9/17更新②
見通しのいい広大な土地には、重機や大きく掘られた穴が散在している。星空と月明かりが周辺施設の無機質な輪郭をなぞる。街の喧騒と煌々とした灯からは少し遠い場所にあるこの土地の端で虫の羽音が聞こえ、六つの人影の方へとやってくる。
「広すぎるな」
虫の羽音ではなく綱吉が用意した偵察用の小型ドローンの飛行音だった。周辺の情報を記録して綱吉のデバイスへとデータが転送される。
「広すぎるな。おそらく採掘している場所への入り口は何ヶ所もあるぞ」
斉藤誠司が関係しているという採掘場に恵吾達は来ていた。下調べもないままに来た為、斉藤が何処にいるか見当もつかないままだった。
「流石に研究者がツルハシ持って現場入りしてるとは考えにくいよな? 警備が一番厳重なとこわかる?」
恵吾は綱吉に尋ねる。
「少し待て。電力の集中具合と……カメラの数を探知して……熱源はどうだ……? お、ここだな」
綱吉のデバイスから送られて来た情報が、全員のスマートコンタクトに投影される。
「おー! 便利だねえ!」
「位置関係からして、ここ一帯の管理棟なのだろうね」
「管理棟があるなら、警備関係も把握できますよね」
「警備の制圧しちゃいますか?」
「他に行く当てもないか。ほな俺が先頭行くわ。祥ちゃんとツナは二番手、真理愛ちゃんと魔魅子ちゃんが続いて、一番後ろを山田くんで頼むわ」
『了解』
一同は警備の網をくぐりながら慎重に進み、目的の建物の近くへと進む。気づかれた様子はない。
「どこから入りましょう?」
「お任せを」
拓は音もなく移動し、とっかかりのない壁を登っていく。どのような原理で登っているのかは分からないが、五人の視線はあっという間に屋上へと登る拓の姿を追う。拓は屋上から避難用の梯子を下ろす。
「忍者かよ」
屋上にはヘリポートや貯水槽などもあり案外物陰が多かった。カメラの死角を縫い、施設内へと通じる扉へと辿り着く。
「鍵かかってるやん」
恵吾は扉の鍵をこじ開けようとするが、拓はそれを制止し、ものの数秒で鍵を開けてしまう。
「器用やな」
「この程度は知恵の輪みたいなものですよ」
「今度教えてもらおうかなあ」
「やめとき、魔魅子ちゃん」
階段を降りると廊下にいくつものドアが並んでいた。廊下の壁には避難経路図が投影されている。また、階段の踊り場にはフロアの大まかな見取り図が載っていた。
「ここは五階で、どうやら職員の寝泊まりするフロアのようですね」
さらに階段を降り、各フロアを確認する。
「四階もそのようだな」
「三階は鉱石の加工や解析フロアのようだね」
「一階と二階は吹き抜けになっていて、重機の格納庫になっているぞ。夢のようだ」
綱吉はこの建物の作りに憧れがあるらしい。
「あんまり警備の人はいないのかな?」
「確かに警備の数が少ないね。マジカライトの採掘場というくらいだから厳重な警備だろうと警戒していたのだけど……」
祥貴は顎に手を当てながら言葉を漏らす。
「機械警備だけってのは確かに変やな。でもそれがなんか怪しい」
「二階に警備室があるぞ。機械警備がメインだというのならここを抑えて警備システムをなんとかすればいいんじゃないのか?」
「せやな。ツナ、案内頼んだ」
「あいよ」
綱吉は見取り図をもとにスマートコンタクトにナビゲーションデータを送る。警備室へもすんなり辿り着けた。恵吾は聞き耳を立て、ハンドサインで拓と祥貴に合図を送る。綱吉が扉の脇にあるカードリーダーのカバーを開けると、ケーブルをさし、デバイスを用いてハッキングを仕掛ける。カードリーダーの点滅が赤から緑になりドアのロックが開く。同時に恵吾、拓、祥貴が警備室に入り、クリアリングを行う。警備室はモニターや機器が並び様々な色の明滅が目に入る。人影は三人。恵吾が立っていた一人に殴りかかり制圧。別の椅子に座り、電子ペーパーを読んでいた一人を祥貴が蹴りで制圧。最後にコーヒーを飲んでくつろいでいた男に目をやると、拓がすでに制圧し、男はぐったりしていた。何をしたのかは分からないが、当分目を覚ますことはないのだろう。
「みんな入ってええよ」
廊下で控えていた三人は静かに部屋に入る。
「警備システムは任せろ」
綱吉が警備システムに侵入し、六人を職員として登録した。
「カメラやセンサーは俺たちを職員だと判断する。これである程度は自由に動けるだろう」
「寝てる職員は別として、他の職員はどこに行ったんや?」
「今探してる」
綱吉が端末を操作するとモニターが次から次へと切り替わっていく。防犯カメラの映像が映し出されているが、人影は無い。
「おかしいな。人っ子一人いないぞ」
侵入した屋上から順に五階、四階、三階と下のフロアの映像へ切り替わって行く。一階と二階の吹き抜け部分はマジカライトを自動的にトラックへと積み込み運び出される様子が映し出される。動くものは機械しか見えない。
「実験室の中にカメラは無いぞ」
「では、三階に向かいますか?」
「斉藤がいるなら実験室だろうな」
「行くか」
全員が部屋を後にし階段へと向かう。突如轟音。廊下が崩れ落下。山田は一人受け身。綱吉はツナギの内側が膨らみ、衝撃を吸収していたが床に倒れている。恵吾は魔魅子を、祥貴は真理愛を庇い下敷きになっている。
「爆発? みんな大丈夫かい?」
「なんとかな」
返事をしたのは恵吾だけだが、各々が立ち上がり体勢を整えていた。幸運にも大きな怪我はないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます