ぐちゃぐちゃと

三夏ふみ

ぐちゃぐちゃと

、引きずる湿った足取りが徘徊する。


地下牢の中で横たわる彼女だったもの、後ろ手に縛られた手首が痒い。


そもそもこんな所、来る気はなかったんだ。


いくら過去を反省しても、今は戻らない。


思考が淀む中、拓也はそれでも過去に逆上る。無駄だと分かっていても。あれはそう、




「はぁ?なにそれ」


大学で知り合った茜と、その幼馴染の尾形、尾形の彼女の玲奈、そして金子。

ネットで拾ってきたという幽霊屋敷の噂。そこに行こうと持ち掛けたのは尾形だった。


「俺さ。始めた訳よYou Tube?頼むよ付き合えって」

「なんで俺が……」


尾形の横に佇む茜を盗み見る。あちらが透き通ると思わせる程の白い肌が、現実感を狂わせる。


「頼むよ。そうだ、ギャラ出すからさ。お願い、この通り」


薄っぺらい懇願こんがんに渋々頷く。


「やった。ありがと。やっぱ持つべきは友達だよな。助かるよ」


そう言うと足早に立ち去る。


「あ、そうそう。映研のカメラ。あのゴツいの持って来てよ。頼んだよ」





その後はお決まりのパターンだった。

初めに気がついたのは金子だった。僕らの他に誰か居ると。

早く出ようと中止を提案するが、尾形は聞き入れない。軽薄に軽快なお喋りを続け、大きな額縁が飾られた中央階段を上がり、左手からひとつひとつ部屋を開けて行く。

他四人とは対象的に陽気に進む尾形が、四番目の扉を開けると頭が砕け飛んだ。


玲奈の悲鳴。全員パニックで元来た道を走り出す。赤絨毯が伸びる廊下を走り、中央階段まで差し掛かった時、そう、奴が現れた。


引きずる湿った足取り、異様に丸まった背中、手には巨大なハンマーが、床をこ削ぐように付いてくる。


半狂乱の玲奈が尾形が吹き飛んだ方へと走り出す。手前の扉が開き、玲奈の胴体が拉げる。階段下の、あれはひとりじゃない。


静止した手を振り払い金子が玲奈に駆け寄る、無警戒に。上がる悲鳴。


茜の手を取り反対方向へ。動け動け俺の足。もたつきながらも走り出したところで宙を舞う感覚。抜けた床に引き摺り込まれる、奈落の底へと。




「うん、そう。拓也君も占ってあげようか」




そうだ、思い出したタロットカード。茜のそれを一度だけ見たことがあった。中央階段の大きな額縁に描かれたていた、あれは。


足音と共に聞こえるしゃがれた声。舌足らずなその響きの意味がようやく聞き取れる。違ったんだ、聞き間違いだった。奴らはこう言っていたんだ。


愚者ぐしゃ愚者ぐしゃ





引きずる湿った足取りが徘徊する。呟きながら、

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぐちゃぐちゃと 三夏ふみ @BUNZI

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説