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隊長と呼ばれた恵吾に質問していた男が答える。

「わかった。代わりに続けてくれ」

 隣に控えていた男はこくりと首を縦にふり、隊長は部屋を出て行った。


 隊長はエレベーターで最上階まで上がった。ここは、柊木会所有のビルで、恵吾は地下に捕えられている。豪華な装飾の入ったドアをノックする。

「入れ」

 中から声が聞こえ、隊長は部屋へ入る。茶色い高級スーツを身に纏い、頬に傷の入った男が大きなデスクの奥に座っていた。柊木会会長の柊木盾也(ひいらぎじゅんや)だ。

「木村、千葉は何か吐いたか?」

 柊木はモニターから目を離さずに木村隊長へと質問する。

「いえ、まだ何も」

「だろうな。バーユートピアの用心棒にして、便利屋。表にも裏にも顔が効き、仕事の成功率はかなり高い。おまけにあのマスターの弟子だ。難儀だろう」

 情報を引き出せないのは、目が覚めたばかりだと言うことが木村の正直な感想だが、あえて触れなかった。

「ええ、あのバーに奇襲をかけたこちらの方が怪我人が多かったのは正直驚きました。しかし、何故神園魔魅子の情報を?」

「木村ぁ、てめぇは言われたことだけやってろ」

 木村隊長の隣から、別の男の声が聞こえた。柊木会直系柊木組長、柊木宗盾(ひいらぎそうじゅん)。会長の息子で、会長と同系統の茶色いスーツを着崩している。前髪はセンター分けの長髪で、後ろの髪は一つ括りにまとめている。喉に横一直線に傷が入り、潰れたような声をしている。柊木会の表の実働部隊であるシールドセキュリティをまとめるのが、木村であり、裏の実働部隊である柊木組を纏めるのが宗盾だ。実際にはシールドセキュリティは柊木会が表向きに設けた下部組織でしかないが。

「早く戻っててめぇの仕事をしろ。時間が惜しい。親父も呼ぶのが早えよ、千葉はまだ攫って起きたってとこだろ」

「そうだな。木村下がっていい。千葉は任せた」

「はい」

「ちんたらぬるいことやって、俺が出向くなんて事はないようにしろよ! わかってるな!」

 宗盾は凄む。

「心得ています。失礼します」

 木村は恭しく頭を下げ部屋を出る。

「宗盾。奴は堅気だが、優秀な奴だ。プレッシャーをかけることもない」

「親父はぬるいんだよ。歳だな。しっかし、創愛司沙の血縁者なんて本当のことなんだろうな」

「真偽は、私にも分からん。だが、それだけの価値があるんだろう」

「親父には本当にそれだけの価値があると思うか? 俺らが一千万円の懸賞金をかける程の価値がよ」

 宗盾は会長室に飾ってあった日本刀を抜き差ししながら盾也に疑問を投げかける。

「血縁者かどうかはどうでもいいが、何らかの交渉材料に使えるだろう。創愛グループはどちらにせよ目障りだ。貸しを作れるだけでも有益だ」

「まあ、それもそうだな……。俺は俺で情報集めるわ。なんかあったら連絡してやるよ」

「任せた」

 宗盾は持っていた日本刀をぶっきらぼうにデスクに放り投げ、部屋を出て行った。

「はあ、神園魔魅子……一体何者なんだ?」

 会長以外にだれもいなくなった部屋に、独り言が静かに響いた。

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