Water!
タナカ
Wave 1
ハワイにて。
—波を切る音
実況
「おーーっと! ここでやっと4位に押しやられた海堂選手が動くぞ!!」
小さな波なんていらない。
実況
「おっと? 今のは良い波だったんですがねー。海堂選手避けちゃいましたねー」
もっと大きい波が欲しい。
実況
「めちゃくちゃでかいビッグウェーブが後ろからやってきますよ!! 1位のリー選手は挑戦するようです!」
俺が欲しいのはこんなんじゃない。
実況
「海堂選手、またまたこの波もかわしていきます! 勝つつもりあるんですかねぇ! おっとここで1位のリー選手は再び高得点を叩き出しました!」
もっと。もっと大きな波だけを寄越せっ!
実況
「な、なんてことだ! 海堂選手! 更に後ろからきたとんでもなくでかい大波に挑戦するつもりか?! 危険だ! やめた方がいい!」
こんなもんか、ハワイっ!
実況
「海堂選手! 大空に舞い上がった!! 無限にも思われるほどの回転だーっ!」
もっと、もっと高くっ!!
実況
「海堂選手! とんでもない高さからの着水に成功しました! そして大波の中を滑走していきます! この波はまるで葛飾北斎!!」
もう少しだっ! もう少しっ!!
実況
「大変なことが起きたーーっ!! あの大波を乗り切った!! これは文句なしの満点!! 海堂選手! 1位に躍り出ました!!」
—歓声
実況
「ヒーローインタビューです! 海堂さん! やりましたね!! ぶっちぎりの高得点です!!」
海堂
「低いっすね」
実況
「低い? とは?!」
海堂
「もう行っていいっすか?」
実況
「出ましたっ! 海堂選手のオーヘー!」
歓声
「「カイドー! カイドー!」」
ハワイナショナルサーフグランプリ 優勝者
海堂翠華
サーフィンが全てだ。
SUP、カヌー、釣り、ダイビング。
そんなの全部生ぬるい。
サーフィンが至高でサーフィンだけが1番イケてる。
他の競技なんて逃げだと思ってた。
「きゃぁぁぁあああ!!」
その日、大会終わりのビーチで遊泳していたベイビーが離岸流に流された。
ボードを手に取り海原へと駆ける。
俺の速さならどんな泳ぎより速い。
俺がいて良かったなこのガキンチョ。
ボードに乗り込み水面を切るようにして走る。
もう少しで手が届く。
そう思ったのも束の間、奥の方から大きな音が聞こえた。
それはゆっくりと、ただ着実に大きく成長する。
今年1番、怪物級の大波だった。
まずい、早くしないとベイビーが巻き込まれる。
ベイビーはすでに大波に持ち上げられ、波の頂点へと迫っている。
ボードを大きく傾け、飛び上がった。
波の頂点から落ちそうなベイビーをキャッチする。
空中で子供を抱える。
しかし、今気づいた。
今回の大波はいつもの波とは訳が違った。
とんでもない高さを飛んでいた。
空中で突風に煽られ、ボードが飛んでいく。
乗りこなせなかった!! このおれが!!
ベイビーの頭を抱えて着水の準備をする。
落ちていく2人。
終わった。
運が良ければケガ、悪ければ2人とも死亡。
あー、こんな終わりってあっけねぇんか。
茫然自失で落ちていく。
落下の恐怖で目を瞑った。
その瞬間——
「ヘーーーーイ! アローハー! アーユーオーケー? ユー達、生きてるカーイ!」
俺ら2人はロン毛の外国人に抱えられていた。
そいつは俺よりも上手く波を乗りこなし、俺よりも早く海を進んでいく。
しかも足元を見るとボードなんて代物はなく、そこにあったのは木の板だった。
「ボーイ! ユー達よくやったよ! あとはミーにまかせてー!」
とんでもなくふざけてる。
しかし、着実に浜へと近づいていき、やがて岸に到着した。
「大丈夫かいキッズ! もう怖くないドントクラーイ!」
海堂
「あんた…一体何者…なんだ?」
ロン毛
「ミー? ミーはウォーターマン!」
海堂
「…は?」
歓声に包まれていて上手く聞こえない。
ロン毛を囲う観光客。
俺がこうなるはずだったのに。
「マウイー! 海の男! ありがとう!」
「さすがだぜウォーターマン!」
海堂
「ウォーターマン?」
これが彼との出会いだった。
Water! タナカ @reek-2023
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