ぐちゃぐちゃの部屋と俺と彼女

味噌わさび

第1話

「おい。いるんだろ?」


 俺は扉越しに呼びかける。しかし、返事はない。


「……おい。入るからな」


 俺は今一度そう宣言してから、扉を開ける。


 窓から差し込む光でなんとか薄暗い部屋の中はわかった。部屋の中は足の踏みどころもないくらいにゴミだらけ……あたり一面、ぐちゃぐちゃだった。


 そして、部屋の隅のベッドでもぞもぞと動いている影がある。


「部屋……掃除していないのか?」


 俺がそう言うとベッドの中から顔が出てくる。長い黒髪もぐちゃぐちゃ……というか、ボサボサだった。


「……アンタに関係ないでしょ」


 そう言って、冷たい調子で言われてしまう。しかし……今日は引き下がらない。


「……関係ある。お前は俺の幼なじみだ」


「幼なじみ? フッ……私が苦しいときに、何もしてくれなかったのに?」


 その通り。俺は……こいつが苦しい立場に居るときに、何もしなかった。


 それどころか、俺はこいつと距離をとった。自分が安全でいるために。


 結果として彼女と俺の関係は……この部屋のようにぐちゃぐちゃになってしまった。


「……そのとおりだ。俺は……何もしなかった」


 そう言って俺はぐちゃぐちゃの部屋に座り込む。幼なじみも、ベッドから出てきた。


「……そうだよ。アンタは何もしなかった。なのに……なんで今さら私のところに着たの?」


 そう言われて俺は何も言わずに、手にしていた袋に、ゴミと思しきものをどんどん入れていく。


「ちょ……な、何してんの?」


「……片付けているんだよ。この部屋を」


「勝手なことしないでよ! そんなことされたって、もう……!」


 そう言って彼女は俺の腕を掴んできた。俺は彼女のことを見る。彼女は目に涙をためて俺を見ていた。


「……部屋だって、少しずつきれいにすればもとに戻るんだよ」


 俺がそう言うと、彼女は静かに泣き始めた。俺は優しく彼女の肩を叩く。


「……少しずつ、元に戻していこう」


 こうして、ぐちゃぐちゃになった部屋と、俺と彼女の関係は、少しずつではあるが、ゆっくりと、綺麗になるように、歩み始めたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぐちゃぐちゃの部屋と俺と彼女 味噌わさび @NNMM

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ