夢の中で逢った君
(お題:夢、嘘、愛)
夢の中でとびきりの一目惚れをした。
陽気な朝日の差すベッドの上、僕は叶わぬ恋に頭を抱えた。もう一度夢の世界へ行くために目をつぶっても、去ってしまったあの人は戻ってこない。せっかく好きになったのに告白もできていない。後悔すらできない最悪の失恋だった。
彼女の顔が日に日におぼろげになっていく。にもかかわらず、依然として食欲はわかず、時折思い出したように胸が苦しくなる。初恋というほど
僕の心情を知ってか知らずか、ある日友人がこんなことを口走った。
「夢の中で会った人って、地球のどこかで実際に存在しているらしいよ」
「えー! ロマンティック―!」
合コンの席で女性たちは感声をあげたが、僕は即座にその場から抜け出すと、自宅でパソコンに向かった。探偵事務所のウェブサイトを検索して、そしてすぐに諦めた。捜索を依頼しようにも、彼女についてなんのヒントも持っていない。
諦めて、しかし諦め切れず酒に逃げていた頃、友人がある話題を口にした。
「This manって知ってる?」
ある女性は、夢の中に同じ男が繰り返し現れると悩みを打ち明けた。その似顔絵を見た別の男性も、その男を夢で見たことがあるという。ネット上に公開したところ、人種国境を超えた人々の夢にも同じ顔の男性が現れたという報告が相次いだそうだ。
嘘みたいな話だが、これはきっと天啓だ。僕も同じことをしようと思い立ちペンを握った。だがすでに彼女の顔を思い出せない。その上、圧倒的に画力が足りていなかった。
しかし今度は諦めなかった。
待てよ。画力が向上すれば可能性は出てこないだろうか?
その日から美術系の専門学校に通い、人物のデッサンをはじめ、画材にもこだわってみた。今はまだ顔を思い出せなくてもいい。ただ努力を続けて、最高の女性を描けるようになれば、いつかインスピレーションに従って深層心理から彼女が浮かび上がるはずだ。
「どうぞ、ご覧になっていってください」
十数年が立ち、僕は都内で小さな個展を開いていた。
外からも見える位置に飾った、たった一枚の巨大な絵画。行き交う人も一度は足を止めて眺める。
ひとりの女性が尋ねてきた。
「言葉にできないくらい、素敵な絵ですね。でもこの女性、顔の部分が描かれていないのはどうして?」
「愛ゆえです。僕は、彼女の内面に惹かれていたと思い出したのです」
————
勢いって大切です。
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