9/249/25更新
(アレをどうにかせなな)
斉藤誠司が持つ錫杖は厄介だ。高出力の金色の光から創り出された翼は弾丸ですら弾く。攻撃にも使用され、奪うか破壊しなければどうにもならない。恵吾は残されたナノマシンで身体強化を試みる。筋肉や神経に作用し、元々筋肉質の身体が盛り上がり、視力や聴力、反応速度にも作用する。
「身体強化はシンプルですが、厄介だな」
「厄介なのはそっちもやろ」
恵吾が飛び蹴り。斉藤は翼で受け止め、払うような動作で恵吾は後方へ吹き飛ばされる。空中で後方に回転し着地。すかさず追撃。左フックのフェイントから右ストレート。斉藤は難なく左翼で防御。恵吾は右足での後ろ回し蹴りを放つが、斉藤は反対の翼で受け止める。しかし、衝撃を逃しきれず、今度は斉藤が後方へ怯む。
「馬鹿力だな」
「そりゃどうも」
渾身のひと蹴りだったが、斉藤は一歩下がった程度だった。常人なら五メートルは吹き飛ぶはずの威力がある。エネルギーの消耗に比例し、恵吾の焦りも大きくなる。
(早よ決めなまずい)
右足で斉藤の左腿を蹴り、左足で斉藤の腹部を蹴る。二段蹴りにも反応し、金色の光が集まり手応えをかんじない。斉藤は魔魅子を抱えたまま戦闘を続けているが、表情には余裕が見える。
「研究者ってのは結構鍛えてるもんなんか?」
「体力はあればあるほど良い。身体の持つ限り研究を続けられるからな」
「ただ鍛えてるだけって感じやなさそうやけどな」
金色の光は斉藤の身体にも作用しているのだろう。恵吾の身体強化の速度について来れるだけの反応速度。恵吾のデバイスが明滅し始める。エネルギーの残量がいよいよ限界を迎えそうになっていた。
「あと何分その状態で動けるのだ?」
「さあな」
恵吾がラッシュをかける。目で追えても反応できないはずの攻撃の嵐が斉藤を襲うが、的確な動きで身をかわし、避けきれない攻撃には翼による防御で受ける。恵吾のデバイスから光が消える。エネルギー切れにより電源が切れた。恵吾の強化していた身体が糸の切れた人形のように動かなくなる。
「時間切れか! 悪いが邪魔者には死んでもらう!」
斉藤が恵吾の命を刈り取るために間合いを詰めてくる。翼による攻撃が迫り、翼が恵吾の上半身を貫く。吐血し、恵吾の全身から力が抜けていく。
「後はこの娘が目覚めるのを待てば……?」
翼の先の恵吾が陽炎のように揺らめき、消える。
「ばかな!」
「いやあ危ないところでしたね」
声のする方へ振り向くと、オリーブ色のコートを着た覆面の男が立っている。男は金色の光を薄っすらと纏っている。足元には動かない千葉恵吾。
「何故だ?」
男は微笑み、人差し指を口に当てる。
「うおおお!」
別の方向から怒声と共に紫の光を帯びた釘が飛んでくる。斉藤は翼で防ぎ、向き直る。炎を纏った刃がこちらへと向かってくるが、寸前で避ける。熱が斉藤の肌を焦がす。
「千葉さん!」
桃色の光が千葉恵吾の身体を包む。
「おらあ!」
紫色の光を纏った大きなハンマーが斉藤の頭を襲う。翼で受け止めるが、受け止め切れず後方へ。
「てめえ! 神園を放せ!」
綱吉は追撃するも、斉藤は更に後退。
「時間をかけ過ぎたようですね」
覆面の男は消えていた。斉藤が錫杖を振ると、金の暴風が巻き起こる。綱吉、祥貴、真理愛、恵吾が順番に吹き飛ばされていく。
「出力が違いすぎる! 今の僕たちじゃ相手にならないよ!」
「それでも、神園ほっといて逃げられねえだろうが!」
「時間を稼いでくれませんか? 千葉さんの応急処置とデバイスのエネルギーを回復させます!」
「無茶を言う……」
刑事は腰を落とし、ふっと息を吐き距離を詰める。刀の切先が斉藤の首元を捉える直前に翼で祥貴の身体が吹き飛ぶ。綱吉がネイルガンで援護射撃をするも、斉藤は翼を少し動かし、釘を弾く。
「お互いここで手を引かないか? 私はこの娘さえ手に入ればそれでいいんだ」
「大切な友人を連れて行かれるわけには行かないな」
「癪に障るが俺も同意見だ」
交渉決裂。斉藤は再び錫杖を振り、金色の風を発生させる。祥貴は炎を激しく噴出させ、抵抗する。綱吉はそばにあったトロッコを盾に暴風をしのぐ。
「あれをどうにかしよう!」
祥貴は炎を斉藤に放つ。綱吉は別方向からネイルガンを放ち、同時に攻撃する。斉藤は炎に向けて翼をはためかせ、攻撃を払う。綱吉の釘の弾丸は全弾命中せず、斉藤の向こう側へ放たれていく。祥貴の姿がない。真下から刃が急襲。炎を目隠しにし、祥貴は必殺の間合いに入っていた。
「うおー!」
斉藤は金の光を身体に集める。錫杖の先の大きなマジカライトから光が放たれ、刃と斉藤の首の間へと集まっていく。大きな金属音が聞こえた。斉藤の首まで後数センチのところで刃が止まる。
「今のは肝を冷やしたぞ」
斉藤は祥貴を蹴り飛ばした。祥貴は受け身を取れず、転がる。すぐさま起き上がり次の攻撃手段を考える。
「参ったな今ので仕留められないのか」
「錫杖をどうにかするんじゃなかったのか!?」
「すまない。倒せるかもという欲が出てしまった」
祥貴の刀もエネルギーの消費が激しい。そう長くは戦えない。綱吉も決定打となる攻撃手段を持ってはいなかった。真理愛が鬼の姿になれば、敵味方関係なく戦い続けてしまう。
「それでもやるしかない!」
祥貴は残ったエネルギーを刀へと込めていく。綱吉はネイルガンを射撃し続ける。大きな音を立てて、釘が連続で飛んでいく。斉藤は翼で防ぎ、その場から動けない。祥貴が再び動く。刀身よりも長く伸びた炎の刃で斉藤に切りかかる。斉藤は身をかわし、折り返してきた刃は翼で受け流す。綱吉がネイルガンで追撃するが斉藤は無視する。斉藤は目の前の刑事が次の一手を繰り出していることに集中。祥貴は腰を落とし、刀身を鞘に納める動作をし、刀を一気に解き放つ。居合に似た構えで、攻撃が放たれ、炎の鞘から炎の刃が放たれる。
「無駄だ」
金の翼で払う動作をすると、炎はたちまち小さな炎となる。斉藤は前進し、厄介な刑事を倒すために距離を詰める。
「速い!」
錫杖が祥貴に振り下ろされ、祥貴は刀で受ける。力の拮抗が起きる。斉藤が優勢だ。じりじりと錫杖が祥貴の刀を押していく。少しずつ錫杖が祥貴の身体へと近づく。
「くっ……」
振り下ろされた錫杖を両手で受け止めているにも関わらず、祥貴は受け止め切れない。膝をつき、振り下ろされる錫杖を刀で受け止める。
「どうだ? お互い手を引かないか?」
「無理な相談だ!」
祥貴は耐える。苦悶の表情を浮かべ、額の汗が地へと落ちる。
(エネルギーがもう……)
祥貴の限界がもうすぐ訪れる。
「うおー!」
青い光を纏った恵吾による体当たり。斉藤は転び、錫杖と魔魅子も床に転がる。恵吾も斉藤にもつれこむようにして倒れた。
「千葉恵吾!」
斉藤が錫杖を拾い反撃しようとしたが、落ちていたはずの場所に錫杖がない。少し先へ視線をやると、魔魅子が錫杖を持ち、立っていた。金色の夥しい光が魔魅子から放たれて、目を開けていられないほどの光を発し、暴風が巻き起こる。その場にいた全員が坑道の壁へと追いやられる。光と風はすぐに止み、魔魅子はその場に倒れ込んでしまう。恵吾は立ち上がり、斉藤の両足を撃つ。
「ぐっ」
苦悶の表情を浮かべ、痛みに耐えているが、斉藤は動けない。
「一緒に警察に行こか」
「斉藤誠司お前を逮捕する」
祥貴は斉藤に手錠をかけた。斉藤は抵抗しなかった。
「皆さんこっちですよ!」
オリーブ色のコートを纏い、緑色にデバイスを光らせた黒髪の男が坑道の奥に立っていた。
「お前どこにおったんや?」
「退路を探していたんです。急ぎましょう。今の衝撃で崩れそうです」
拓が壁や天井を見ると、亀裂が広がり始めていた。
「皆立てるか!? 走るで!」
恵吾は魔魅子を担ぎ、祥貴は動けない斉藤を背負った。全員が最後の力を振り絞り、地上へと走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます