楽な関係

(お題:辛いラーメン、パン屋、青空)


 はじめに言っておくとこれは、恋愛を取っ払った男と女の、特別な友情物語でもない、大したオチのない日常の会話である。


「見て、今日の空……すごく青い。これもう沖縄の海だよね?」

「東京の空だね」

「空見上げてたら、なんだかパンが食べたくなってきたなぁ」

「雲ひとつないを見ても普通はパンのイメージ浮かばないね」

「いいからいいから」


 一言で言えば、変わり者の彼女。大学で知り合ってからなにかと気が合うので、こうしてよくつるんでいる。この友人関係を近所の幼馴染とでも説明できれば楽なのだけど、残念ながらそうじゃないのでなかなか他人には理解してもらいにくいのだ。


 最近オープンした話題のに並び、売り切れ間近の人気パンのラストワンを彼女が買った。僕はなにも買えなかった。


「絶品。このクリームパン。五分の一食べる?」

「半分とまでは言わないけどさ。せめてクリーム残してよ。もうパンだよこれ」

「じゃあ、あんこの残ってないアンパンもパンって言うの?」

「言うよ。ただのパンだって言い張るよ」

「めっちゃ強気じゃん」


 世界の半分を敵に回したね、と彼女は言う。一体どの層が敵になったのかわからない。敵に回ってどうするつもりだそいつらは。


「甘いものを食べたら、今度は辛いもの食べたくなったよね。中本行きたいよね?」

「舌のバランス感覚どうなってるんだ」

「幸せから一字抜いたら辛いになるでしょ。では、甘いから一字抜いたらどうなるかわかる?」

「えっ、わかんない。なぞなぞ?」

「答えは20。ちなみに廿日と書いてハツカって読むんだよ」

「ただの博識かよ。でも別にお~ってならないよそれ」


 そうこう話しているうちにで有名なお店に着く。僕は辛さレベル6の蒙古タンメンを、彼女は辛さレベル9の北極ラーメンを頼んだ。


「――ひゃっ、か、辛い、もう無理……」

「辛いの苦手なのに無理して頼むから」

「今日は食べられそうな気がしたんだよね」

「……わかった、残りは食べてやるよ」

「あ、ありがとっ」


 ということで、残りは彼女に食べていただいた。本当に楽なんですこの関係。




 ————


 辛さにつよい女友達、頼りになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る