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 真理愛が声のする方へ振り返る。フードを深く被り、黒く長い上着の裾が暗幕のように怪しくはためいている。ゆったりとしたシルエットの上着の胸元からはカーディガンが覗いており、ループタイのトップ部分には鈍く光るアンティーク調の紋様が誂えられている。上着と同じ質感の黒いスラックスが男の胡散臭さを控えめに際立たせる。奥から黒い目を気だるげに覗かせ、オレンジ色のフレームのアンダーリムメガネを掛けている。

「待っていたよ。有奇くん」

 どうやらこの男を呼びつけたのは、祥貴らしい。

「誰だ? この胡散臭い魔法使いは」

 綱吉は見るからに怪しい男に懐疑心を抱き、思ったことをそのまま言い放つ。

「辛気臭いのに言われたくないな」

 怪しい男はフードを取りながら皮肉で返す。灰色の重たい髪が露わになり、眉の上辺りで前髪が揃えられ、顔の輪郭に沿って髪を伸ばしており、中性的な顔立ちをしていることがわかる。

「紹介しよう。僕の旧友で、邑神有奇(むらかみゆうき)君だ。古物商をしていて、主に美術品に造詣が深い」

 続けて祥貴は綱吉と真理愛の紹介を有奇にした。

「君たちのことは東雲祥貴から聞いている。冴えない運転手と見境のない医者がいると聞いていたがなるほど。噂通りのようだ。東雲祥貴は人物の特徴を捉えて伝えるのが上手いようだな」

「失礼な人ですね。人格の治療ができないのが残念です」

 真理愛はデバイスを起動し、ピンク色の光を纏っていた。

「まあまあ落ち着いて、彼には悪気はないんだよ。人手が足りないから、病院内の整備の手配を任せようと思ってね。商談会を兼ねた展覧会を開くことも多いから、内装の業者との伝手が多いと見て協力を仰いだんだ」

「雑用みたいなことをさせやがって。今度きちんと礼をしてもらうからな」

「期待通りの働きをしてくれれば喜んで。僕と有奇くんで地下はなんとかするよ。真理愛くんと綱吉くんは業者とのやり取りをお願いしていいかな?」

「わかりました。廃材や古い機器の搬出は綿奈部さんと業者の方でお願いします。私は内装をデザイナーさんと相談して来ますね」

「さて、ゴーストバスター出動だ」

「ゾンビはゴーストじゃないだろうが」

 祥貴と有奇は漫才のようなやり取りをしながら地下へと降りて行った。

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