シスターミリアの愛は最後まで分からない

どこかのサトウ

祈り

 シスターミリアは、未来の勇者と呼ばれる聖女たちを育てるシスターである。


 聖女たちの成長を見守り、迷えば寄り添い、立ちはだかる壁を前に苦しむならば彼女たちに助言を与え、その苦難を乗り越えれば共に喜びを分かち合う。教職という立場に彼女は誇りを持っている。


 だが生徒たちにとって、彼女は決して良き先生とは言えなかった。他の生徒からはハズレと言われることもある。


 そう、彼女はとても厳しいことで有名なのだ。彼女が担任だと知った聖女たちはまず神に祈る。


 だがその祈りは無駄に終わる。他のクラスの担任が求めるそれ以上のものを、彼女の生徒たちは求められる。神に見捨てられた聖女たちと、他のクラスの聖女から同情されるほどに。


 それでも——彼女の生徒たちは、誰一人欠けることなく扱きに耐え、今日、卒業という日を迎えた。


「よく頑張りましたね。私は貴女たちを誇りに思います」


 彼女は自分が受け持った生徒たちに、そう切り出した。始業式と比べれば、いや他の先生方が受け持つ生徒たちと比べても、彼女たちの表情はとても引き締まっていると彼女は思った。


 目の前にいる教え子たちの見違えた姿を見て、重責から解放されたと彼女はようやく微笑むことができた。


 彼女たち聖女はこの先、勇者として破邪の力を振るう。そこは相手の命を奪い合う、生きるか死ぬかの過酷な戦場。甘えは絶対に許されない。


「私は貴女たちの良き師とは、決して言えなかったでしょう。ですが、私が勇者として活躍した経験や知識、そして後悔や過ちを——私のすべてを貴女たちに伝えたつもりです」


 彼女は右手を胸に手を当て、彼女たちに語りかける。


「どうか、死なないでください——」


 彼女の生徒たちは、卒業式で涙を流す。


「どうか、生きてください——」


 顔をぐちゃぐちゃにしながらみっともなく。


「どうか、後悔のない人生を——」


 シスターミリアは十字を切り、祈る。


「神よ、どうか愛するこの子たちを守りたまえ——」


 卒業式の日に、生徒たちは彼女の愛の深さを知る。


 卒業後、彼女の教え子たちは皆、口を揃えて同じことを言う。もっと先生の生徒でいたかったと。


 終わり

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