????

『本日の降水確率は四〇%。折り畳み傘をカバンに入れておきましょう』

 AI音声で天気予報が流れている。

「雨か……今日は降ってほしくない。傘も嵩張る」

 豪奢な椅子に座った男はサイコロを振る。ガラゴロと音を立てて目が出る。十面の内の一つの目が出る。数字ではない何かが描かれている。何か禍々しさを感じる。

「これで大丈夫だ。で、何故『神園魔魅子』を生かしたんだ?」

 賽を振った男とは別の男が窓際に立っている。外には暗い雲が広がっていたが、少しずつ明るんでいる。

「何故? と言われましても。まだ利用できそうだったからですよ」

 男は被っていた覆面をとると、中から現れたのは山田拓の顔。微笑みを浮かべながら口を開く。

「面白いのを見つけましてね」

「『千葉恵吾』とかいうやつか? あれもついでに殺せばよかっただろうに」

「彼にはまだ役割があります」

「だからって何から何まで手出しすることもなかっただろうに。神園誘拐の時の覆面の中身は貴様だな?」

 座っている男は窓際の男へ顔をやる。

「バレました?」

 窓際の男の風貌はいつのまにか変わっていた。目立たない顔つきと黒髪は消え失せ、金とも銀ともとれる髪色に目鼻形のはっきりとした顔立ちの男が立っていた。身長も身体つきも変わっている。

「斉藤誠司の研究所を一般の競売に出したのも全部分かっている。研究内容についても被験体についてもいつかは表沙汰になってた。それが早いか遅いかというだけのこと」

「まあ、そうでしょうね」

 今度は女性の顔になっている。バー「SEGRETO」で恵吾が出会った女性の風貌だ。

「何を企んでいるのかは知らないが、計画については?」

「何も。門のことについても自力じゃあ辿り着けなかったみたいです」

「門にも魔術書のことにも辿り着けない。そんなやつに本当に利用価値はあるのか?」

「まあ見ててくださいよ。次も僕が導きます」

「そうか、まあ良い。宗教のこともナノマシンドラッグのことも貴様に任せる。利害が一致しているうちは信用している」

「それは有り難いですね。悪いようにはしませんよ」

(次はどうやって遊ぼうか)

 男は窓の外を眺めながら千葉恵吾の顔で怪しく笑った。眼下には往来する人々と、日常が広がっている。


第一部完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Occult Ludic Company れをん @Leon0527

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る