【KAC20233】突然来たハル

香アレ子

第1話

 それは突然来た。もうぐちゃぐちゃだ。

 なんて事はない。ただ喉が渇いたなぁとスポドリをあおる友人を見ていたら、「お前も飲む?」と差し出されただけだ。

 飲みかけのペットボトル。なんて事はない。それなのに、なぜか急に、信じられないほど恥ずかしくなったのだ。

 顔が熱い。多分、すぐ前にいるコイツに分かるくらい、赤くなっていると思う。

 なぜ俺は、間接キスだななんて、しょうもない事を考えたのか。コイツのちょっとカサついた唇が気になって仕方ない。

 あれ、どんな感触なのかななんて考えたのは、きっと気の迷いだ。男とキスをして何になるんだ。むしろ、それを想像したオレ自身が信じられない。

 コイツは男だ。オレと同じ。小学校からずっと一緒の腐れ縁。まぁ多分、仲が良い方の友達。だからって、親友とかではない。

 今はクラスが一緒だからよく話すけど、そうじゃなかったら、すれ違ったら軽く挨拶する程度。良いヤツだし、好きか嫌いかで言ったら好きの部類だけれど、絶対そういう好きじゃない。

 はずなのに、なぜかオレは急に、コイツの唇が気になって仕方ない。

 意味が分からない。オレの中がひっくり返ってぐっちゃぐっちゃになったみたい。

「あ〜、他人が口つけたものダメなタイプ?」

 慌てて首を横に振ってから、ペットボトルを受け取った。どういう心境になるかは分からないが、ままよと勢いよく口を付ける。

 クチの部分に歯が当たって、カツンと音がした。地味に痛い。

「そんなに喉乾いてたのかよ」

 コイツは笑うと顔がくしゃりと崩れる。全力で笑っているところが好きだ。

 好き……好きなんだろうか? オレがコイツを?

 ペットボトルが奪い返され、コイツがまた口を付けた。何口か飲む。

「間接キスだな」

「なっ……!」

 なんて事を言うんだ。気にしないようにしてたのに。コイツが変な事を言うから、余計に変な気分になるだろうっ。

「間接じゃない方が良かった? 顔が真っ赤だ」

 コイツの顔が近づいてきて、コイツの乾いた唇がオレの唇に重なった。思ったほど硬くないのは、オレの唇が湿っているからかもしれない。

 顔を離したコイツがくしゃりと笑った。

 オレはもう、ぐちゃぐちゃだ。

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