樽山節考

 おりんは私たちに、人生の綺麗な散り方を伝えてくれている。


 おりんの住む村、もとい時代は冬を越すのに苦労している。生活はギリギリで余裕がない。伴侶が亡くなればすぐに結婚が決まる。恋愛感情関係なくだ。男女ともに一人で生きていくことが難しいのだろう。子供がいればなおさらだ。おりんがひ孫が生まれる前に山に行きたがることからも余裕のなさが見て取れる。


 村には銭やんという人物がいる。彼は姥捨てを嫌がっていた。対照的なのがおりんだ。姥捨てへの準備に怠りがない。筵やどぶろくはもちろん、綺麗な年寄りになっていたいという心構えには目を見張るものがあった。自ら石臼で歯を折るシーンではいくらか狂気を感じてしまった。しかし、私が感じた狂気は今この時代を生きているからこそのものだ。前述の通り、作中の時代は生活がギリギリである。70を過ぎたら樽山に行くことは常識であった。しかし、銭やんは準備を怠った上、息子に谷へ落とされてしまう。おりんはどうだ。準備を怠らず、心構えも終えている。そして最後まで息子に思われて山に行った。その散り際は綺麗で尊敬の念を抱く。


 おりんは私たちに、人生の綺麗な終わらせ方を伝えてくれた。

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PCから発掘された黒歴史。【評論三作】 桃波灯火 @sakuraba1008

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