をここに連れてくるくらいには短慮だけど)それでも暴走族である上にテロリストだという。事情は知らないけど、知らない方がいいだろう。
6人で外に出る。外もさっきと変わらない様子で、誰もいない。びちゃびちゃの雪が薄く積もっていた。
「さ、解散だ。アジトに最集合だよ。みんなの事だから捕まることはないだろうけど、気を付けてね」
いちいち学校の先生みたいなハッキリした喋り方をする。
するとそれぞれがそれぞれの方向に動き出す。慧人くんとずっとにやけ顔の派手な女の子はバイクに。蓮ちゃんは軽く屈伸をするとタンッと軽やかに駆け出し。もう一人の男の子、ジェットくんらしい、はスタスタと焦った様子もなく別方向に歩き出す。
……統率取れてるのかな。
「……僕らは?」
「コメット達が行ってからだね」
爆音が鳴り響き、2人乗りのバイクが離れていく。
「ふぅん……オウムアムアだっけ?何するかって聞いても良い?」
2人並んで歩き、東京タワーの真下の広場で止まる。
「詳しくはさっきの動画をアップロードしてるから後で見ておくといいよ」
ボイドくんは一歩、
「くふっ……簡単に言うとね」
僕から離れて、
「暇つぶしかな」
右手を挙げる。と同時に。
ガスンッ!と。
眼前20cmにあるタイルが破砕される。
「へぇっ!?避けるんだ!?」
「ほんに撃づやづがいでたまるかってんだァこんボケェ!!!」
腕立ての姿勢から跳ねるような前転のようにして立つ。背嚢が邪魔だ。
「面白い!面白いよぉキミ!!ギャハハハ!!………ッヒー!」
態勢を整えて低い姿勢のままボイドの様子を伺う。大爆笑しながら上に向かって手を振っている。
「なんぼほど笑うんじゃオイ!!」
以前笑い続ける。どうにかコイツをとっちめたいがうかつに動けない。さっきのはほぼまぐれだ。
「どうやって避けられたの!?最初から気づいてた!?」
「んなワケあるか!あのちっちぇ女の子が外に出たのとおめが合図出すどご見ただけだ!」
「決めたよ賽ノ助くん!!キミを鬼と認めよう!キミみたいなのを待っていたんだ!!ありがとう!!」
コイツ……いやテロリストなんてそうだろうが、間違いなく頭がおかしい!
ゆっくり歩き出し足元の弾丸を拾ってタイルを踏み固める。
「是非とも参加して欲しい!!僕は行くけれど、ここに残られてもちょっと困るから、キミも逃げなよ!」
そう言って上を見上げ、なんかしらのジェスチャーを送る。
「さ、後1分でここから離れてね!」
次は絶対に躱せない。銃撃音がなかったのでおそらくサイレンサーを付けているんだろうが、狙撃銃の銃撃は音より速いらしい。
目だけは離さないようにしながら逃げる。
「これから始まるのは鬼ごっこ、マンハントゲームだよ!キミも参加してくれたら嬉しいな!!」
「まずは羽田空港に来るといいよ……彼が相手だ。ぐふっ…ぐふふっ」
そう言ってきったない笑い方で悠然と歩いて行くのを最後に僕が別の建物の陰、路地に隠れる。
「一体なんなんだホンットに!!わげわがんねぇでや!!」
細い路地に身を隠す。
最悪だ。最悪に最悪を掛け算した真の最悪。九郎風に言うとクソカスのうんちうんちうんちだ。
「……ふぅ~」
とにかく今はここで待機しようか。警察だってすぐ来るだろうし。
全く……もとはと言えば慧人くんについてきてしまっ……いや、迷子に………。もとはどこだよもう。
携帯の電池さえあれば………。
ポーチから携帯を取り出して電源ボタンをもう一回押してみ
ガキッパキャン!!
は?
焼けるような痛みが頬を裂き、反射的に身をひねる。スマホのカメラがあった位置に大きな穴が開いていた。さっき音のあった方を見ると、向かいの建物に付いていた方の室外機の足元の角が思い切りへこんでいる。そんなバカなことが。信じられない。
が、頬の痛みと垂れる血が警告している。
たぶんまた狙撃された。直接見えていないはずの人間の持っているスマホを跳弾で撃ち抜ける人間なんて聞いたこともない。ないが、ここにいるのはダメだ。
穴の空いた携帯だったものを一応持って奥に進むことにした。
「………よし、決めた。殺す」
心を透明に。そして一筋の黒を。
「いいが賽ノ助。おめばこんな仕事するごだねんだ。人間社会ちゅうもんの方がよっぽどい」
じさまは山に入って帰ってくるたびそう言った。
僕の家は先祖代々またぎの家系だった。蔵の中にあったかび臭い家系図を見たこともある。ざっと15代は遡れたが、代々長男がまたぎ。あとはコメ農家だったり。
「おめの親父ば賢がった。自分で考えで決められる人間だもんで、ウヂがらででった。今だばそいで、合っでらんだごった」
おとんは僕のものごころのつく前、ついた頃かな?ものごころが何だか知らないけど。そのくらいの時に交通事故で死んだ。何でもない日に。出勤途中の何でもない道で。
あ、おっかぁのことは何も知らない。さらに前に出てったとか。じさまはその話はしたがらなかった。だいたいは想像がつくけど。
「じー?んだばじーは何で山さ入らんだが?田ぁやるなりあるべにや」
これはあんまりにもじさまが自分の仕事を勧めないから気になってたまに聞いていたことだ。僕にはやるなと言いつつ、自分は山に入って狩りをする。じさまは田んぼも畑も知識もあるしやろうと思えば土地もある。
こう聞くと決まってじさまは嬉しそうに声を出さずに、息を吐くように笑う。
「カッ……!おいんごどだば何のごだね。ただ、ただ……んだな。染まってまったんだな。わんちかばりでも山さ染まればな、社会さば合わねぐなるんだな。だがら言ってらおんだ、おめばこうなるなって」
何が嬉しいのか分からなかったけど、そういうじさまはいつも笑う。
それが分かったのは高校に入った後だった。
「おい賽ノ助?おめ大学ば決めだんだが?」
「ん、ああ。そいな………。なぁじい、大学さば行がね」
そう言った途端にじさまはブチ切れた。
「んだオメェ!オメェもバガだおんだが!?なして言うごとば聞がね!!」
「だばって!蔵んあったばさまの反物まで売ってまっで!金ねんだべ!?高校まで行がせでもらっで!大学まで行ぐわげにゃいがねぇでば!!」
「………ックソバガが!」
そうやってケンカをして。しばらくあと。
「おい。賽ノ助、ついで来い」
「あ?」
「来いでば!」
秋、じさまが山に猟に行くところだった。ジャンパーを着込み、猟銃と弾、免許を確認している。
「来いって……。山さが?」
「…………んだ」
「なして?」
「……ただついで来い。そんだげでい」
「…………おう」
それからの山狩りにはほぼいつも一緒に行くことになった。色々教えてもらいながらただ必死についていく。それだけ。
普段はよく怒られるが山では決して怒鳴られることはなかった。無駄だからだ。
「この糞ば熊だが?」
「違え。そいば鹿んだ」
「待ででや。クソば埋めろ」
「おう」
「シッ……!」
「…………ッ!」
初めて間近に熊を見た時は本当に怖かった。今でも鮮明に思い出せる。体長は1mにも満たなかったからツキノワグマのたぶん亜成体くらいだろうが、今まで見た人間なんて比にならない程の生命力を全身から発していたようだった。僕の今までの経験とか人生観とか、コイツにはどうでもいいことだろうな。なんて感じた。
ソイツはじさまでなく、その後ろの僕に気づいて目が合って2秒、逃げていった。
じさまはその時、怒ることも注意することも落胆することもなく、僕の顔を見ていた。
それを繰り返し、しだいにじさまの言う”染まる”ってのが分かってくる。
取るに足らない話ばかりの友達と一緒だった高校も三年生になると、だんだん話題は絞られる。ゲーム、勉強、ゲーム、漫画、進路、成績、夢、進路。九郎も他の友達も例外なく。ただ僕だけがそこに居なかった。
まったく真剣になれなかった。進学とか、就職とか、そんなものはなんというか、正しくないと思った。ただ自然の営みが真実だ、なんて。
じさまはそれが”透明”だと言った。お前は”透明”に染まったんだ。と。
それともう一つ。
「ん?どしたそれ」
「いやぁさっきさ、コンビニでえらい怒鳴ってるジジィ居てなぁ。後ろに並んでただけの俺さも文句つけてきやがって。ちょっと言い返したらひっぱたかれた」
「そんで?」
「いや、そんだけ」
「……そんなん九郎のが強いだろ?」
「まぁそりゃそうだけど。酔ってたみたいだし」
「……じゃあ、あ、いや違うか」
だんだんこんな会話が増えてくる。嫌なことがあっただとか嫌な人の話だとかを聞くと、『そんなの殴ればいいのに』『なんでそんな状況から逃げないんだろ』『いざとなったら――』そんな思考が自然に選択肢に入ってくる。
じさまはそれが”黒”だと言った。それが一筋の”黒”だと。
結局、いつの間にか高校では狩猟免許・罠猟免許の勉強をしていた。そうするのが自然だった。
じさまは何も言わずにただ僕を山に連れて行った。
それは高校を出る直前のことだった。
僕も随分慣れてきてかなりするすると山を歩けるようになっていた。それは驕りだったんだけれども。
本当は免許を取る前だったが、じさまの監修のもと罠の設置をしてみた。と言ってもほとんどやったのはじさまだ。場所の選定も設置のほとんども。
そしてしっかりと掛かっていた。イノシシだった。イノシシは畑を食い荒らす全国共通の害獣だから、そういう仕事だ。
これまで何度もじさまが獲物にとどめを刺すところを見たが、その日は違った。
僕に渡されたのは大振りのナイフ。
「やれ。手でな」
「ん、おう」
別に大げさな緊張はなかったしそうあるべきではないと思った。生きるも死ぬも、生かすも殺されるも、別に覚悟が必要なことじゃない。ただそれは在るだけだ。今でも思う。ただほんの少し、小さな油断があっただけだ。
僕は正しく心臓にナイフを突き立てた。深さも充分に。そこで安心してしまった。
ただそこに在るだけの”死”だが、それをただ受け入れる生物はいない。
「あがっっ…………!ギっ……!!」
大きく身を捻ったイノシシの牙が僕の喉をずっぱりと切り裂いた。
「賽ノ助ぇっ!!」
そこからは何が何だかしっかりとは覚えていない。
視線の先に、イノシシのと僕のとが混じりあった血が枯葉に染みていくのを見たような気がする。
次に目が覚めると病院だった。麻酔かなにかでぼやけた痛みの中で目が覚める。
「おいっ?起ぎだが!?」
首が固定されて全く動かないので背骨から捻りじさまの顔を見ると、目には隈があり憔悴しているようだった。
「…………あ、あ~、いで。一応説明してくんねが?なにがあったが」
じさまが必死で救助したことを説明される。救急車が入れるところまで僕を担いで運んだらしい、流石だ。
「こんバガめが」
「…………あぁ、わり」
それ以上は怒る素振りもない。
僕も罪悪感は多少あったが、別の感情でいっぱいだった。
その時やっと、じさまが笑いながら『俺のようにはなるな』だなんて言ってきた意味が理解できた。理解してしまったらもう遅い。たぶん先祖代々同じように言われて育ったことだろう。
言葉にするとしたら、これは『誉れ』だろう。
そうして僕の喉には『誉れ』が残った。
高校卒業後、僕は地元で適当な居酒屋のバイトになった。チェーン店じゃないやつ。店長は地元愛の強い人で、
「きりたんぽってどこも発祥名乗ってるけどここだと思うんだよね」
郷土料理に誇りを持っていた。形だけの面接のとき、首の手ぬぐいを取り生々しい傷痕を見せ、これでもいいか聞いたら最初は難色を示したが経緯を聞いて納得したようだった。奥さんは変わらず難色まみれだったけど。
そうやって猟の勉強をしながらバイトする生活を続けていた時、幼馴染の九郎から提案があった。
「俺も大学卒業したらこっちで就職だと思うだけどな?そうなったらもうしばらく遊べねぇと思う。今のうちにちょっと遊びにこれねぇかな?」
そう言われると急にさみしくなった。どれだけ自然が充実していようと友達はかけがえのないもので、自分にもそういう面がちゃんとあるんだと面白くなる。
「行ってこい。おめさこいがら友達ばでぎねったいに、大事にな」
凄いことを言われてしまったが、それは正確だと思った。
「へば行ぐでな」
「おう」
「おう!一週間予定取ったばって東京さ行ぐでな!腹いっぺぇ遊ぶべった!!」
「殺す」
引き金を引いたのは別人だが、アイツは僕に殺意を向けた。人として関わるべきでなかろうが、動物として生物として許すわけにはいかない。そうしないのは僕の正義じゃあない。
じさまならなんて言うだろうか。
ごめんな九郎、遊べなくて。
すべての感情の優先順位を下げ、もう一度僕の意志を確立するように言葉にする。
「龍前河原 戊亥人」
「殺す」
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