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「山田くんて結構強いんやな」

「千葉さんには敵いませんよ」

「心にもない事を」

 恵吾、魔魅子、拓の三人は車でユートピアを目指していた。運転席に拓、助手席に恵吾、後部座席には魔魅子が陣取っている。ユートピアまでは一時間と少し走れば着く距離だろう。

「魔魅子ちゃんはなんで俺とデートしよって言い出したん?」

「恵吾くんがかっこいいから」

「魔魅子ちゃんも心にもないことを。戦力が欲しかったからやろ?」

「そうだね、私と拓くんだけでは創愛グループと柊木会を同時に敵に回すのは難しいから」

「でも、あんな誘拐みたいな大芝居打たなあかんかったん?」

「あの誘拐は私も知らない事だったの。何故かマスターに気づかれちゃったんだ。マスターはよっぽど恵吾くんのこと巻き込みたくなかったんだね。まさか私を止める為に私が雇っていた拓くんを使うとは思わなかったけど」

「僕は報酬の大きい方につきますから」

 拓は得意げに笑う。

「じゃあ今は魔魅子ちゃんが雇い主なんや」

「そうですね。今まで見たことのない前金貰っちゃいました。ありがとうな!」

「なんやねんそれ。まあ、金払ってるうちは味方って訳か」

「まあそうなりますね」

「魔魅子ちゃんはなんぼ払ったん?」

「二千万ですね」

「ええ商売しとんな。じゃあ俺が雇い直すわ」

 拓のデバイスに通知音が響き、入金が確認される。

「二千万飛んで一円……いいでしょう」

「雇うのに条件をつけるわ、他の誰かが雇い直そうとしたらまず俺に伝えること。どんなに金払いのいいやつでもや。俺の承認なしに雇い主を勝手に変えることは許さへん。これが契約条件や」

「入金した後に契約条件ですか……でも良いんですか? 千葉さんを裏切るかもしれませんよ?」

「信用ならん奴はこの業界ではやってけへんやろ。まあ、もしもの時が来たら、俺が山田くんをブラックリストに載っけて、直々に首はねにいったるわ」

「勘弁してほしいですね」

「首はいつでも綺麗に洗っとくんやで?」

「本気みたいですね」

 ふふっと拓は軽く笑う。

「恵吾くんは抜け目ないね」

「慎重なんに越したことはない。マスターにいつも言われる事やから」

「ふうん」

 その後は他愛のない会話が続いた。走行時の心地よい振動も相まって、車内は落ち着いた雰囲気だったが、ユートピアに近づくにつれて緊張感が高まっていた。


「着きましたよ」

 店の前に車を停め、三人は警戒しながら車を降りる。周囲の安全を確認した後に、恵吾は店のドアをゆっくりと押す。店内には倒れたテーブルやイスが散乱し、壁には銃痕が残ったままだ。襲撃の物々しさが伝わってくる。

「罠も無し、徹底的にめちゃくちゃにしてくれたな」

 散乱した装飾品を眺めながら恵吾は呟く。

「マスター達はどこや?」

「真理愛ちゃんの診療所かな?」

「ちょっと待ってや、こういう時は……」

 恵吾はバーカウンターの裏手に回る。いつもマスターが立っている辺りの場所だ。

「多分この辺に……」

 恵吾はバーカウンターの裏を探る。

「あった」

 恵吾の手には、誰かが残したであろうメモが握られていた。

「えーっと……『始まりの場所の地下』『魂が抜けても動く身体』なんやこれ?」

「魂が抜けても動く身体ですか……」

「地下かあ」

「ゾンビとか?」

 魔魅子が自信なさそうに呟く。

「ゾンビ……ゾンビねえ……あっ、廃病院か!」

「向かいましょう」

 一行は再び車を走らせ、廃病院へと辿り着く。

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