04/17更新

「千葉恵吾! 噂通りの強さだな!」

「舌噛むで組長さん!」

 恵吾はドスの動きに慣れ、反撃のチャンスが増えたものの、拳、蹴り、頭突き、肘打ちあらゆる攻撃が決定打にならない。

「手を貸そうか恵吾くん」

「いらん!」

 祥貴の提案は即却下される。二人の戦闘は一進一退で、お互いがお互いに少しずつダメージを与えている。相手を打ちのめす為に二人が集中していると、部屋の唯一の入り口から騒々しい物音と共に、たくさんの兵が押し寄せる。

「動くな!」

「ちっ! 次から次へと厄介だな」

 祥貴は鎖を部屋の入り口の兵に放ち、動きを止める。それに気を取られてる間に恵吾は宗盾に組みつき地面に叩きつけ、馬乗りになる。

「お前がユートピア襲撃するように言うたんか?」

「さあな」

 宗盾はニタニタと憎たらしく笑っている。恵吾は容赦なく拳を顔に振り下ろす。

「謝っても許さんから」

 一定の間隔で、鈍い音が響き、それ以外に何も聞こえない。宗盾の顔は鮮血と紫色に腫れた色とで埋め尽くされていた。

「千葉くん。それ以上は」

 祥貴の制止を無視し、恵吾は拳を振り下ろし続ける。真理愛は口に手を当て、時折目を逸らしている。

「おい、流石にそれ以上は」

「うっさいねん。黙っとけ」

 恵吾は綱吉の声に反応するも、止める素振りを見せない。宗盾の反応は無い。祥貴はため息をつき、十手を恵吾にかざす。赤い光が恵吾を包み、鎖で雁字搦めとなる。

「放せや! こいつのせいでマスターが怪我したんやろ!」

「それはできないな。それ以上は柊木組長が死んでしまうよ」

 静かだが、よく通る声で祥貴は恵吾に語りかける。

「こんな奴死んだらええねん!」

 恵吾の身体が青く光り、赤い鎖が千切れかかる。

「いい加減にしてください!」

 真理愛は恵吾の顔に平手打ちをする。

「痛いな」

 恵吾は血を床に吐き、真理愛の方に目線を合わせる。

「こんな奴お前が殺す価値もないだろう。何をムキになっているんだ?」

 綱吉も真理愛に加勢する。

「ユートピアとマスターを巻き込んだんやぞ?」

「それでも司法にかけて裁くべきだ。少なくとも僕の前ではそうしてくれているだろう?」

「そんな甘いこと言うてるからこの街から犯罪無くせへんねん」

「子どもみたいなことを」

「ほんまのことやろ。こいつおらんくなったら平和に一歩近づくやん。回りくどいねん」

「もう一度言ってみろ」

 祥貴の持っていた十手が眩く輝き、十手のシルエットが大きくなっていく。少しの間を置くと、光が落ち着き、真紅の刀身に真っ赤な炎を纏った刀に変化していた。

「なんややる気か? 人殺せへんのやったら、そんなんただの子どものおもちゃやろ」

「おもちゃかどうか試そうか?」

 一触即発の空気の中、恵吾が鎖を破り、祥貴に殴りかかる。祥貴は飛びかかってくる恵吾の動きに合わせ、刀を振り抜き、恵吾の脇を駆け抜ける。刃は恵吾の胸元を捉え、恵吾の身体を切り裂く。突然ナノマシンの反応が消える。入り口から銃声が鳴り、入り口にいたシールドセキュリティの隊員が撃たれ、倒れる。足音が響き、数人の男が入ってくる。

「何だか騒がしいですね。千葉恵吾さんはいますか?」

 緑色の光を纏い、覆面をつけた男が最後に入ってきた。千葉恵吾はたった今祥貴に切られたはずだった。しかし、恵吾の身体には拷問で受けた傷はあれど、刀傷は無い。

「そこにいましたか、同行してもらいましょう」

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