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 木村は地上へ向かう為にエレベーターに乗り込み、同乗した隊員に確認を取る。

「状況は?」

「正門が爆破されたとの報告です」

「爆破?」

「ええ、詳細はまだわかりません。通信が上手く機能していなくて」

「そうか」

 宗盾に蹴られた腹をさすりながら、襲撃者について考える。

(襲撃者の目的は千葉恵吾の救出か?)

 軽快なチャイムと同時に一階の表示が映し出され、エレベーターの扉が開く。慌ただしく隊員が駆け抜けていき、木村もそれに続く。エントランスへと辿り着くと、二度目の衝撃音が耳をつんざき、正門が破られていた。門の奥から黒いタクシーと真っ白な高級車が猛スピードで走って来る。白い車は木村の目の前で急停止し、中から真っ白なスーツを着用した男がゆっくりと降りる。黒いドレスシャツに赤いネクタイが派手さを一層際立たせる。男はかなり目立つ格好をしているが、悪趣味さを感じさせることはなく、品格やこだわりを周囲に放っている。優雅な立ち振る舞いの男が、赤いアイシャドウで覆われた眼でこちらを真っ直ぐと見ている。

「東雲祥貴……」

 映画の一幕を感じさせる男の登場に周囲の隊員は言葉を発さないでいたが、木村は男の名前を呟いていた。

「木村さん。お久しぶりですね」

「どうも東雲刑事、しかしこれは一体どういう?」

 バーユートピアでの襲撃時に彼が居たことは確認していた。それに加えて近年要人警護において、警察と民間企業が協力する場面は少なくはない為、二人は初対面ではなかった。

「捜査です。協力してくれますね?」

「捜査? 門を壊してまで入って来ることはないでしょう」

「インターフォンを鳴らしましたが、お帰りくださいの一点張りでしてね」

「令状はあるのですか? 警察といえど不法侵入でしょう?」

「ええ、ついさっき受理されましてね、シールドセキュリティにはバーユートピアにおける誘拐の容疑での捜査です。身に覚えがないとは言いませんよね?」

「誘拐? さあ、何のことだか」

「千葉恵吾という男がここにいるな?」

 シラを切ろうとする木村に祥貴は明らかに怒りを向けている。気迫に押される隊員もいたが、木村は動じない。

「東雲刑事、後ろの車は? パトカーじゃなくてタクシーですか?」

「今回協力してくださるPMC(民間軍事企業)です。登録に時間がかかりましてね」

 タクシーから男と女が降りる。タバコを吸いながら出てきた男は切れ長の眼でこちらを睨みつけている。女は煙たそうにしてはいるが、毅然とした態度でこちらに視線を向けている。

「千葉はどこだ?」

「彼は私たちの仕事に協力してもらっている。誘拐ではないよ」

「そんな言い分が通るとでも!」

 綱吉と真理愛のデバイスが光る。

「二人とも落ち着いて。木村さん僕達の捜査対象はシールドセキュリティだけじゃないんですよ」

 祥貴は令状のコピーデータを木村のデバイスに送信する。木村はデバイスを操作し、二通の令状データを開く。

「柊木会が捜査対象に……? どうやって……?」

 木村は驚きを隠せない。柊木会と警察上層部には癒着の噂が囁かれているが、それは事実だった。柊木会と繋がりを持つ人物が上層部にいる限り令状の受理などされる筈がなかった。

「柊木ビルでナノドラッグの売買に関する捜査をさせてもらいますよ。最近現場を押さえて確実な証拠がありましてね。反社会組織に対しても大規模な捜査ができるんですよ。応援は準備が整い次第到着します。ああ、勿論この件にはシールドセキュリティは関わりがないですよね? それとも、あなた方もナノドラッグに関与しているんですか?」

 木村は狼狽していた。いくら柊木会に対する捜査令状があるとはいえ、簡単に東雲達を通してしまえば、柊木会からどのような報復を受けるかわからない。

「あなた方のご家族はこちらで保護してます」

 祥貴は木村に近づき、耳元で囁く。

「本当なんだろうな?」

「勿論です。さて、僕達はここを通して貰えるのでしょうか? 隊長さん」

 祥貴は余裕のある笑みを浮かべ木村と対峙する。

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