9/18更新

「何これ? どうなってるの?」

 砂埃が少しずつ落ち着き、視界が晴れて行く。全員が二階部分の壁際通路に落下していた。

「まずい! 走れ!」

 綱吉の声と同時に六人が駆け出す。一階からは赤い閃光が見えたと同時に機関銃による射撃。武装した集団による発砲。各々がデバイスを起動する。二階通路は下から丸見えになっているため、一階へと飛び降りる。恵吾は魔魅子を抱えて強化した身体で着地。祥貴は鎖を二階の手すりに絡ませ、真理愛を抱えて振り子のように移動し着地。綱吉は落下するような姿勢となっていたが、ブーツの底のギミックが発動しうまく着地。山田は涼しげに着地していた。物陰を移動しながら通信での会話に切り替える。

『どういうことやねん。侵入がばれてたんか?』

『ハッキングに失敗していた。無人に感じられたモニターはフェイクだ。油断したところを奇襲し、この搬出エリアに誘き出したんだ』

『恐らく敷地に入った段階から侵入は気づかれていたんじゃ無いかな? いくらなんでも手際が良すぎるよ』

『どうしますか?』

 隠れていたコンテナ裏に手榴弾が投げ込まれる。

「散れ!」

 恵吾が叫ぶと六人は別々の方向へ走り出す。移動先のコンテナの陰で破片をやり過ごす。

『一ヶ所に固まったらあかん! 近くにいる人と逃げるんや!』

 銃声が鳴り止む度に、一目散にコンテナからコンテナへと駆け出す。恵吾が銃声の鳴る方へと目を遣ると、黒で統一された装備の重武装の人影が見える。ワッペンには「Love Craft」が略された「LC」のロゴが刺繍されている。

『創愛グループの創愛警備保障や』

『創愛警備保障だと? 国と戦争してるようなもんじゃねえか!』

 綱吉が狼狽する。創愛警備保障は創愛グループの系列会社で、グループの潤沢な資金で優秀な人材と装備が揃えられたPMC(民間軍事会社)である。国内での警備サービスだけでなく海外派遣の経験も多く、大小の紛争を収めた経歴を持ち、世界有数のPMCの一つだ。

『どうしますか? 勝ち目はないですよね?』

 真理愛も必死に逃げ回りながら、恵吾の返答を待つ。

『もちろん撤退や。悔しいけど流石に待ち伏せされて敵う相手とちゃう』

『逃走経路を送るぞ!』

 綱吉が各自にデータを送る。スマートコンタクトには経路と距離、方向などのデータが表示された。近くにいる仲間とはぐれないようにしながら逃げ回る。しかし、けたたましい警告音と、黄色い回転灯の光と共に大きな音が響き渡る。音の方を見ると床から壁がせり出して来ている。広い施設を隔壁で間仕切り、恵吾達は分断された。

『やっと捕まえましたよ』

 スピーカーから男の声が聞こえる。

「誰や!?」

『失礼、斉藤誠司と申します』

 目当ての研究主任の声だった。

「どこにおんねん!」

「あなたの後ろに」

 恵吾が振り返ると、白衣を着た男が立っていた。初老の男は髪を撫で付け、口髭を蓄えている。

「お前がマッドサイエンティストか」

「失礼ですね。しがないどこにでもいる研究者ですよ」

「死体をおもちゃにしとったんやから狂っとるやろ」

「何とでも仰ってください」

「なんであんなことしとったんや?」

「まあ、少し事情がありましてね」

「あの病院のことは少しの事情じゃ許されへんやろ。それに、創愛グループはお前の所業を知らんのやろ?」

 斉藤誠司は病院を杜撰に隠蔽工作し、創愛グループからも離れていた。

「確かにグループの上層部にバレるのはまずいので口封じはさせてもらいます」

「ここは創愛グループの採掘場やろ? それに創愛警備保障の奴らは上と繋がってるんちゃうんか?」

「この人達は夢を見てるんですよ」

「どういうことや?」

 恵吾は斉藤の後ろに立っていた創愛警備保障の連中に目を向ける。目を虚にし、力の抜けた様子で立っている。

「お喋りはおしまいです。あなたに伝えても理解してはくれないでしょうから」

「まだ魔魅子ちゃんのことも聞いてへんのやけどな」

「MKレポートについても内緒です」

 斉藤は微笑み、踵を返して創愛警備保障の隊列の後ろへと下がって行く。恵吾はデバイスを起動し、青く発光。纏わりついたナノマシンの身体強化により身体が一回り大きく見える。

「嫌でも喋ってもらうわ」

 虚な目をした戦闘員達の銃口が恵吾へと向けられた。

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