9/18更新②
目の前に虚な目をし、銃口をこちらに向けた戦闘員達が並ぶ。
「話が通じる相手でもないか……ちっ、よりによって……」
綱吉が左を向くと、そこには映画の世界から飛び出してきたようなド派手な長身の男が立っていた。
「こいつと一緒になるとはな」
「僕は綱吉くんは頼りになるからありがたいけどね」
「嫌味かよ」
綱吉が独り言のように呟くと、目の前の戦闘員達が少しずつ距離を詰めてくる。
「悪いが、俺は戦闘向きじゃないからな」
「任せてよ。他は無事かな?」
「今は他人より自分の心配だろ?」
隔壁の向こうの様子は分からない。各自で状況を打破する以外に脱出する方法はなさそうだ。
「それもそうだね!」
祥貴のデバイスが赤く発光し、右手に十手が形作られていく。綱吉は紫の発光とともにネイルガンを形成させていた。
祥貴が十手を振りながら前に詰め、綱吉は後ろに下がりながらネイルガンから釘を飛ばし威嚇射撃をする。戦闘員が釘に怯んだ隙に祥貴が十手で殴りつける。倒れた敵には身動きできないよう鎖を巻きつけている。綱吉はコンテナ陰まで下がり、ネイルガンで追撃。盾を持った兵士達が前に並び、ネイルガンによる攻撃を防ぐ。
「ちっ、東雲! なんとかしろ!」
「応!」
祥貴の十手が炎を吐きながら刀へと変化。防弾防刃の盾を薙ぐと、刀身の軌道通りに切れ目が入り、盾が使い物にならなくなる。
「恐ろしい切れ味だな」
「消耗が激しすぎて長期戦には使えないけどね」
綱吉は引き続きネイルガンにて応戦。命中率は高くないが、牽制には充分だ。祥貴が刀を十手へと戻し、次々に敵を無力化させる。半数は無力化させただろうか。
「東雲! 下がれ!」
煙と異臭と共に、奥からいくつかの黒い影が疾駆。更に奥に立つ戦闘員が持っているバレーボール大の球形の物体から放たれたようだ。祥貴が距離をとる。
「速い!」
十手で殴りつけるがすり抜け、体当たりを食らいバランスが崩れ、こける。黒い影が脇を飛び抜けていった。先ほどまで上半身のあった位置だ。黒い影の方を見ると、そこにはドーベルマンをかたどったような犬型のロボットがこちらを睨みつけている。鼻が曲がってしまうような異臭と煙を纏っている。
「ロボット?」
「逃げるぞ!」
綱吉が祥貴を強引に立たせ再びコンテナの裏へと走り出す。が、急ブレーキ。コンテナの角から煙が立ち上り、異臭と共に先ほどの犬型ロボットが目の前に現れた。
「瞬間移動した?」
「原理はわからないが逃げるぞ!」
方向転換し駆け出す。別のコンテナへ辿り着こうとしたが、また先回りされている。
「くそ……」
機械の猟犬が二人に迫る。
「はあ……はあ……」
真理愛が虚な目をした戦闘員と戦闘を繰り広げていた。ピンク色の発光と共に、サバイバルナイフと同じ大きさのメスが振られる。
「数が多すぎます……」
真理愛一人に対して、敵は三十人ほど。恵吾や祥貴でも苦戦するだろう。
「キャッ!」
真理愛は背後から警棒により殴られ、右腕を負傷する。腕が痺れ、動かすことができない。
「奥の手を使うしか……誰も来ないでくださいね……」
真理愛は注射器を発現させ、左手で右腕に刺す。ピンクの明滅が激しくなり、真理愛の身体が熱を帯びる。
「うぅ……」
あまりの熱さにその場に倒れてしまう。勝機と見た戦闘員が何人も迫る。しかし、駆け寄った五人ほどの戦闘員が皆吹き飛ばされ、様子を見ていた周りの戦闘員を巻き込んでいく。
『命だけは……助けてあげるわ……』
真理愛は母国語で独り言を呟く。真理愛は驚くべき変貌を遂げていた。注射液の影響か、恵吾のように筋肉質になり、顔は憤怒の表情。頭には二本の角が生えており、まさしく日本の鬼、海外でのオーガと呼ばれる存在のようだ。右腕には全長が身長ほどもある武器を持っている。先端は肉厚な刃物が付いており、桃色の光が妖しさを際立たせている。真理愛は大きな薙刀を一薙ぎし、戦闘員を吹き飛ばしたのだ。峰打ちだったので、吹き飛ばされた戦闘員は助かっている。
『どうしたの? 誰も来ないのなら私から行くわ!』
一蹴りで間合いを詰め、薙刀を振り回し、柄の部分で何人もの戦闘員を巻き込み、吹き飛ばす。吹き飛ばされた戦闘員を追いかけ、片手で呆気に取られていた戦闘員へ放り投げる。
『アハハハハハハッ!』
真理愛は愉快そうに戦闘員へ攻撃していく。呆然としていた戦闘員達は、意を決して機関銃で真理愛を一斉射撃。真理愛は脇にあったコンテナを盾にする。そのまま怪力で前へ押す。
『銃は反則よ……』
銃声が止むと、真理愛は盾にしていた大きなコンテナをリロードしている戦闘員の方へ投げつける。慌ててかわした戦闘員が顔を上げると笑った鬼と目が合った。次の瞬間にゆっくりと世界が回転し、衝撃音と共に世界が暗転。床に叩きつけられたのだ。
『もう少し楽しませてくれるわよね?』
鬼の笑い声を皮切りに、悲鳴と断末魔が響き渡る。
――五分後、その場に立っている者は誰もいなかった。
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