第4話 スローライフ




 前回のあらすじ


 無能ということで、田舎に左遷されたルーフェルと護衛で幼馴染のアイシャ。

 そこでルーフェルは、召喚で牛を呼び出し“ルーフェルモーモーパーク”の設立を宣言。


 そして、そのモーモーパークで牛乳の生産と販売を行い、得た資金で“ルーフェルふれあいもふもふ動物ランド”の建設を語る。


“ルーフェルふれあいもふもふ動物ランド”とは、ルーフェルが召喚する可愛い動物達ともふもふ触れ合える施設である。


「え!? そのままじゃないかって? うるさい ぶっ飛ばすわよ!」



 #########



 拝啓―

 穏やかな小春日和が続いております。お父さん、お母さん、アイラ(妹)、猫のミー、元気にお過ごしでしょうか? 私は元気です。


 ルーフェル様とこのドゥンケルラントに来てはや半年。

 こちらでの私の一日の日程は、朝の6時に起床後、身支度を整えて剣の鍛錬。


 その後、朝食を済ませ、牧場に行って姫様と牛や羊の世話をしています。

 動物たちの世話は辛いですが、とても充実しております。


 何より、牛や羊とのふれあいは心が癒され、日々の疲れを癒してくれ――



「いやーーーー!!!」


 牧草を食べる牛達の隣で、アイシャは発狂にも近い悲痛の叫びを上げた。


「私はね! 魔剣士になりたいのよ! 魔王軍四天王になりたいのよ!! なのに、どうして、毎日毎日動物の世話をしないといけないのよーーー!!! もう、王都に帰りたい~~~!!!!」


 そして、緑の牧草が生え茂る地面に転がるとまるで駄々をこねる子供のように、手足をバタバタさせて暴れ出す。


「その彼女の奇行に牛達は特に怯えた様子も無く、牧草をモグモグと食べ続けている。何故ならば、アイシャちゃんの行動に慣れているからであった。だけに!」


 誰に向けてかは解らないが、ドヤ顔でそう呟くルーフェル。


「うるさいのよ! 全然上手くないのよ!! あと、誰に言っているのよ!!?」


 発狂していても、ツッコミはきっちりとこなすツンデレ少女。


 彼女はツンデレで口も悪いが律儀で優しい子なので、何だかんだとパーク(牧場)の手伝いをしているが、ルーフェルの言う通りアイシャは月一回のペースで、このように現在の境遇と理想とのギャップに耐えきれなくなって発狂しているので、動物たちは慣れているのだ。


 あと、ルーフェルが召喚した動物たちは、普通の動物よりも頭が良いという理由もある。


「そもそも誰のおかげで、こうなっていると思っているのよ!?」

「え~っと… 私のせいかな~」


「当たり前でしょう! アンタ以外にいないわよ!!」


 アイシャはガバッと起き上がると、鬼の形相でルーフェルに詰め寄る。


「ごめんなさい……」


 その迫力に押され、ルーフェルは素直に謝りだした。

 アイシャは作業服に付いた牧草を払いながら、大きくため息をつく。


「まったく……」


 そして、先ほどまでとは打って変わって落ち着いた表情になり、再び大きなため息を吐いた。


 ドゥンケルラントに来て早半年―

 その間、ルーフェルは一日二回の召喚で、牛を300頭 羊を35頭 牧畜犬10匹 牧畜猫5匹を呼び出していた。


「この牧場もかなりの規模になったわね。ねえ、売上はどんなモノなの? 中央に返り咲けそうなの?」


 アイシャは、牧場を見渡しながら尋ねる。


 ルーフェルの呼び出した乳牛が生み出す牛乳は、とても美味しく口コミでどんどん広がりその売上で今やルーフェルモーモーパークは、その名に恥じない広大な敷地面積を保有する施設だ。


「そうですね…。中央の偉い人達への賄賂が、牛乳でいいなら戻れますよ?」


 そんなアイシャを、ベルルがジト目で見ながら答える。


「お金に決まっているでしょうが!」


 アイシャは即座に突っ込みを入れた。


「お金ですか……。無理ですね。我がパークにそんな余分な資金はありません」


 ベルルは顎に手を当て考え込むが、直ぐに結論を出す。


「この半年でパークの売り上げは増えています。ですが、それは動物達の餌代、従業員の給料、設備投資などで消えており、とても中央の貴族達に贈れるほどの金はありません」


 頭数が増えれば牛乳や羊毛の生産量は上がり売上も上がるが、当然その分エサ代と世話や搾乳の仕事量が増え、その分人を雇わなければならないし施設面積も拡大させねばならいので、余分な資金は無いのだ。


「いや~ 牧場経営って難しんだね~」

「わたくしも商売というものを甘く見ていました」


 ルーフェルとベルルは、二人でうんうんと納得している。

 二人の能天気さに、アイシャは再び大きなため息をついた。


 因みにベルルの手には、“良い子の牧場経営入門”が握られている。


「しかも、チーズ加工場を建てからね~」


 牧場の片隅では現在チーズ加工場が建築されていて、その2階建てのチーズ工房を見ながらルーフェルは呟く。


「何本格的に酪農事業をしようとしてんのよ!?」


 アイシャはそう突っ込むが、べルルはその説明を始める。


「アレが完成すれば、余剰気味の牛乳を保存の利くチーズに加工できるので、より儲けを出すことが出来ます」


 氷魔法で保冷して運搬しているとはいえ、どうしても消費期限は限られるので、売上を増やすには日持ちする製品が作れるのは大きい。


「それに美味しいチーズが製造できれば、それを賄賂に使うことが出来るかも知れませんよ? チーズは、料理はもちろんのことお酒(魔界ワイン)の肴として、需要がありますので」


「確かに! お父様やお母様も晩酌の時に、チーズを食べていたわ!」


 ベルルの説明にアイシャは納得する。


牛達アンタたち頼むわよ~。アンタ達の牛乳に私の未来が掛かっているんだからね!」


 そう言いながら、牛をブラッシングするアイシャ。

 すると、牛達はアイシャの言葉を理解したのか、任せろと言わんばかりに“モー”っと鳴く。


 ルーフェルが呼び出す乳牛は特殊で、頭が良い意外にも出産しなくても牛乳を出すことが可能で毎日二回分の牛乳を生産しており、微妙にチートな牛である。


 だが、魔界ではまだまだ”力こそ正義”という考えが根深くあり、この牛も召喚したルーフェルも評価されておらず、その彼女が追放された理由もこの思想からであった。だからこそ、アイシャは剣技を磨いて、四天王になりたがっているのだ。


「ところで、ルーフェル様。差し出がましい事をお尋ねしますが、どうして肉牛を召喚なされないのですか? その方が儲かると思いますが?」


 牛の世話をしながら、デスセバスチャンが尋ねてきた。彼は手が空いた時に、こうして牛の世話を手伝ってくれている。


「そんなの可哀想だよ!」

「そんなの可哀想よ!」


 すると、ルーフェルとアイシャの声が重なった。


 彼女達にだって解っている。自分達が普段食べている肉が、誰かが育てて屠殺し解体した物で、この意見が完全なる偽善でありエゴであるということも…。


 だが、彼女達はまだ15歳の少女なので、自分達の目に見える範囲で自分が呼び出して世話した動物の命を奪うという事は、今はまだ容認できなかった。


「このデスセバスチャン。浅はかでありました。申し訳ございませんでした」


 デスセバスチャンはそう言って頭を下げ謝罪する。

 今はまだその慈悲の気持を大事にするべきだと考えたからだ。


「気にしないで。私達の考えが甘いのは事実だし……」

「うん……」


 アイシャは恥ずかしそうに俯き、ルーフェルは元気なく答える。


 すると、そこに対象的に明るい声が響く。


「おねえさまーーーー!!」

「えっ?」


 その方向を見ると、こちらに向かって走ってくる一人の女の子の姿があった。

 それはルーフェルの妹にして、現時期魔王候補のサターナであり、彼女はルーフェルの元まで駆け寄ると、そのままの勢いで抱き着いた。


「会いたかったですわ~ お姉さま~」

「ちょ……ちょっと~ いきなり飛びつかないでよ~」


 妹に強く抱きしめられ、顔を赤くしながら困った表情を浮かべる姉。


 サターナはルーフェルの2歳年下であり、姉同様母親譲りの美少女で綺麗な銀髪を腰まで伸ばしており、性格は天真爛漫で甘えん坊だ。そして、姉であるルーフェルが大好きで、こうして王都から会いに来たのであった。


「だって、お姉さまと半年も会えなかったんですもの~」

「サターナちゃんは、相変わらず甘えん坊さんだね~」


 そう言いながら、妹の頭を優しく撫でるルーフェル。


「それよりもお姉さま酷いですわ。この半年間全く王都に帰ってこないんですもの」

「しょうがないよ~。お姉ちゃんは、ここに追放されたんだから」


 そう答えながら、ルーフェルは苦笑いを浮かべる。


「なので、私から会いに来ましたわ~」


 満面の笑みで、そう答える妹様。


「サターナちゃん。お父様とお母様の許可はちゃんと取って来たんだよね?」


 ルーフェルがこのような質問をしたのは、次期魔王候補の彼女の護衛が一人しか見当たらないからだ。


「もちろん、無許可で来ましたわ~。だって、お父様が許してくれないんですもの~」


 姉の質問に、再び満面の笑顔で答える妹様であった。


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