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 どのぐらいの時間が経ったのか、時計も窓もないこの部屋で、恵吾の時間感覚が分からなくなるぐらいに拷問は続いていた。

「おい、いい加減に口を割ったらどうなんだ?」

 千葉は何も答えない。目を閉じ、じっと痛みに耐えている。時折思い出したかのように苦悶の声をあげていた。平静を装っていたが、木村は内心では焦っていた。木村の経験でここまで追い詰めて耐えたものはいなかった。

「おい、いい加減にしろ! これ以上はお前の身体がもたないんだぞ!」

「……なんや……優しいな……」

 恵吾は木村にしか聞こえないような微かな声で呟く。

(このままでは柊木組が痺れを切らして来る)

 木村の焦りは恵吾が何も情報を出さないことだけではなかった。柊木組がここに来て、手段を選ばずに民間人を拷問すること。シールドセキュリティへどんな制裁を下すかわからないこと。部下の家族へ被害が出るかもしれないこと。隊長としての責任を心得ている彼にとってとても残酷な未来がはっきりと視える。嫌な想像が木村の頭の中を駆け巡り、混沌とさせる。

「おやおやあ? まだちんたら生温いことやってんのかあ? 隊長さんよお」

 木村の背後から現れたのは、柊木組組長、柊木宗盾だ。

「で、なんか吐いたのかそいつは?」

「いえ、まだ何も」

 振り向き、返事をすると同時に宗盾の蹴りが木村の腹に入り、椅子に座っていた恵吾を巻き込みながら床に倒れる。宗盾は倒れた木村の髪を掴み、頭を持ち上げ、耳元に大声を叩きつける。

「何やってんだよおい! 天下のシールドセキュリティの隊長がよお! 時間は無限にあるわけじゃねえんだよ! そのワッペンは飾りか? 役に立たねえならやめちまえよ!」

 乱暴に手を離し、木村に追撃を加える。木村は一蹴りで壁際まで追いやられ、蹲り、呻いている。

「初めまして千葉恵吾くん」

 宗盾は丁寧に椅子をお越し、恵吾は再び座らせる形となる。

「組長さんか……どうも」

「知ってもらえているとは光栄だね」

「そら有名人やもん……サイン貰っとこかな」

 か細い声で恵吾は話す。宗盾のしゃがれた声はこの部屋を緊張感で満たしていく。

「この状況で随分と余裕だな! こりゃあ木村じゃ無理な訳だ」

 宗盾は錐を取り出し、先端を恵吾の方へと向けながら質問する。

「俺の質問はシンプルだ。神園魔魅子について知ってることを全部話せ」

「悪いけど、その質問にだけは答えられへんな」

 宗盾は恵吾の鍛えられた胸筋に錐を近づける。

「知っていることを話せ」

「……ふっ」

 恵吾は馬鹿にしたように鼻で笑う。舌打ちをし、宗盾は鍛え上げられた恵吾の胸に錐で傷をつけていく。

「話せよ」

 宗盾の手は止まらない。恵吾は歯を食いしばり、痛みに耐える。鼻歌を歌いながら宗盾は傷をつけていく。暫く痛みが続いたあと、宗盾の手が止まった。

「おら、サインだ」

 宗盾は手鏡を取り出し、恵吾にかざす。恵吾はゆっくりと視線を鏡に向けると、『宗盾』と傷が刻まれていた。

「ほんまや……おおきに」

 力なく笑いながら恵吾は礼を述べる。

「その目気に入らねえな」

 宗盾は錐を目に向ける。

「怖っ……先端恐怖症やねんな……」

「嘘つけ、次はそのお目々を貰おうか」

「ええやろこの目……よう褒められるわ」

「抉って飾ってやるよ」

 宗盾がゆっくりと手を引き、勢いよく刺す……かと思われたが、手の動きが止まる。宗盾だけでなく、部屋の全員の動きが止まった。原因は外からの爆音。地下にいる全員が上を向く。通信機のノイズの後、慌てた報告が入る。

『侵入者! 侵入者! 正面の門が爆破された模様! 正面エントランスに集合! 正面エントランスに集合!』

 通信機から放たれるけたたましい報告により、部屋の緊張は崩された。

「木村ぁ! 見てこい」

「はい」

 木村と部下戦闘体制を整えながら慌ただしく出ていく。宗盾がタバコを取り出すと、隣の組員がすかさず火をつける。

「ふー……お楽しみの時間だが、残念ながらお預けだ」

 煙を吐き出しながら宗盾は恵吾に言い放つ。

「そりゃどうも」

 恵吾は力尽き目を閉じて俯く。

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