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(アレをどうにかせなな)

 斉藤誠司が持つ錫杖は厄介だ。高出力の金色の光から創り出された翼は弾丸ですら弾く。攻撃にも使用され、奪うか破壊しなければどうにもならない。恵吾は残されたナノマシンで身体強化を試みる。筋肉や神経に作用し、元々筋肉質の身体が盛り上がり、視力や聴力、反応速度にも作用する。

「身体強化はシンプルですが、厄介だな」

「厄介なのはそっちもやろ」

 恵吾が飛び蹴り。斉藤は翼で受け止め、払うような動作で恵吾は後方へ吹き飛ばされる。空中で後方に回転し着地。すかさず追撃。左フックのフェイントから右ストレート。斉藤は難なく左翼で防御。恵吾は右足での後ろ回し蹴りを放つが、斉藤は反対の翼で受け止める。しかし、衝撃を逃しきれず、今度は斉藤が後方へ怯む。

「馬鹿力だな」

「そりゃどうも」

 渾身のひと蹴りだったが、斉藤は一歩下がった程度だった。常人なら五メートルは吹き飛ぶはずの威力がある。エネルギーの消耗に比例し、恵吾の焦りも大きくなる。

(早よ決めなまずい)

 右足で斉藤の左腿を蹴り、左足で斉藤の腹部を蹴る。二段蹴りにも反応し、金色の光が集まり手応えをかんじない。斉藤は魔魅子を抱えたまま戦闘を続けているが、表情には余裕が見える。

「研究者ってのは結構鍛えてるもんなんか?」

「体力はあればあるほど良い。身体の持つ限り研究を続けられるからな」

「ただ鍛えてるだけって感じやなさそうやけどな」

 金色の光は斉藤の身体にも作用しているのだろう。恵吾の身体強化の速度について来れるだけの反応速度。恵吾のデバイスが明滅し始める。エネルギーの残量がいよいよ限界を迎えそうになっていた。

「あと何分その状態で動けるのだ?」

「さあな」

 恵吾がラッシュをかける。目で追えても反応できないはずの攻撃の嵐が斉藤を襲うが、的確な動きで身をかわし、避けきれない攻撃には翼による防御で受ける。恵吾のデバイスから光が消える。エネルギー切れにより電源が切れた。恵吾の強化していた身体が糸の切れた人形のように動かなくなる。

「時間切れか! 悪いが邪魔者には死んでもらう!」

 斉藤が恵吾の命を刈り取るために間合いを詰めてくる。翼による攻撃が迫り、翼が恵吾の上半身を貫く。吐血し、恵吾の全身から力が抜けていく。

「後はこの娘が目覚めるのを待てば……?」

 翼の先の恵吾が陽炎のように揺らめき、消える。

「ばかな!」

「いやあ危ないところでしたね」

 声のする方へ振り向くと、オリーブ色のコートを着た覆面の男が立っている。男は金色の光を薄っすらと纏っている。足元には動かない千葉恵吾。

「何故だ?」

 男は微笑み、人差し指を口に当てる。

「うおおお!」

 別の方向から怒声と共に紫の光を帯びた釘が飛んでくる。斉藤は翼で防ぎ、向き直る。炎を纏った刃がこちらへと向かってくるが、寸前で避ける。熱が斉藤の肌を焦がす。

「千葉さん!」

 桃色の光が千葉恵吾の身体を包む。

「おらあ!」

 紫色の光を纏った大きなハンマーが斉藤の頭を襲う。翼で受け止めるが、受け止め切れず後方へ。

「てめえ! 神園を放せ!」

 綱吉は追撃するも、斉藤は更に後退。

「時間をかけ過ぎたようですね」

 覆面の男は消えていた。斉藤が錫杖を振ると、金の暴風が巻き起こる。綱吉、祥貴、真理愛、恵吾が順番に吹き飛ばされていく。

「出力が違いすぎる! 今の僕たちじゃ相手にならないよ!」 

「それでも、神園ほっといて逃げられねえだろうが!」

「時間を稼いでくれませんか? 千葉さんの応急処置とデバイスのエネルギーを回復させます!」

「無茶を言う……」

 刑事は腰を落とし、ふっと息を吐き距離を詰める。刀の切先が斉藤の首元を捉える直前に翼で祥貴の身体が吹き飛ぶ。綱吉がネイルガンで援護射撃をするも、斉藤は翼を少し動かし、釘を弾く。

「お互いここで手を引かないか? 私はこの娘さえ手に入ればそれでいいんだ」

「大切な友人を連れて行かれるわけには行かないな」

「癪に障るが俺も同意見だ」

 交渉決裂。斉藤は再び錫杖を振り、金色の風を発生させる。祥貴は炎を激しく噴出させ、抵抗する。綱吉はそばにあったトロッコを盾に暴風をしのぐ。

「あれをどうにかしよう!」

 祥貴は炎を斉藤に放つ。綱吉は別方向からネイルガンを放ち、同時に攻撃する。斉藤は炎に向けて翼をはためかせ、攻撃を払う。綱吉の釘の弾丸は全弾命中せず、斉藤の向こう側へ放たれていく。祥貴の姿がない。真下から刃が急襲。炎を目隠しにし、祥貴は必殺の間合いに入っていた。

「うおー!」

 斉藤は金の光を身体に集める。錫杖の先の大きなマジカライトから光が放たれ、刃と斉藤の首の間へと集まっていく。大きな金属音が聞こえた。斉藤の首まで後数センチのところで刃が止まる。

「今のは肝を冷やしたぞ」

 斉藤は祥貴を蹴り飛ばした。祥貴は受け身を取れず、転がる。すぐさま起き上がり次の攻撃手段を考える。

「参ったな今ので仕留められないのか」

「錫杖をどうにかするんじゃなかったのか!?」

「すまない。倒せるかもという欲が出てしまった」

 祥貴の刀もエネルギーの消費が激しい。そう長くは戦えない。綱吉も決定打となる攻撃手段を持ってはいなかった。真理愛が鬼の姿になれば、敵味方関係なく戦い続けてしまう。

「それでもやるしかない!」

 祥貴は残ったエネルギーを刀へと込めていく。綱吉はネイルガンを射撃し続ける。大きな音を立てて、釘が連続で飛んでいく。斉藤は翼で防ぎ、その場から動けない。祥貴が再び動く。刀身よりも長く伸びた炎の刃で斉藤に切りかかる。斉藤は身をかわし、折り返してきた刃は翼で受け流す。綱吉がネイルガンで追撃するが斉藤は無視する。斉藤は目の前の刑事が次の一手を繰り出していることに集中。祥貴は腰を落とし、刀身を鞘に納める動作をし、刀を一気に解き放つ。居合に似た構えで、攻撃が放たれ、炎の鞘から炎の刃が放たれる。

「無駄だ」

 金の翼で払う動作をすると、炎はたちまち小さな炎となる。斉藤は前進し、厄介な刑事を倒すために距離を詰める。

「速い!」

 錫杖が祥貴に振り下ろされ、祥貴は刀で受ける。力の拮抗が起きる。斉藤が優勢だ。じりじりと錫杖が祥貴の刀を押していく。少しずつ錫杖が祥貴の身体へと近づく。

「くっ……」

 振り下ろされた錫杖を両手で受け止めているにも関わらず、祥貴は受け止め切れない。膝をつき、振り下ろされる錫杖を刀で受け止める。

「どうだ? お互い手を引かないか?」

「無理な相談だ!」

 祥貴は耐える。苦悶の表情を浮かべ、額の汗が地へと落ちる。

(エネルギーがもう……)

 祥貴の限界がもうすぐ訪れる。

「うおー!」

 青い光を纏った恵吾による体当たり。斉藤は転び、錫杖と魔魅子も床に転がる。恵吾も斉藤にもつれこむようにして倒れた。

「千葉恵吾!」

 斉藤が錫杖を拾い反撃しようとしたが、落ちていたはずの場所に錫杖がない。少し先へ視線をやると、魔魅子が錫杖を持ち、立っていた。金色の夥しい光が魔魅子から放たれて、目を開けていられないほどの光を発し、暴風が巻き起こる。その場にいた全員が坑道の壁へと追いやられる。光と風はすぐに止み、魔魅子はその場に倒れ込んでしまう。恵吾は立ち上がり、斉藤の両足を撃つ。

「ぐっ」

 苦悶の表情を浮かべ、痛みに耐えているが、斉藤は動けない。

「一緒に警察に行こか」

「斉藤誠司お前を逮捕する」

 祥貴は斉藤に手錠をかけた。斉藤は抵抗しなかった。

「皆さんこっちですよ!」

 オリーブ色のコートを纏い、緑色にデバイスを光らせた黒髪の男が坑道の奥に立っていた。

「お前どこにおったんや?」

「退路を探していたんです。急ぎましょう。今の衝撃で崩れそうです」

 拓が壁や天井を見ると、亀裂が広がり始めていた。

「皆立てるか!? 走るで!」

 恵吾は魔魅子を担ぎ、祥貴は動けない斉藤を背負った。全員が最後の力を振り絞り、地上へと走った。

 

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