8/21更新
恵吾と魔魅子は合流し、真理愛が買い取った病院跡地のアジトへと向かった。
「みんなおる?」
「丁度揃ったところですよ」
真理愛が人数分のお茶を淹れながら答える。
ミーティングスペースには恵吾と魔魅子の他に綱吉、真理愛、祥貴、拓、助っ人の有奇もいるらしい。
「ほなミーティング再開やな。まず俺からな」
恵吾は電子ボードに情報を付け加えていく。他のメンバーは静かに見守る。
「研究主任の名前は斉藤誠司。創愛グループに所属してたんは間違いないみたいや。今は新しく見つかったマジカライトの採掘場で働いてるらしい。医療分野の研究者が採掘場で働いてるのってのは引っかかるな。結構色んな筋に聞いてみたけど、こんぐらいのことしかわからんかった。思ってたより手強いかもな」
今度は魔魅子が電子ペンを取り上げ、情報を加えていく。
「創愛グループについてなんだけど、医療分野で伸びた企業ってみんな知ってるよね? 研究分野ごとに研究主任が居て、正直誰がどんなことしてるのかってのは規模が大きくて働いてる人も把握し切れないのが実情なの。で、私のお手伝いさんのお話によると、斉藤誠司が研究していたのは、夢の研究と死者を生き返らせる方法らしいの」
「夢の研究? 死者を蘇らせるだ? あまり関係なさそうだし、大体そんなことができるのか?」
綱吉が反応する。
「蘇らせることに関しては成功したとは言えないよね。死体を使って怪しい実験してたみたいだけど、結局ゾンビみたいだったじゃない」
魔魅子は電子ペンを唇の下に当てながら答える。
「そんなとこかなあ」
魔魅子は発言権を綱吉に電子ペンごとバトンパスする。
「この施設と残ってるデータを洗い出したところ、この施設は地下に広大に広がっている。この裏山一帯に施設が広がっているんだ。まるで軍事基地だぞ。それから、死体の調達については、この上で病死した者だけでは数が合わない。なんらかの方法で死体を調達していた可能性があるな」
綱吉は祥貴に乱暴に電子ペンを投げる。
「以上かな? では、僕の報告だ。最近自殺者が増加しているという報道がされているのは知っているかな?」
「ええ、ユートピアでも流れてましたね」
「その自殺者なんだが、引き取り手のない者の遺体の行方が不明になっていた」
「どういうことですか?」
「通常、引き取り手のない遺体については、この街の公営の火葬場で火葬されるんだ。しかし、火葬場の方に火葬された記録がない」
「それじゃあ……」
「ここは火葬場からそう遠くはない。ここに運ばれていた可能性は高いだろうね」
祥貴は静かに電子ペンを真理愛の前に置いた。
「MKレポートについてですが、魔魅子ちゃんは斉藤誠司の被験体であった可能性が高いです」
「えっ?」
一同は驚きの表情を浮かべており、魔魅子の驚きは一層強かった。
「でも……私、ゾンビじゃないよ?」
「魔魅子ちゃんはどこまで記憶を遡れますか? ご家族との思い出は?」
「えっと……あれ?」
魔魅子は黙り込んでしまう。
「MKレポートはそれっぽい医療用語が並んでいるのですが、ほとんどの内容が出鱈目だったり、実際にはない用語で書かれていましたので、私もあまり内容を理解できなかったのです。しかし、確かに読み取れたのは、神園魔魅子について記述されたものであること、魔魅子さんの記憶になんらかの影響を与えたということの二点です」
真理愛が気づいた時には、電子ペンが拓の手に収められていた。
「では、僕の番ですね。仁礼会がこの件に関わっている可能性があります」
「仁礼会っていうと、創愛グループの後ろ盾の反社会組織か」
有奇が珍しく口を開く。
「ええ、斉藤誠司についての情報の擬装や隠蔽は個人で行うのには手が込み過ぎています。間違いなくその筋のプロが関わっている。そして豊富な資金源。創愛グループからのお金の流れではない。創愛グループもこの研究機関については、把握してない。仁礼会は後ろ盾と言っても会長との繋がりがあると噂されているが、実際本当に繋がりがあるのかわからないってのが実情です。ただ、創愛グループが大きくなった際に資金提供したらしいという噂が広がり、後ろ盾に仁礼会がついているとか」
「仁礼会は表立って活動してるわけやないから、構成員の数も規模も不明。ただ、確かに実在するってのと、一人一人の練度が、その辺の半グレ集団とはちゃうってとこが厄介やな。正直俺も仁礼会とは関わりたくないのが本音やわ」
恵吾が苦々しい表情で電子タバコをふかす。
「そんなところですかねえ」
拓の目線の先は有奇の上着のポケットの方を見ている。有奇は何気なくポケットに手を入れると、電子ペンが入っていた。不快そうな様子で電子ペンをテーブルに置き、有奇は口を開く。
「言っておくが、自分は情報なんぞ持ってないぞ。お前さん達がどんな奴と関わり、どんなことをしようと勝手だ。しかしお前さんたちにそれを預けておく」
有奇はどこからか正立方体のアタッシュケースを取り出した。ちょうどボウリングの球を運ぶケースのようなものだった。ボウリングの球を入れるには一回りか二回りほど小さい。カチッと音がし、有奇がケースを開くと中には黒い球体が入っていた。
「んー? どっかで見たことあるなあ」
魔魅子は球体をまじまじと見つめる。
「あ、『限界曲線』ちゃうか?」
恵吾は指を鳴らし魔魅子と顔を見合わせる。
「そうだ、お前さんたちが展示会で見たのはレプリカだ。これは正真正銘本物。あの展示会の企画者は自分で、自分が海外から取り寄せたのだ」
「へー、そうやったんや」
「まあ、厳密にはマスターに依頼されてのことだがな、これがどうしても必要だとのことだったのだが、マスターはあの様子だ。お前さんたちに預けるとする」
有奇は要件は終わったとばかりに立ち上がる。
「まあ何にせよ健闘を祈る」
「おおきに」
恵吾はケースを受け取ると、有奇はエレベーターで地上へと上がって行った。
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