事件の香り

(お題:秋晴れ、コメダ珈琲、バイキンマン)


 事件の匂いは珈琲の香りと共にやってきた。


「ガキどもを拉致ってこい」


 の窓際、私はいつもの特等席に座っていた。コメダブレンドをすすり、シロノワールをつついていると、後ろの席から穏やかでない会話が聞こえてきたのだ。


(これはなにか臭うぞ)


 悪事の匂いを嗅ぎつけるのが私の役目である。シロノワールに舌鼓を打っていた味覚を、すぐさま嗅覚に切り替え、そして聴覚に集中させる。


「いやぁしかし、子どもたちはいつも群れています。これじゃ簡単に手を出せません」

「おれさまがやれと言ったら、おまえはハイとだけ返事をすればいいんだ」

「……ハイ」


 この会話。犯行の打ち合わせをしているのか。だが不運なことに、見習いとはいえ刑事の私がこんな近くで休憩しているなんてやつらは思ってもみなかっただろう。ボイスレコーダーを仕込んでいると、そこに私を見つけた同僚が現れた。


「おい、チーズ。おまえ新米のくせにいつまで休憩してやがる」

「アンさん! ったく遅いですよ。会議資料の打ち合わせをするって約束だったじゃないですかぁ。(シーッ……静かに後ろの話を聞いてください)」


 話しながら、私は先輩刑事のアンさんをジェスチャーで素早く制すと、後ろの席に向けて視線を送った。緊迫した雰囲気を感じ取ったのか、アンさんは神妙な顔で頷くと自然な素振りでウェイターに小豆小町のすみれをオーダーした。


「もう時間がない。やるしかないんだ」

「いよいよ明日ですからね」


 私はアンさんに目配せした。アンさんは資料の修正を書き出すと言いながらメモ帳を開く。この調子でやつらは犯行時刻や現場のヒントを漏らすかもしれない。


「そうだ。……ドキンちゃんの誕生日に、おれさまたちだけだと味気ねえだろ」

さん……。わかりました。でも、子どもたちにはちゃんと招待状を出して招きましょう。もう、いつも言い方が悪いから誤解されちゃうんですねぇ」

「ちっ、はひふへほー」

「すぐそうやってはぐらかすんですから」


 なごやかな雰囲気で二人組はテーブルを立った。その後ろ姿を見送り、アンさんはニヤニヤした顔をこちらに向けてメモ帳を閉じた。


「ふてくされるなよ。なにもなければそれが一番じゃねえか」

「……もし自信をなくしてくじけそうになったら、いいことだけ思い出しますよ」


 コメダを出ると、底抜けのが目に染みた。



————


二次創作的なお話。お題の組み合わせ鬼すぎない?


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