6/6追記

「しかしどう考える?」

「何のことだい?」

「ここ最近のオカルト話だよ。警察にも相談が来てるんだろ?」

 階段を降りながら二人は会話を続ける。

「自分のとこにも何軒か曰く付きのモノが持ち込まれてる。本当にオカルトじみたモノなんかは、何年かに一度お目にかかれるかどうか……それがここ最近急に増えてきてるんだ。何かあるって勘繰るものだろ?」

「まあ、警察じゃなんともできないからね。僕が直接相談になった場合は僕がなんとかしているけど、殆どの場合はお決まりのパトロールをしますので、という返答のみさ」

「もしくは隠蔽か。警察のやりそうなことだな。今の上層部じゃ手に負えんだろうな。やはり、警察官なんかにならなくて良かった」

「警察官だからこそできることがあるのさ。今からでもなればいいよ。君は優秀なんだから」

「下手な冗談だ。東雲祥貴。貴様こそ早く辞めてしまえ。お前の理想は警察署にいる間は実現できない」

「……」

 二人が会話している間に、霊安室と同じフロアで第三倉庫と表示のある扉の前にたどり着いた。綱吉と真理愛の話によるとここにゾンビの元凶であろうモノが潜んでいるとのことだった。

「もしものときは頼んだよ」

「お前がやられるようなことがあれば、自分も終わりなんだよ」

 二人はデバイスを起動する。祥貴の右手には赤い光の粒子が集まり、十手が形成されていく。それとほぼ同時に有奇の手にはオレンジ色の光が宿り、左手には古書が、右手には羽ペンが形成された。

「開けるよ」

「いつでも良い」

 祥貴は慎重に扉を開け、中を覗いた。部屋の奥には綱吉達から聞いていた通り、金属光沢に覆われた巨大なナメクジのような物体なのか生物なのか区別のつかない存在がいた。全身から伸びる棘の先には人が刺さっており、時折呻き声をあげる。

「これは厄介そうだね」

 祥貴は十手の先から赤い鎖を打ち出し捕縛を試みる。しかし、赤い鎖は巨大なナメクジのようなものに触れると同時にかき消されてしまった。

「これは一体……?」

「おい! 離れろ!」

 有奇が叫ぶと同時に羽ペンで本に何かを書きつけていく。高速で何かが書かれたかと思うと、オレンジの光が本から放たれ、結界のように壁となった。結界には夥しい記号と文字のようなモノが描き出され、めまぐるしく動いている。そして、鋭い金属音がした方を見ると、ナメクジのような怪物から差し出された鋭い棘が結界にぶつかっていた。有奇の反応が少しでも遅れれば、棘の先の祥貴はゾンビになっていたかもしれない。

「十手(これ)じゃあだめか」

 祥貴はやれやれと首を振り、十手を両手で持つように構え直す。すると、赤い光の粒子が再形成され、みるみるうちに形取っていく。数秒も経たないうちに刀の形に形成され、刀身が炎を纏い輝いている。

「これで無理ならどうすることもできない」

 祥貴は一瞬目を閉じ、ふっと息を吐くと、怪物に切り掛かっていた。赤い一閃が薄暗い部屋を両断する。怪物の表面に刃が触れた瞬間、高い金属音が響き、火花を撒き散らす。瞬きする間に部屋中に甲高い音と火花の光が広がる。

「ぐっ」

と小さい声が聞こえる。これでもかと言わんばかりに力を込め祥貴が怪物に刃を立てている。高温で溶けているのか、刃の鋭さがそうさせるのか、徐々に刀が動く。

「東雲祥貴もう少しだ!」

 有奇が古書に何かを書き込む。祥貴がオレンジ色の光に包まれ、刀身からの炎がより大きくなる。刀が大きく動いた。怪物の体の棘が伸び縮みを繰り返し、やがて動きを止めた。

「ありがとう有奇くん」

「手伝っただけに過ぎん。しかし、暑いな全く」

 祥貴の刀から放たれる炎により、部屋の温度が上昇していた。

「心頭滅却すればなんとやらだよ」

「そんなものはただの気のせいというやつだ」

「手厳しいね」

 祥貴は肩をすくめ答えた。その後怪物の残骸を運び出し、徘徊していたゾンビを祥貴は片っ端から切りつけ燃やして回った。有奇の見立てではゾンビを元に戻す手立てはないとのことなので、

「僕が供養しよう」と祥貴は渋々動く死体の処理に回っていた。


「――というわけでゾンビの処理をしていく中、霊安室の奥にあるエレベーターを見つけて、この巨大な地下施設を見つけたんだ。それでそのままここを拠点にしようという話になった訳さ」

 祥貴は優雅に紅茶を啜りながら勿体つけたように恵吾達に状況を説明した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る