第20話 全貌
結局剣舞大会はルナの優勝で終わった。基本学生の魔剣士見習いは傭兵にも勝てず、魔剣士に勝つなど絵空事だと言われている中、誰一人この結果を疑わないのは、やはり剣聖という肩書きがあるからだろう。
そして新しい日が始まり、まだまだ学園生活は続く。何事もなければ三年間この学園に居続けるのだから、気が遠くなりそうだ。
まあ、こんな生活はしたことがないから、そう退屈ばかりというわけでもなさそうだけれど。
そしてこの日、ブルー生は入学式に使われたホールに呼ばれた。
しばらく座っていると一人が壇上に登った。学園で数回見たぐらいの男だ。
「この度、ブルー生に集まってもらったのは、これから本当の入学式を行うためだ。まずは、おめでとうと言っておこう」
パチパチと拍手をする。ずいぶんと上から目線の態度だ。癪に障る相手には、本当に癪に障ると思う。
「君達は、この学園の生徒として生活していく。そして君達はこの学園で行われる試験を受けていくことになる。すでに一度、君達は受けているだろう」
そういえば、月に一度くらい試験が行われるという話しだったか。
「基本的には、月に一度行われるが、特別な行事が行われる月には試験は行われない」
なるほど。なら、年度に十二回の試験が行われるというわけではないのか。
「それと、この学園では、生徒達をただ育てていくわけではなく、同時に不要な人材を切り捨てていく。次の試験からは、それがあらわになっていくだろう」
そういうと、彼は懐から一つの金貨に似た、黒いものと赤いものを取り出した。
「この学園では、生徒達に順位をつける。この黒貨と赤貨でな。黒貨はプラスの評価を示し、赤貨はマイナスの評価を示している。試験で良い結果を出せば、黒貨が与えられる。逆に悪い結果を出せば、赤貨が与えられる。こうして生徒達には、評価が与えられる」
競争か。生徒同士で争わせて、成長を促す。周りが成長すれば、自分も成長しなければ、この学園で生き残れない。面白い教育の仕方な気もする。
「一つの黒貨で一評価、一つの赤貨でマイナスの一評価としている。黒貨一枚の評価を受けているものが、赤貨一枚の評価を受けた場合、黒貨を一枚没収するという形を取る」
なら黒貨を持っている人間が赤貨を持つことはなく、赤貨を持っている人間が黒貨を持つことはないのか。
ただ、普通に評価を表すのであれば、二種類用意する必要はない。何かあるはずだ。
「黒貨は無限に増え続ける。だが赤貨は別だ。赤貨には上限が存在する。二十枚だ。この枚数を超えて赤貨を獲得してしまった場合は、その者は退学となる」
そんなことだろうとは思ったけど、これで余計に競争は激しくなりそうだ。評価が下がるだけなら、最悪問題ないが、一定以上下がると退学になるなら死にものぐるいに研鑽に励む者もいるだろう。
「ちなみに生徒間での黒貨の受け渡しは自由である。つまり赤貨が二十枚を超えた者に誰かが黒貨を譲渡すれば、退学を回避することができる」
クラス内外で友人を作っておけば、困ったときに助けてもらえるのか。とはいえよほど仲が良くなければクラス外から助けてもらえることはなさそうだけど。
「まあ、退学にならないよう頑張るのだな。そして、この黒貨を最も多く持っている者達上位五人は最大級の特権が与えられることになる。例えば制限されている門限の解除などが挙げられるな。それからこの後話す行事に関しても、いくらか優先権が与えられる。かといって誰かに黒貨の量を抜かれれば、その特権は無くなるから浮かれることはできんがな」
一貫して上から目線の人物だ。教員の中でも大した強さじゃないのに、そこまで威張った態度ができるのか。位の高さは強さとは直結しない、か。
「続いて、行事についてだが、現状では大きなものは三つほど予定している。今言ってしまえば少し面白みに欠けるから内容を明かすのはやめておこう」
何の配慮なのだろうか。言ってしまえばいいのに。
「さて、こんなところか。ではこの学園の生徒会長から言葉をいただこう」
男が壇上から降りると、今度は一人の生徒が壇上の裏から出てきた。
白い髪で紅い右目と蒼い左目のオッドアイの少女だ。
驚いた。彼女はかなり強い。いくつか年上とはいえ、同年代でここまで強い人間を私は知らない。
「えっと、皆さんはじめまして。私は生徒会長のエルナ・ライムエルです。私の経験から話させてもらうと、この学園はとても厳しいところです。私も何人か友達を失いました。つらい思いや苦しい思いをしたことも何度かあります。きっと皆さんもそういうことを経験するのかもしれません。でも、楽しいこともありました。だから、悔いのないように過ごしてほしいと思います」
そして、彼女は壇上の裏に戻っていった。
「ーーふぅ、疲れたー。私こういうことむいていないのにー」
「ちょ、会長。聞こえる、聞こえますからっ」
「やだー。もう疲れたもーん」
「抱きついて来ないでください! 胸当たってますから!」
壇上の裏から男女の声が聞こえてくる。なんというか、聞こえないふりをしたほうが良さそうな感じだ。
「では、最後に我々の上司にあたる、鬼達を紹介します」
生徒会長が出てきた方と逆側から鬼のお面をつけた人達にが出てくる。
「彼らはいわば『鬼教師』とでもいうべき者達です。この学園で行われる試験は彼らが制作しています」
鬼教師。安直な名前だ。やはり鬼のお面には認識阻害の術が仕掛けられているようだ。
左から青、赤、白、黒、緑、黄、橙、紫の八人だ。
「彼らは王国で何らかの功績を立てた魔剣士達です。認識阻害の術で正体はわからないようにしていますが、表に出てくることはほぼないので。本日もただ挨拶をしに来ただけです」
その中の代表なのか青鬼が前に出てお辞儀をした。前に出会った青鬼と背格好も服装も前にあった時と変わらないから、同一人物だろう。
「僭越ながら、私から挨拶させていただきます。基本的には、私達のことは気にしないでくれて構いません」
紳士的な話し方をする。
「それでは、学園生活をお楽しみください」
再びお辞儀をして鬼達は全員壇上の裏に戻っていった。
「以上で終わりにしたいと思います。ああ、そうそう。本日から上級生達も授業を受けるのでそのつもりでいてください」
そういえば、在校生は休暇が結構長いだったっけ。上級生だからといって威張られると面倒だからいつまでも休暇を取ってくれていてよかったんだけれど。
◆◇◆
解散になり、私は学園の屋上で一人佇んでいた。
さて、これからどうしたものか。退学にならないようにするためには、黒貨と赤貨をコントロールする必要がありそうだ。
退学になると困る相手には、できるだけ逃げ道を作っておきたい。とはいえ、私は積極的に黒貨を手に入れる、つまり高成績を修めるつもりはないから、他力本願にはなるけど。
とりあえず、次の試験が行われないと、どうともいうことができない。どんな試験で、どんな結果でどういう評価のされ方がされるのか。それがわかるのは次の試験だから、今の段階ではなんとも。
それにしても競い合いというのは新鮮な感覚だ。私が受けてきた教育というものはたった一人でひたすら永遠と繰り返されるものだったから。
目を閉じれば簡単に鮮明に蘇ってくる。今となってもいい思い出ではない。ただひたすらにつらい日々だった。
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