ママは魔法使い!

たい焼き。

ママの魔法の手

「ママ!みゆがもつぅー!」

「えぇ~……これは乱暴にしたらぐちゃぐちゃになっちゃうからダメ」

「やああだああ!みゆがもつの!」


 ママはしばらく静かにしていたけど、しゃがんで私の頭を撫でながらジッと目をみてきた。


「これはパパの大事なケーキだから、しっかり持てますか?」

「もてます!」


 ママははぁ~とため息をつくと、「本当に頼んだわよ」と言ってケーキの入った箱を渡してくれた。


「やったー!」


 ママから渡された箱を落とさないように、慎重に持つ。

 ここからおうちまではまだ歩く。落とさないように、落とさないように。

 気のせいかな?ママの顔がきんちょうしているようにみえる。

 そんなママにつられて、みゆもドキドキしながら箱をもつ。



 次の横断歩道を渡ったら、おうちが見えてくる。

 パパのケーキもぐちゃぐちゃにならないで、おうちに帰れそう。


 これで、安心だ。



「ワゥッ!ワフンッ!!」

「!!」


 お散歩中の大きなわんちゃんに吠えられた。

 しっぽがちぎれそうな位、ブンブンと右に左に揺れている。


「これ、落ち着きなさい!ごめんね、ビックリしちゃったわよね~」

「…………」

「だ、大丈夫です!娘もビックリしちゃっただけで、けがもないですし」

「本当にごめんなさいね~」


 ママとわんちゃんの飼い主さんが何か話している。


 それよりも、みゆはパパの大事なケーキを落としてしまった……。

 ママにしっかりもつって言ったのに……。

 パパの大事なケーキ……どうしよう……。


「ぁ……マ、ママァ~!ごめんなざいぃ゛~!」

「大事だったのに゛ぃぃ、落としぢゃっだのおおぉぉ」


 しっかり持てなかったことが悔しくて、パパの大事なケーキを落としてしまったことが悲しくて、感情がごちゃごちゃになって目から溢れ出てくる。


 ママは「大丈夫大丈夫、みゆは頑張って持ってたよ」とみゆの涙を拭ってくれる。

 でも、可愛くデコレーションされていたケーキは落ちた時にぐちゃぐちゃになってしまった。


「パパのゲーギがああぁぁ……」

「よし、ママにまっかせなさーい!」


 ママはみゆを抱っこして、落ちたケーキももっておうちへと帰った。



 ママにもう一度ごめんなさいと言ったら、ぎゅっと抱きしめて背中をポンポンと優しくさすってくれた。


「大丈夫、次はちゃんと持てるよ」

「あとはママの魔法に任せて」


 ママは楽しそうに笑った。



 ◆ ◆ ◆



「ただいまー」

「……おかえりなさい、パパ」

「みゆ~!ただいま~!……どうした?」


 帰ってきたパパを玄関で迎えるのはみゆの役目。

 だけど今日はパパのケーキを壊しちゃったので、なんとなくいつものように迎えられない。

 パパはみゆを抱き上げて顔をまじまじと見てくるけど、何も言えなくて顔を隠してしまった。


「どうしたんだよ~みゆ~」


 キッチンから、ママもやってくる。


「あなた、おかえりなさい。今日はごちそうなんだから、早く着替えてきてちょうだい。みゆ、ママのお手伝いしてくれる?」

「……ん」

「みゆ~どうしたんだよ~」


 ママはみゆをパパからひょいっと奪うと、「さっさと着替えてきて」とパパにいう。


 ママに抱えられたまま、キッチンへいく。


「パパが着替えたら、これをパパのところへ運んでね」

「……ママ、これ……」

「ママの魔法で、みゆが頑張って運んでくれたケーキはグラスケーキへと変身しました!」


 みゆが落としてぐちゃぐちゃにしてしまったケーキは、ママの魔法によって可愛く生まれ変わっていた。


「ママすごい!!」

「ふっふっふっ。ママの魔法でちょちょいのちょいよ」


 そこへ着替えてきたパパがやってきた。


「なになに~?何盛り上がってるの~?」

「パパはきちゃダメ!座って待ってて!」


 今度こそ落とさないように、慎重にパパのところへグラスケーキを運ぶ。


「パパ!お誕生日、おめでとう!!」



 ママの魔法でみゆも元気になって、パパにちゃんとおめでとうを言うことが出来た。



 ママはきっとすごい魔法使いなんだ!

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ママは魔法使い! たい焼き。 @natsu8u

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