虹色猫の絵

LeeArgent

虹色猫の絵

 マキちゃんはぐちゃぐちゃに色を塗っている。クレパスを何本も何本も使って、虹を丸めたみたいなぐちゃぐちゃを、画用紙に書いている。


「何してるの?」


 聞いてみても、あーとか、うーとか、そんな返事しかしてくれない。

 

 マキちゃんは、私の従姉妹で同じ歳。でも頭は私よりずっと小さい頃のまま止まってる。

 

 私は、マキちゃんのお姉ちゃん役をやらされることが多くて、正直やだなって思ってた。

 だって、私とマキちゃんは同じ歳。同じ遊びができなくて、よくわかんない絵を描いてばっかりなんて、私つまんない。


 気まぐれに、私もクレパスで落書きした。

 絵はそんなに上手くない。だけど、マキちゃんのぐちゃぐちゃよりはマシじゃない? なんて思いながら、私は拙い猫の絵をマキちゃんに見せた。


「マキちゃん、ぐっちゃぐちゃのそんなのより、可愛い動物描いたら?」


 見本にしていいよって、マキちゃんの絵の隣に猫を置いた。マキちゃんは私の顔を見ると、ニコッと笑って猫を指差す。


 突然だった。マキちゃんは、自分で書いたぐちゃぐちゃを、黒のクレパスで塗りつぶし始めた。

 私、マキちゃんが何してるのかわからなくて、びっくりして。


「え? や、やめなよ、折角描いたのに」


 思わずそう声をかけてた。


 だけどマキちゃんは笑ってるんだ。ニコニコって。


 マキちゃんは、筆箱から何かを取り出した。先が細い彫刻刀だ。

 ゆっくりと、慎重に、マキちゃんは塗り潰した黒いクレパスを削っていく。


 その行動の意味がわかんなくて、私は黙って見つめてた。


 削った跡は線になる。

 丸い顔に、三角の耳。スラリと滑らかな曲線の体。力強い両目はまん丸で。ふっくらとした口に、細かな髭。

 背景にはたくさんの花。コスモスだ。


 その線は虹色。さっきぐちゃぐちゃに塗ったクレパスの色。


 黒い背景色に、虹色の線で描かれた猫。あんまり綺麗で、私はあんぐりと口を開けた。


 後で知ったんだけど、「スクラッチアート」っていう名前らしい。

 私なんかより、マキちゃんは絵が上手いんだ。


 私は恥ずかしくて仕方なくて、顔をうつむかせた。

 マキちゃんを下に見て、見くびっていた自分は、なんてバカなんだろう。


「あーい」


 マキちゃんが、私に声をかける。

 私はマキちゃんを見た。


「えへへ」


 マキちゃんは、私にスクラッチアートを差し出した。


「くれるの?」


「んー……こーかん!」


 マキちゃんは、私が描いた猫の絵を指差す。それと交換したいということなんだろうか。


「あ、ありがとう……」


 私がスクラッチアートを受け取ると、マキちゃんは黄色い声を上げながら、私が描いた猫の絵を抱きしめた。





 今でも、その時のスクラッチアートは、私の部屋に飾られている。

 私の苦くて温かな思い出として。


^..^

『虹色猫の絵』

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